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第3章
7 有頂天
しおりを挟む俺はあいつの顔を見て愕然とした。俺以上に赤くなってる。肌が白いからだろうけど、鼻の頭から頬、耳のあたりまで真っ赤だった。それでようやく、あいつが言わんとしてることが理解できた。
それは、ずっともしかしたらと思いながら、そんなはずはないと否定してきたことだ。自分の気持ちすら、蓋をして見ないふりをしていた。
「多分……おまえと同じだよ。俺の……気持ち。俺もおまえを失いたくない」
それだけ言うのがやっとだった。宗志に投げたみたいでカッコ悪いけど、まだ躊躇していたんだ。このまま突っ走ってもいいのかと。
「なら……」
ベッドのきしむ音とあいつの体が俺にぶつかってくるのが同時だった。俺は自分のベッドに仰向けに倒れた。
宗志は俺をじっと見つめている。切れ長の形のいい双眸は、言葉よりも雄弁に語っている。俺はあいつの頬に手を伸ばす。
「宗志……い、いいのか?」
「僕が気付かなかったとでも思うのか? 死にかけないと……正直になれないとか」
「それは、お互い様だっ」
俺に覆いかぶさっていた宗志を、乱暴にひっくり返し、自分が上になった。俺の影の中にいる宗志は、赤い頬のまま俺を見上げている。上下する胸から高まる心臓の音が聞こえそうだ。実際、俺の耳には自分の心臓が飛び出しそうなくらい激しく鼓動していたのだけれど。
――――ずっと、思っていた。おまえを抱きたいと。抱きしめて好きだと言いたいと思っていたんだ。
俺はもう、迷わなかった。
「宗志……好きだ」
唇を重ねる。柔らかくてとろけてしまうような感覚だ。宗志はゆっくりと俺の背中に自分の両腕を絡めてくれた。
「知ってた。僕も、久遠が好きだったから」
ため息を吐くように応じる宗志。俺たちの恋が、ようやく始まった瞬間だった。
ハイボールはいつの間にか2杯目になっていた。アイスペールの中の氷はもう水になっている。
「好きって言えたんだ」
空が自分のことのように頬を紅潮させ、安堵したのか頷いている。俺はなんだってこんな話をしてるんだろう。今まで、誰にも言ったことがなかった。少し酔いが回ったのか、自分の行動がぼんやりとしてくる。
「ああ。そうだな。しばらく俺たちは、多分、有頂天だったと思う」
それでも俺はまた、レールの上の列車のように留まることなく語り続けた。
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