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第1章
7 鷹とカササギ
しおりを挟む仕事部屋の温度設定は他の部屋より2度低い。PCやモニターが並ぶ部屋は機械熱ですぐ暑くなる。高温は機器には天敵なので、冷房は欠かせないのだ。
それでも数字やグラフを追ううちに額には汗が滲む。先ほどから降り始めた雨が蒸し暑さを部屋に呼んだ。深夜2時、今夜は海外市場に動きがあり、格闘はまだ終わらない。
トレーダーの宿命とはいえ、地球が回っているのが恨めしく思うこともある。今夜は動かないと踏んで寝る日もあるが、目覚めてがっくりするのも珍しくはない。まあ、また取り返すチャンスはあるので、日々一喜一憂するわけじゃないけれど。
空を拾ってから10日が経っていた。カササギはあれ以来出現していない。物足りない想いは否定しないが、空との同居は意外にも心地いい。俺にしては実に健康的で規則正しい日々を過ごせていた。
――――今夜はこれまでかな。十分収穫あったし、寝るか。
一応、大きく相場が動いた時に鳴らすアラートだけスマホに設置し、俺はシャワーを浴びて裸のまま寝室に戻る。ベッドに体を埋めようと照明もつけずにダイブした。
「えっ! うわっ!」
「いってえ……。なんだよ」
ベッドには先客がいた。俺は慌ててベッドサイドの読書用スタンドをつける。シーツにくるまっていた体をくるりと回転させ、柔らかな茶髪の前髪を掻き上げた奴は、きらりと光る双眸を俺に向けた。
「遅いから寝ちゃってた。お仕事ご苦労様」
「おまえ……カササギか」
あざと可愛いセリフを吐いたが、空のそれとは似ても似つかない。
「ふうん、ちゃんと見分けつくんだ。偉い偉い」
「なに言ってる。おまえ、何しに来た」
「え? 何しにって、ナニしにに決まってんじゃん」
さっとシーツを開け、白い裸体にショーツ一枚の姿をさらす。全裸にバスタオルを首にかけただけの俺の体は正直に反応した。
「ははっ。タカ、若いじゃん」
「うるせえっ! 大人を揶揄うな。大体タカってなんだよ」
俺は照れ隠しに奴の頭をはたく。だが、心臓はドクドクと音を鳴らし、俺の心は既に決まっていた。
「呼び方なんてどうだっていいだろ? 鳥繋がりなんだから」
ああ。どうでもいいよ。
「いいのか、おまえ……」
「ちゃんと空に宿と仕事を与えてくれたんだ。お礼しないとね?」
「お礼?」
俺が戸惑いの表情を浮かべると、あいつはその細っこい両腕を俺の首に伸ばした。
「細かいことはいいじゃん。オレもやりたかったんだ……あんたも……だろ?」
うなじに体重をかけ、俺を自らの体に導く。拒絶する理由はなにもない。そのまま俺はあいつの体に覆いかぶさった。
「そういうことなら……たっぷり礼をしてもらおうか」
俺はあいつの誘う唇を吸いつくす。舌を絡ませ、足も腕も使ってあいつを絡めとる。
「あ……んん」
俺の腕のなかで、あの夜と同様にカササギは身悶えし甘い息を吐いた。
――――たまらねえ……。
俺はこの瞬間を待ってた。あいつの細い腰を両腕で持ち上げながら、はっきりと自覚した。
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