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第54話 食い尽くしてくれ
しおりを挟む配信の日程が決まったので、そのプロモーションビデオを作る必要がある。こっちは資金が潤沢ではないので自前だ。今回の佐山の契約で少しは潤ったはずなのになあ。
レコーディングの様子を撮った動画を物語風に繋ぎ合わせる。これは予定していたことなので、僕ではないちゃんとしたプロに撮ってもらってるんだ。
――――ふふ。この表情もいいな。
佐山はどこから撮ってもカッコいい。あ、僕が映りこんでるじゃないか。こうしてみると、ジェフは確かにイケメンだな。
このバンド、イケメン率高くないか? やってる時は全然感じなかったけど。
一週間の突貫工事みたいに録った音だけど、完成度は高かった。でも、この国で生まれた音だからな。日本に伝わることを願うばかりだ。
「あ、PVか。こういうのを編集できるってのは、さすがだな」
風呂上がりの佐山がビール片手にやってきた。
「いや、マジの編集は東京でやるから、僕は整理してるだけだよ」
映っててまずいのを切ってるってのが本当のところ。だけどミキサー室やテラスでの一コマも悪くないから使って欲しい。と、伝わるように編集してる(つもり)。
「これ、先行してファンサイトに上げようと思っててさ。おまえも見てよ」
夜の自宅スタジオ。平日の日中は映画の仕事にかかりっきりだから、こっちはどうしても夜か休日になってしまう。
一畳ほどの機材室で、モニターを見ながら慣れない作業をしてる。
「んー。あれ、なんでこれ切っちゃったんだ? あんたが映ってるじゃんか」
「だからだよ。僕はメンバーじゃないし、エンジニアですらない」
「メンバーだよ。誰が何と言おうと。こいつなんかよりメンバーだ」
とジェフを指さして言う。なわけないだろう。
「おまえの心の中のメンバーでいいよ、僕は」
僕の隣に座る佐山の頬にキスをする。これで大概は聞き分けがよくなるからね。
「じゃあ、俺用のMVも作ろう。俺と倫だけ映ってるので編集するんだ」
「それはまあ、別にいいけど……」
「よし、じゃあこっちのはさっさとやっつけちゃおうぜ」
なんか違う……こっちの方が大事なはずなんだけど。佐山はこういうのもセンスが良くて。確かにさっさとやっつけられてしまった。
「おお、この倫、可愛いなあ。お、これも。あんたはどのアングルから撮っても綺麗だな」
なんかそのセリフ、さっき誰かが思ってたような。
「おまえのほうがカッコいいよ。ほら、この笑顔さ。食べたくなる」
「そんな変な顔で良ければ食っちゃっていいぞ」
「変じゃないよ……さや……」
狭い機材室だ。レコーディングしたとこのミキサー室や撮影所のスタジオのとは違う。
体が触れ合う距離でわいわいやってたから、こいつが発情するのは時間の問題だった。
自分たち用の動画はまだ途中だけど、我慢しきれなくなった佐山が僕を抱きしめキスをする。シャンプーの香りが鼻腔をくすぐってふわふわした。
「食いたいのは……俺の方だ……食い散らかして、いい……か?」
言葉通り、おまえは僕を貪るように唇を這わす。倒れそうになる僕を両腕でしっかりと抱きとめ、自分の膝へと乗せあげた。
「行儀が悪いな……散らかすなら……食い尽くしてくれ」
あいつは僕のTシャツを脱がし捨て去ると、素肌に直接吸い付いてきた。
「了解……」
耳元で答えると、あいつは僕を食い尽くすべく、さらに奮闘した。
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