7 / 96
第1章
6 別の人格
しおりを挟む結局、俺はあいつをアシスタントとして家に置くことにした。アシスタントと言えば聞こえはいいが、主に料理や掃除などの家事担当だ。パソコンは使えるようだから、簡単な入力作業もやらせればいいだろう。
家事は今まで月イチくらいで代行サービスを頼んだり、出前や外食してたので、かなりの節約になる。収支もトントンくらいになるんじゃないかな。
正直、たまにカササギが出てきてくれたらいいのだが。とは空には絶対に言えない。空はカササギの話をあまりしたくないようだ。まあ、それはそうだろう。勝手に出てきて、自分の知らない(たまに知ってるが好意をもっていない)男に抱かれるんだから。
自分の別の人格だといっても、空にとっては自分の体を他人に勝手に使われてる感覚なのだ。しかも、空にはカササギが出てきてる時の記憶がない。引っ込むとき、『交代だ』とか言い残すらしいが、その瞬間が最も恐怖だという。目覚めたくないのが本音だが、起きないわけにいかない。自分の身にどんな危険が迫っているかわからないんだから。
「それなのに、あいつには僕の記憶が筒抜けなんです。こうして、僕がカササギの悪口言ってることも知ってる」
そう苦々しく吐き捨てた。いつも天使のような温和な表情が、この時だけは険しくなった。
――――つまり、カササギが出てくるタイミングはわからないんだなあ。なんかきっかけがあるなら呼び出したいものだが。
なんて俺も呑気なものだな。ただ、ここに居ればカササギを飼ってやれる。空はアシスタントとして生活できるし、福利厚生だって俺が提供できるんだ。
――――とはいえ、医学的には駄目なんだろうな。俺も専門外だからわからないけど、カササギの人格は消滅させるか、空に上手に融合させるのがいいんだろう。
人格が乖離するには、なにか大きな原因があったはずだ。だが、空はよく覚えていないという。その表情から、知ってて隠していると判断した俺は、しつこく聞くことはしなかった。
そのうちカササギが出てきたら聞いてみるかと考えたんだ。乖離して出てきたんだから、そのワケくらい知ってるだろう。
キッチンではエプロンをした空がいそいそと料理をしている。俺はそれを待っているのだが、こんな瞬間が俺に訪れたのも不思議な気がする。なぜか癒されるのを感じていた。
「あ、お待たせしてますね。すぐできますから」
俺の視線を感じたのか、空が笑顔を見せる。あの無垢な表情を見ると、カササギと同一人物とは到底思えない。同じ顔なのに、同じ体のはずなのに。カササギはあの妖艶な視線ひとつで俺の心ををかき乱す。
――――あいつをこの部屋に迎え入れたのは、カササギに対する下心があったからだ。自分に嘘は吐けない。
あの夜、極上の快楽を与えてくれた『カササギ』。あの濃密な時間を俺は欲してる。妖艶な瞳で俺を誘うカササギに会いたい。あの日のように、お互いの体を貪りあいたい。
「お待たせしました。今日はチキンの塩麴漬け焼いてみました」
「へえ。これはまた美味しそうだな」
「健康にもいいんです」
食欲をそそるいい匂いが俺の鼻孔から幸福を脳に伝えている。空はカササギとは真逆で、俺の心を穏やかに、平らかにしてくれる。それもまた得難い瞬間だった。
いつものように向かい側に座る空。屈むとき、Tシャツの襟ぐりからちらりと華奢な色白の肌が見えた。
――――あ……。
俺はあの夜、気になったことをまた思い出した。カササギの体には、古いものではあったけれど、無数の傷跡が白磁のヒビのように這っていた。
2
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる