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第16話 水を得た魚たち
しおりを挟む「サヤマ、どこ行ってたんだ。ロバートがおまえのギター聞きたいってお待ちかねだぞ」
フロアに戻るとすぐさま呼び止められた。ディレクターのスティーブだ。いつの間に来たんだろう。ロバートと二人で来たのか。
二人とも大柄でエネルギー溢れる壮年って感じ。ロバートは銀髪で眼鏡も銀縁。お洒落でどこかの銀行員みたいな雰囲気だ。
対するスティーブは黒髪のイタリア系。いつもグラサンかけてるから、マフィアの親分にしか僕には見えなかった。
「あ、すみません。今すぐ」
「へへっ」
僕の後ろからふらーっとついてきた佐山が苦笑いを僕に向けた。
「じゃ、とっておきのやつやるか。おい、ジェフ、出番だぞ」
焼きそばを焼くのに飽きたのか、すぐそこで寿司をつまんでるジェフに声をかけた。
「お、待ってました!」
さっきまでアホな喧嘩をしていたとは思えない。二人のアーティストが口角を上げて合図する。あいつら、ホントは二人して僕をからかってんじゃないだろうな。
そんなことを勘ぐりたくなるような雰囲気を醸し出してステージに立つ。他にベースとキーボードが呼ばれ、突然のライブステージが始まった。
――――これは……凄い……。
食事やおしゃべりに興じていた面々、我が家に集まった30人ばかりの老若男女が誰もがステージに釘付けに。
ここ数日、佐山が熱中してたのはこれだったのか。
即席のステージで、佐山達音楽班が披露する圧巻のライブ。水を得た魚のように、あいつがキラキラと輝いている。こんなリズムもメロディーラインも聴いたことがない。
――――全く新しい着想で作られたんだ。すげーカッコいい。
皆、魅せられたようにステージを見上げ、体を揺する。叫び出したくて仕方ない衝動に駆られている。あいつのギターが背中を逆撫でするように走り、ぶわっと鳥肌が立つ。
耳に届く限りの高音でビブラートをかけ、聴衆を掌握。その音が途切れた瞬間、ハイハットが3度追いかけた。
一瞬の沈黙。そして……。
「アメージング!」「グレート!」
歓声と拍手が沸き起こった。ロバートもスティーブもあっけに取られている。そして徐に大げさなリアクションとともに拍手を送った。
僕はすぐにもあいつに駆け寄りたかったけど、今回は我慢した。僕よりもロバート達に賞賛を得た方がいい時もある。
ここ数日、ああでもないこうでもないとやり合って作り上げた楽曲だ。恐らくメインテーマの叩き台になるんだろう。
僕は高揚感に満たされまま、監督たちに囲まれている佐山を見ていた。
――――なんだよ。ステージではあんなにジェフと仲良さそうにしてる。
「リン、見てたか? サヤマよりカッコよかったろ?!」
「何言ってやがる。てめえなんかを倫が見てるわけないだろうっ」
前言撤回。また馬鹿なこと言い合ってる。僕は呆れて後ろを向いた。全く付き合ってられないよ。
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