【完結】寒風の吹く夜僕は美少年を拾った~砂糖菓子のように甘く切ない恋の物語~

紫紺

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第9章 誤解

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 僕が帰ってくる時間を見計らって手首を切ったのだろう。だが、たとえ狂言だとしても傷は浅くなかった。
 もしもう少し遅れていたら。そう思うと僕は心底ゾッとする。診療所も休みにして、僕はジョシュアにつきっきりで看病した。

 流れていた血が止まり、ようやく危機を脱したのは夜も更ける頃だった。僕は血液を作るための魚介のスープやチーズをジョシュアに食べさせた。

「ありがとう……お腹空いた」
「全く……一時はどうなることかと思ったよ」

 僕は湯気で曇る眼鏡をはずし、白衣で拭く。ジョシュアはソファーに起き上がり、スープを美味しそうに飲み干した。

「えへへ」
「えへへじゃない! こっちは生きた心地がしなかったんだ。もう、絶対しないでくれ」

 それはもう懇願だった。こんなこと、2度と嫌だ。

「マリアから聞いた? 俺のこと」
「ああ。君、あのお屋敷で働いているんだって? これは、ジュリーに聞いたんだけどね」
「そうだよ。イーサンが言ったんじゃないか。何か仕事をした方がいいって」

 確かに僕はそう言った。僕の家政婦じゃなく、ちゃんとした仕事に就くことも大事だと。 

「だから……気が進まなかったけど、マリアのお屋敷に行ってたんだよ。ジュリーが口をきいてくれたんだ」
「どんなことをしていたんだい?」
「厨房で見習いをしてただけだよ。芋剥いたり、豆の筋を取ったり、そんな簡単なことから始めて。でも、最近はお菓子を作らせてもらってたんだ」

 ジョシュアはまだけだるさを残しながらも嬉しそうに言った。恐らく、彼は本当に嬉しかったのだろう。誰かに認められ、誰かに褒められていることが。

「そうか、良かったな……でも、どうして教えてくれなかったんだ? 教えてくれていれば、あんなことで喧嘩になんか……」
「もうすぐ、給金もらえるんだよ。そりゃ、わずかなもんだけど。俺、まともなことしてお金もらえるの初めてで。イーサンを驚かそうと思ってたんだよ」

 少し俯き加減で語るジョシュアを見て、僕は自分を恥じた。何故、彼を信じてやれなかったのか。
 ちょっとしたことで人の風評に怯え、狼狽えているのはいつも自分だ。ジョシュアは変わらず僕のことを考え、自分の想いに忠実でいようとしているのに。

「ジョシュア」

 僕は彼を抱きしめた。彼の体が負担を感じないように優しく。柔らかい髪が僕の鼻をくすぐる。ただそれだけのことが幸せで、胸がいっぱいになる。


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