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第19話 その続き
しおりを挟む火曜日のジムは舞原さんが張り切ってた。僕に新しいマシンを使わせて、ひーひー言わせるのが楽しいんだろうか。
そりゃ、毎回同じも飽きちゃうし、こんだけ色んなマシンがあるんだから僕も色々やってみたいはある。
「これ、結構キツイよー」
インターバルになるとついつい弱音を吐く僕を、嬉しそうに眺めてる。
「なに言ってんですか。九条さんみたいな体を目指してるんでしょ? これくらいサクサク行かないとっ」
「えーっ!? 筋肉の質が違うって言ったの舞原さんじゃん」
「そんなこと言いましたっけ? ああ、でもそれなりにカッコいい体になれますよ」
それなりね……全く、どうなってんだここのトレーナーは。
結局筋肉を崇拝する人はドSばっかってことだな。けど、この後にはお楽しみがあるんだ。そう思えばドSのトレーニングにも耐えられるってもんだ。
ジムの後、予定が入ってて忙しくても、九条さんはシャワールームでのお楽しみを端折ったりしない。十分に僕を満足させてくれた。そういうとこだよ……ホント、好き。
「来週は時間があるから……けどな……」
駐車場に向かう道すがら、九条さんは言いにくそうに言葉を切った。胸の内が冷たくなる。なんとなく、その続きがわかってしまった。
「その週の週末、俺、フランスに出張だ」
「うん……言ってたものね」
彼が自宅に来襲した頃から、敬語がため口に変わっていった。僕の心境の変化というより、毎晩のように電話してるうち敬語がまどろっしくなったんだ。
「いつ帰ってくるって……聞いていい?」
自分でも少しあざといかなと思ったけど、問い詰めたくはなかった。
「ああ……もうー、可愛すぎるけどな」
エレベーターの中で、九条さんは僕の肩を抱く。
「ひと月……いや、3週間で帰ってくる。必ず」
ぎゅっと腕に力を入れ、耳もとで囁いた。ついでとばかりに耳朶にキス。けどエレベーターはすぐ地下駐車場についてしまって。名残惜しくて、もっとくっついていたいのに、僕は大人のふりして体を離した。
「じゃあ来週」
「ああ、来週楽しみにしてる。夜まで一緒に居られるから」
「うん」
夜までいられる。それは凄く嬉しい。九条さんにずっと触れていられるのだから。でもその後は?
――――その後は、少なくとも3週間はスマホ画面の向こう側に行ってしまう。
切ないけど、今はそんな顔しちゃだめだ。僕は無理やりに笑顔を作って、自分の車に向かった。
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