35 / 70
第6章 イーサンの苦悩
(11)
しおりを挟む姉の一家が二頭立ての馬車に乗って帰っていった。フランクは最後までジョシュアと離れるのを嫌がったが、また夏には会えるからと言われてようやく客車に足を運んだ。
「イーサン、貴方を信じてるからね」
「え? なんのこと」
「いえ、なんでもないわ。体に気を付けて」
「ああ、姉さんたちもね」
最後の言葉、姉が何を言いたいのか、僕は何となくわかる気がした。姉は僕がジョシュアに寄せる気持ちをわかってしまったのかしれない。
でも、そこには何の根拠もないはずだし、僕もそれを白状するつもりは毛頭なかった。言ってしまえば僕たちは引き離されてしまう。そんなことはさせない。
「どうしたの? イーサン。疲れた?」
自分の家族とは言え、いつもの倍は疲れていた。一緒に後片付けをしているジョシュアにそう尋ねられ、正直に首肯した。
「疲れたよ。姉家族の相手は毎年疲れるからね。楽しくもあるけれど、複雑なところだ」
「じゃあ、少し休もうよ。俺も疲れた」
ジョシュアはほとんどフランクの相手を一人で担っていた。元気な五歳の男の子の相手は間違いなく疲労を彼にもたらしただろう。僕たちは暖炉に火をくべ、絨毯の上にクッションを並べてそこに二人で寝転がった。
夕暮れはすぐに夜を誘うだろう。しまいかけのクリスマスツリーのオーナメントが転がっている。暖炉の炎を写す丸い球がきらきらと光っていた。
「もう少しそばにおいで」
いつもなら横にピタリと来るジョシュアが、なぜか体一つ分ほど離れて横になっていた。
「うん。でも今は駄目」
「なんだ。どうした?」
僕は顔を彼の方に向ける。鼻筋の通った綺麗な横顔が見える。長い睫毛が瞬きの度、リズミカルに上下していた。
「今、考えてるんだ」
「何を?」
「イーサンが俺の後見人になった時の事」
今朝、彼に告げた『後見人』の話。彼は涙を流して喜んでくれた。『俺のことをしっかりと考えてもらったのは初めてだ』と。
「どうだった?」
「イーサンも俺もシックなジャケットを着てね。弁護士さんのところで待ってるんだ。そして、イーサンが勿体ぶってこう言う。『ジョシュアの後見人を務めます』って」
「そうだな。そういうふうに言うかな」
「言うよ。きっと」
ジョシュアが僕の方に顔を向けた。金色の髪が揺れ、彼の頬に落ちる。青い瞳がオーナメントのように輝いた。
「弁護士さんが『わかりました。ジョシュア君。それでいいね?』って聞く。俺は……」
「俺は?」
「何て言おうかな」
「おい!」
面白がって笑いだすジョシュアの手を僕は引っ張った。ジョシュアは引っ張られる力そのままに僕の方に寄ってきた。そして僕の左肩に頭を乗せ、いつものようにぴったりと体をくっつける。
「お願いします」
「ん?」
「はい。よろしくお願いします。って頭を下げるんだよ。帽子を被っていたら、それを取って、お辞儀をするんだ。それで、お願いしますって……」
僕はジョシュアの細い顎に右手を添え、そのまま唇を寄せた。まだ何か言いたそうだった彼の唇は僕に絡めとられ、くぐもった音に変わる。
「イーサン……イーサン……」
僕の名を喘ぐように呼ぶジョシュア。蠢く舌を吸うように食むと、体中が痺れるような感覚で満ちていく。暖炉の薪が弾ける音と僕らの激しい息遣いだけが部屋を満たしていった。
10
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。
山法師
BL
南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。
彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。
そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。
「そーちゃん、キスさせて」
その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)
藤吉めぐみ
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。
そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。
けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。
始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる