61 / 102
第55話 全米配信
しおりを挟むある日の早朝。僕はリビングのテーブルに置いたPCの前にいた。時差のある日本とのテレビ会議。いつもはこっちが夜で向こうが朝なんだけど今日は逆だ。
「それじゃあ、配信はこっちでもするんですね?」
『ええ。マップルやアマソンで配信決定です』
画面の向こうの水口さんは誇らしげにそう宣言した。いやあ、マジで世界のサヤマだよ。
ま、買ってもらえるかは別にしても、そのニーズはあったってことだよね?
「良かった。メンバーにも聴いてもらえるし。早速伝えます」
『はい。7月20日配信ですからね。この間送ってもらったPVももうすぐ完成します。出来次第送ります』
「ありがとうございます! じゃあファンサイトの方にはもう載せていいですよね」
『もちろん』
朝早くて眠かったけど、一気に目が覚めた。僕はアドレナリンが放出されて興奮状態のまま、一時間ほどのミーティングを終えた。
「おはようー。なんか凄い興奮してるけど、なんかあったのか?」
PCの蓋を閉じ、立ち上がったところで佐山が一階に降りてきた。起きたばかりなのだろう、上半身裸で緩いパンツ一枚で登場だ。
「おはようっ。起こしたかな」
「いや、もう起きるとこだから構わんけど……えらい嬉しそうだな? レコ大にはまだ早いよな」
レコ大。そんな島国の音楽賞なんてどうでもいいんだよ(凄い言いようだな)。
「今度のミニアルバム、こっちでも配信するんだよ! 全米配信っ」
「え? いや、それはそうだろ。俺はそれ有りきでやってたんだけどな」
うう。佐山って自信があるのかないのか、時々わからなくなる。確かにそれも目論んで、こっちのアーティストをわざわざオーディションしたんだ。
佐山は歌詞がない分、どの国でも勝負できる。有利なんだよね。
「でも、嬉しいな。そうは言っても、弱小事務所が思い切ってくれたんだから」
「そうだよ。これはやっぱり快挙だよっ」
僕はぴょんと跳ねるようにして佐山に飛びついた。
「僕はおまえが誇らしいよ」
「うふふうん、あんたが嬉しいなら俺は満足」
佐山は僕を抱き上げ、くるくると回った。僕は振り落とされないよう、足をあいつの腰に巻き付けてしがみつく。
「目が回るぅ!」
だけどテンションはマックス。そのまま二人して、ソファーに転がった。ついでに甘いキスをする。あいつの切れ長の目に宿る瞳は黒曜石のようにキラキラと輝いていた。
「ジェフ達にも連絡しないと……きっと喜ぶよ」
「こっちでもライブとかできるといいな。配信記念ライブみたいなヤツ」
「あー、そうだよね……問題はスケジュールと需要があるか……か」
配信は7月。まだ映画音楽の仕事の真っ最中だ。あと、メンバーも暇な奴ばかりじゃない。そして最も重要なのは、こっちでのライブの需要。
「水口さんに話してくれるか。可能かどうかだけでも知りたい」
そうか。佐山は本気でやりたいんだ。それなら、僕は何としてでも出来るよう尽力するよ。
「わかった。任せて」
僕は寝転んだまま、あいつの誘ってやまない唇を人差し指で触れた。噴き出したアドレナリンが規則正しい動悸に変わる。佐山は僕の手に指を絡ませる。
お互いが磁石になって引き寄せられるように、もう一度甘いキスをした。
6
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された
あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると…
「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」
気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
初めましてです。お手柔らかにお願いします。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる