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第1章 天使か悪魔か
(2)
しおりを挟む「先生! イーサン先生、これはいったいどういうことですか?」
「うるさいなあ、おばはん、なんだよ」
「お、おばはんって! あんたこそ誰よ!?」
体が固まっている。あのまま僕は眠ってしまったのか。朦朧とする意識の中で、ジュリーと、多分ジョシュアが怒鳴り合っている。そうか、彼は無事目を覚ましたんだな。
「やあ、おはよう、ジュリー」
「先生、おはようじゃないですよ。これは一体どういうことですか?」
相変わらず新聞を握りしめ、怒った顔を見せている。ジュリーは確かにおばさんと呼ばれる年代ではあったが、小綺麗ななかなかチャーミングな女性だ。
既に子供が二人もいるが、見ようによっては独身にも見える。見も知らずの若い男におばはんと言われては腹も立つだろう。
「彼は昨日、嵐の中やってきた急患だよ」
「そう、患者だよ、丁寧に扱ってよ」
口の減らない青年のようだ。僕は唇に人差し指を立て、黙るようにとジェスチャーをした。彼は不服そうな顔をしたが、なぜか頬を少し赤らめて口を閉じた。
「しばらく入院させないと。かなり出血していたからね」
「先生、こんな、誰ともわからない子を……それとも、ご存じなんですか?」
ジュリー看護師はこちらも憮然として言う。確かに彼女の言う通りだ。だた、医者として怪我人を放ってはおけないだろう。
「話は追々聞いていくよ。彼は……ジョシュアと言うんだが、僕が医者だと知っていたようだしね」
「わかりました。で、入院ってどこに寝かすんですか? ここには診察室しかないですよ」
「それは大丈夫だ。僕の両親が使っていた部屋があるから、そこで寝てもらうよ」
そう言って席を立つと、彼をシーツごと抱きかかえた。身長は僕より十センチほど低いだろうか。軽々と、とはいかないが、なんとか大丈夫そうだ。
「先生、意外に力持ちだね」
と、ジョシュアは僕の首に細い両腕を巻き付けて言った。
「嫌ですよ。なんだか、見てられないです!」
何を思ったのかジュリーは真っ赤な顔でプリプリと怒り出し、診察室から出ていってしまった。
「あれ? なんだ。どうしたんだろう」
「先生」
「ん?」
「先生、ハンサムだね。長い髪も細い顎も俺は好きだ。そのグレーの瞳も理知的だし」
間近で見るジョシュアはほとんど人形に見えた。透けるような肌と宝石のような青い瞳を僕に向けている。そしてからかうような口調でそう言った。
肌が透けるように白いのは、貧血のせいだろう。それでもなんだろう、心がざわつく。
「大人をからかうもんじゃない。君は怪我人ということを忘れるな」
彼は口角を上げて大人しく頷くと、僕の肩に自分の頭を甘えるように預けた。僕の胸の中で、何かが少しだけ跳ねとんだ。
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