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第52話 幸せになる時間
しおりを挟む家に帰ると、急にリビングが広く感じた。四六時中ここにいたわけでもないのに、なんだかな。
静かになってホッとしてるけど、いないと寂しく感じるものだ。人間って面倒な生き物だな。
「いつになったらまとまったお休み取れるかなあ。終わるまで無理とかマジきつい。ラスベガス行きたい」
帰宅した佐山がソファーに体を投げ出しながら呻く。渡米前、僕たちが絶対行きたいとしてたのがラスベガスだった。
別に賭け事が好きってわけじゃないけど、世界的有名な観光地。行ってみたいよね。
ラスベガスはここからそんなに遠くないから、週末でも無理すれば行ける。だけどせっかくだから、一週間くらいかけてショーとか色々回って楽しみたいんだ。
「そうだね。スティーブに相談してみるかな。スケジュールも撮影が遅れて大分押してるし」
僕はモバイルで送られてきたスケジュール表を眺める。これだと八月末まで休みなしだ。夏は仕事をしないと勝手に思ってたからちょっとショックだよ。
「澪ちゃんたち、無事に帰った?」
「ああ。佐山によろしくって。おまえにも色々迷惑かけたな。ありがとう」
「何を言ってんだか。俺は楽しかったよ。仕事なければもっと一緒に遊べたのになあ」
結局プラネタリウムにも同じ日には行けなかった。それでも一緒に本場のダーツバーに行ったり、パーティーもしてやった。十分だろう。
「十分だったと思うよ。あいつらも二人で行動したかっただろうし」
「そうか。そうだな。じゃあ、心置きなく」
佐山は僕が持っているモバイルを取り上げる。
「あ、おい」
「幸せになる時間だ」
口角をびろーんと上げ、僕めがけて突進してきた。たまらずソファーに転がる僕。
「誰が、幸せになるんだ?」
「もちろん、俺」
両腕を大きな手でつかみ万歳の格好になる。そのまま少々手荒いキスが降ってきた。
「んんっ!」
高級なはずのソファーが床を擦って音を立ててる。まるでリズムを取るように。時に激しく、時に優しく。
『まだまだ俺は、あんたを幸せにする』
佐山はそう言ってた。
「……おまえだけ? あっ……」
四つん這いになって覆いかぶさるあいつ、敏感なところをまさぐり、僕を翻弄させる。
「俺が幸せなら、あんたも……だろ?」
耳を舌でなぞり、甘い息とともにそう囁く。それだけで昇天しそうになるよ。
二人きりになったリビングで、生まれたままの姿になって絡み合う。そうだね。僕らは一人では幸せになれない。二人だから幸せなんだよな。
「ん……そうだな……あっ……んんっ……」
「違うとは……言わせない……」
あいつの筋肉の張った背中に僕は爪を立てる。熱いキスを受けると僕らはもう止められない。夜が更けるのも気付かず、お互いを求めあった。
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