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第34話 スタンガン
しおりを挟む解雇されたビルの件は、今日改めてロバートから直接聞いた。散々ごねてたけど、契約条件を満たしてないことを追求したら大人しく引き下がったって。
一緒に雇ってたレイモンドは本人の希望もあって残ることになった。彼に対しては全然不満はないし佐山も認めるエンジニアだから残ってくれて良かったよ。
これで風通しが良くなった。益々仕事も捗るな。
「いつもながら仲いいなあ。オレの入る隙間なさすぎだよ」
佐山がトイレに行ってる間、すかさずジェフがやってきた。ま、悪意がないとわかってるので、僕は別に構わない。
「まあね。でもそれは知ってただろ?」
宝石のような青い目をきらっとさせ、ジェフが笑う。
「いや、そうだな。でも本気で狙ってたよ。リンはマジでオレのタイプだったから」
「だった? 過去形なんだ。ああ、そうか。もしかして好きな人できたのか?」
「んー、ふふ。まあな」
「おっ! マジだったか。おめでとうー!」
「でもサヤマには内緒な。あいつからかうの楽しいからさ」
悪い奴だな、ジェフも。でも、僕も割と楽しんでるかも? ヤキモチ妬かれるのって、意外と嬉しいもんだよ。
「少しだけだぞ。それにどこかで紹介してくれよな」
「わかってる。でもまだ、ちゃんと付き合ってるってわけじゃないから。オレは本気だけど」
「あ、そうなんだ。了解。じゃあ頑張れ」
ジェフの相手、この間のレストランの子だろうか。確かアジア系の彼だった。
ジェフは見てくれだけじゃなくて、ユーモアもあって優しい。それに『本気』って言うくらいだから誠実に付き合うつもりなんだよな。うまくいくといいけど。
「ところで、この間何の用だったんだ? 佐山にあっという間に追い出されてたけど」
「ああ、サヤマ本当に人の話聞かねえからさ。ま、旅行帰りだし、悪いと思って帰ったんだ。気にしなくていいよ。大したことじゃない」
なんだか歯切れが悪いな。本人が大したことないって言うんだから、そうなんだろうけど……。
「おい、てめえまた、倫にちょっかい出しやがって」
「いいだろうー? 減るもんじゃなし」
「だから確実に減るって言ってんだろうがっ」
また始まった。これはあいつらのデフォルトなのか? 僕は呆れてその場を離れた。背中で楽しそう? に言い合う二人の声が続く。
だけどそのうち、他のメンバーが音を鳴らし始めれば作業は再開する。そっちの方が断然楽しいって彼らは知ってるからね。
久しぶりにスタジオに来たので、隣接してる道場に行った。カラテの練習。家でも暇暇にやってたけど、やっぱり稽古を付けてもらうと違う。1時間ばかり佐山と一緒に汗を流した。
「そうだ。帰りに『バイモア(日本で言う家電量販店)』に寄ってスタンガン買っていこう」
二人別々にシャワーを浴び(ここも一緒に入れないタイプ)、駐車場への道すがら佐山が言う。
「マジかよ……。必要か? それ。今日の僕のカタ、見たろ? 大男もぶっ飛ばせるよ」
冗談半分で、佐山にビシビシと入れてみた。
「こんなへなちょこパンチでは無理」
片手で簡単に防御されてしまった。
「なんだよ、へなちょこって」
「怒るな。俺に勝てないようじゃだめだ。わかってるだろ?」
ぽんぽんと僕の頭を叩く。確かにそうだけど。
「わかったよ。じゃ、買いに行こう」
買っておまえが安心してくれるなら、それでいいよ。僕もここで意固地になる必要もないしな。
僕らは通り道にある家電店でスタンガンを購入した。その時は、これが必要になる日が来るなんて、夢にも思わなかったんだ。
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