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第62話 ベガス! その3
しおりを挟む自分たちのホテルに帰り、レストランで食事した。
映画では着飾った一癖も二癖もある美男美女が食事をしているイメージだったけど、別にハーフパンツでも、もっと言えば短パンでも構わない。僕らもそのままの格好で美味しく頂いた。ドレスコードがあるのはクラブだけだと言うのは本当だ。
「そう言えば、ロバートが、映画の宣伝でここでライブやるのを考えてるとか言ってたな」
映画監督でありこの映画のプロデューサーでもあるロバートは、そういうプロモーションにも長けている。ベガスでショーをやるってのも彼らしいアイディアだ。
「へえ? マジか。ま、あの連中とライブできるなら、どこでもいいけどな」
公開まではまだ先が長いから実感はわかないけど、こんなところのステージに立てるなんて、まさに夢物語だ。
こいつはそんな思いもしなかった夢をかなえていくんだなあ。
「飯食ったら、ホテルのカジノ覗いてみないか? まだ寝るには早い」
ダウンタウンのカジノで、大体のルールは呑み込めた。賭金(ベット)が大きくなるんで羽目を外し過ぎないようにするのは必要だし、敵情視察をするのは賛成だな。
「いいよ、行こう」
ダウンタウンのより広くて整然とした雰囲気。そこに集う人々も装いがワンランク上がってる気がする。僕らもハーフパンツを普通のパンツにしてきた。冷房が効きすぎて寒いってのもあるけど。
「確かにミニマムベットが上がってんな。大した数字じゃないけど」
「テーブルによっては100ドルのところもあるから注意しないと」
「予想外に勝っちゃうと、勢いで行くかもな」
「まあ、その時はその時だよ。勝ってるなら別にいいし」
予定の金額なら全部スッても構わないんだ。遊びなんだもん。遊園地に入ったってただじゃない。
だけど、感覚がマヒして勝たなきゃと思うようになったらマズイよね。多分。
「おや、思わぬところで会ったな。田舎者はすぐ目に付くから嫌だ」
背後から、物凄く不愉快な言葉を投げつけられた。まさか僕らに? こんなところで?
難癖をつけられる筋合いなんかない僕は、誰に向かって言ってるんだろうの体で後ろを振り向いた。
「あっ!」
そこには思ってもいない姿があった。
「あれ? あんた誰だっけ」
同じように振り向いた佐山が遠慮ない一言を吐く。あからさまにムッとする相手。
「ビルだよ。ほら、元音楽監督の……」
僕らの前任者であり、総監督に祭り上げられた末、解雇されたビル・マックインだった。
米人には珍しくもないスキンヘッドで背が高く恰幅はいい。鼻の下と顎鬚を蓄えている顔は酔っ払ってんのかいつものように赤かった。
夏用のジャケットを粋に羽織り、隣には金髪のお姉さんが腕を組んで立っている。
「覚えていてくれて光栄だよ。ミスターイチハラ。ここは未成年は遊べないんだが、止められなかったか?」
なんだよ。ほっといてくれ。
はっきり言うけど、ダウンタウンでもここでも確認されたよ。パスポート見せるのも慣れたもんさ。カクテルウェイトレスのお姉さんも僕に声かけるのに躊躇してたし。
「若く見えるんだ。あんたにゃ逆立ちしても無理な相談だな」
鼻で笑うように佐山が言い返した。さすがっ。僕はほくそ笑む。
「世の中若ければいいと思うのは、実績のない奴らばかりさ」
ああ言えばこう言う。口だけは達者だな、こいつ。睨みつける僕を意に介さず、奴は変な口ひげを指でなぞる。
「どうだ。一つ私と賭けをしないか。カードでもサイコロでもいい。テーブルを用意してもらおう。大金を手にしたんだ。お安い御用だろ?」
突然叩きつけられた挑戦状。慌てて佐山を振り返る。あいつの表情は普段と変わらないように見えた。
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