彼女に思いを伝えるまで

猫茶漬け

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高校1年目

変化(1)

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 次の日、手元に無事にスマホは戻ってきて安堵していたが、阿部は俺がスマホを置き忘れてた件について、武田先生にある疑いをかけていた。
 いつも通り、阿部が俺を呼び出して斑目さんと遊びに行ったことについて根掘り葉掘り聞かれた時に、スマホを置き忘れたので取りに武田先生に会いに行った話をすると、急に阿部の顔色が変わった。
 阿部のいつもの気味の悪い笑いが急に止まり、唇を軽く噛んでから急に舌でベロベロと舐め始めていた。

 「登藤、武田先生と会った時に目の前でスマホのロックを解除しました?」

 俺がひとしきり話し終わった後で、阿部が訪ねてきた。
 俺は、阿部がなんでそんなことを聞くのかわからないが、その問いに対して頷くと阿部の中の勘のようなものが何か感じ取ったようだった。

 「私は偶然はそう何度も起こる事はないと思っているんですよ。斑目さんと映画を見に行った。偶然、武田先生と会って、偶然、スマホをレストランい置き忘れて、偶然、武田先生が持っていたなんて、なんか都合が良すぎると思うんですよ。三回も続いた偶然は必然だったじゃないでしょうか?」

 俺は阿部がおかしなことを言い始めたと思っていたが、俺は黙って阿部の話を聞いていた。

 「私が思うに、武田先生が知りたかったのは登藤のスマホにある情報、連絡のやり取りだったのだと思います。まあ、私とは重要なやりとりをする時は直接会うことにしていますからね。」

 そう言われるとこれまで阿部と他人に言えないような話をする時は、記憶に思い出すと必ず対面だった。
 でも、どうして武田先生が俺のスマホの中を見たがっているのかと言う疑問が残っていたが、阿部はそれについてもわかっている様だった。

 「登藤は忘れているかもしれませんが、大島さんの弱みを握っていると同時に、武田先生の弱みを握っているのですよ。大島さんと一緒にホテルから出てきたのは武田先生ですよ。」

 俺の中に頭の記憶から鮮明に写真に写っていた武田先生の事を思い出して、急に阿部がスマホの置き忘れが偶然ではないと言う理由が何となくわかった気がしていた。
 
 「証拠はないですが、登藤のスマホから武田先生が登藤の弱みになる情報を握る為に、あの日に接触してきたんじゃないですかね。誰かの手引きで斑目さんと会うって事もわかってたと思います。」

 阿部が言いたいことは、武田先生と大島さんが繋がっていて、大島さんが武田先生に俺と斑目さんが会うことを教えていた。
 そして、大島さんと同様に武田先生も俺が弱みを握っていると思って、俺のスマホから何か情報を掴んで弱みとして握ろうとしていたのではないかと言う事だった。
 正直、妄想の域だと思いたいが、その場の空気が冷えるような只ならぬ感じに、俺も聞き流さずに頭の隅で重なった偶然に疑いを向けていた。
 
 「この偶然が必然だったと言う証拠は、恐らく、大島さんのスマホから武田先生との連絡のやり取りに残っているかもしれませんね。何とも偶然に登藤と斑目さんで大島さんを調べることになっていたので、そのうち答え合わせ出来そうですね。」

 これもまた偶然なのか、阿部の掌で踊らされているような、そんな気がするのは気のせいなのだろうかと、頭に靄がかかったような感じを抱えながら家に帰る事になった。
 こんな事よりも、俺は山城さんに少し距離をとられている状況をどうにかしたいと言うのもあったが、武田先生の件や斑目さんとの件も放っておく訳にはいかないので、どこから手をつければ良いのか頭を抱えていた。

 俺は布団の中で進展するような考えは浮かばないとわかっていた。
 しかし、考えている間は直近の問題に向き合っていることで精神的には、不安や憂鬱な気分が少し紛れていたような気もしていたが、結局のところは抱えた問題が原因で不安や憂鬱な気分になっているので根本的な解決になっていない事もわかっていた。
 その日はそのまま眠ってしまったが、次の日の朝起きたタイミングで急にある事が気になったので、学校へ行き、アルバイトが終わった後で、先日、武田先生と行ったレストランに向かった。
 俺は武田先生が嘘をついていないか確認する為に、店員に話を聞きに足を運んでいた。
 単純に阿部が言ったことが確かであれば、家の固定電話で武田先生と話をした際に言っていた、〝レストランの店員が追っかけてきて、スマホを忘れ物として預かった〟と言う事は起こっていないことになるからだ。
 武田先生が俺のスマホを何かしらの方法で手に入れたのなら、店員から預かったのは嘘となるし、店員から預かったことが本当なら阿部が変に妄想を膨らませただけになると思ったからだった。
 面倒なことかもしれないが、昨日のように寝つきが悪いような思いが晴れるなら別に苦とは感じていなかった。
 しかし、阿部の予想が的中したと言う事実を俺は突きつけられ、途方に暮れることになった。
 俺は誰でも良いので店員を呼び止めて、2日前に夕方にスマホの置き忘れを届けて貰った事の感謝を伝えたいと言ったら、不思議そうな顔をされた。

 「二日前、私はそんな事、聞いていませんが奥で確認をしてきます。」

 そう言って、店員が店の奥に行くのを見ながら、俺の中では変な胸の騒めきのようなものを感じていた。
 否定したい阿部の言葉が頭に浮かんできて、一気に背筋が冷えるような不安、それでも俺は阿部の言葉が外れて欲しいと願っていた。
 店の奥から戻ってきた店員の後ろに、店長らしき白髪交じりの年配の男性が一緒に現れて、その店長らしき年配の男性が何か困った表情をしながら俺に尋ねてきた。

 「申し訳ありませんが、私も彼も二日前の夕方にいましたが、そんなことがあったとは報告を受けていませんでした。大変失礼なのですが、勘違い出はないかと....。」

 何とも言えない、悪寒が体を支配していた。
 俺は一番知りたくなかった事実を聞いて、反射的にその場で軽く会釈をしながら逃げるようにふらりと店を出て行った。
 俺はスマホをポケットから取り出し、スマホを操作しようとすると恐怖と不安で指が震えていた。
 俺が阿部から感じていた気味の悪さとはベクトル的に全く違う、初めて感じた明確な害を与えると言う思いがこもった悪意に晒されたせいだっただろう。
 俺は上手く画面のタッチ出来ない状況に苛立ちながらも阿部に電話を掛け、耳元で何度も聞こえるコール音に俺は阿部が早く電話に出てくれることを何度も祈っていた。

 「もしもし、なんですか?」

 阿部の声が聞こえた瞬間、俺の中の不安が少し緩和されて落ち着きを取り戻していたが、深呼吸を一度してから話を切り出した。

 「阿部、お前が言ってた話、武井先生は俺の弱みを握る為に、あの日に接触してきたって話、本当にそうかもしれない。」

 俺がそう言うと阿部は短く、何も無かったように「そうですかぁ。」と答えると驚く事もなく、動じることもなく、淡々とした口調で俺にこう答えた。

 「それは会って話をしませんか、私の家に三十分後にどうですか?」

 それに対して短く「わかった。」と答えて通話を切ると、すぐに阿部の家に向かって足早にその場から逃げるように歩き始めていた。

 俺が阿部の家に着いた時には、阿部は既に帰宅していた。
 とりあえず、ソファーに腰を下ろすと同時に阿部にほんの三十分前に阿部の勘が当たっていたのかを確かめ為、武田先生と行ったレストランに行き、スマホの置き忘れについて確認をしたことを話した。
 阿部はその話を黙って、唇をベロベロと舐め回しながら何か考えていた。
 一通り話を聞き終わると阿部は立ち上がると隣の部屋へタブレットを持ってくると戻ってきた。
 そのタブレットのノート機能を使って画面に何やら書き始めた。

 「まず、武田先生が何を考えているのか、考えて見ましょう。私、登藤、斑目さん、大島さん、武田先生っと・・・。」

 阿部はタブレットに名前を書いていくと、俺と阿部の名前を両矢印を書き、その上に〝ビジネスパートナー〟と書くのを見て、阿部は今回の件で関係する人物の関係性を整理をしていると察した。
 斑目さんと俺の間に両矢印を書くと、〝友人、又は恋人〟と書いたのでそこで俺は反射的に指摘した。

 「別にそんな仲じゃないだろう。」

 そう言うと阿部は、溜息をつくと苦笑いしながらちゃんと俺にその理由を説明した。
 
 「これは武田先生の認知、武田先生の目線でどう見えているか、ですよ。」

 大島さんと斑目さんの名前の間に両矢印を書き〝親友〟、斑目さんと阿部の名前の間に両矢印を書き〝犬猿の仲〟、そこまで書くと一度、手を止めて俺に尋ねてきた。

 「登藤は大島さんと武田先生はどんな関係だと思います?」

 そう言いながら俺にタブレットを渡してきたので、俺はそこに両矢印を書くと〝恋人〟と書いたら阿部は苦笑いしてタブレットを受け取った。

 「登藤は意外と人を見る才能がないみたいですね。私は武田先生がこう思っていると思いますよ。」

 阿部は俺が書いた〝恋人〟と言う文字の上に〝カキタレ〟とルビを振った。
 俺は阿部のその誹謗中傷に等しいルビを静止することが出来なかったのは、武田先生が向けてきた悪意を感じてしまったことで全くの違和感を感じることなく、それが自然であり、当然であるように無意識で感じていたこともあった。

 「ここからが本番ですね、武田先生は大島さんの言いぶりからすると斑目さんに好意と言うか、次の標的としているようでしたね。」

 そう言いながら、阿部はタブレットの武田先生から斑目さんに向かって片矢印を書くと、その上に〝獲物〟と書き加えた。

 「しかし、斑目さんと登藤の関係が近いと武田先生は手が出し難い、ちょっとでも相談なんかされたら破滅ですからね。」

 そう言うと阿部は武田先生から俺に向かって片矢印を書くと、その上に〝障害〟と書いた。
 
 「そして、登藤の弱みを探っていて見つけたとしたら何が出ると思いますか?スマホの中にあった情報で標的にしやすい人物、それは・・・。」

 そう言うと阿部がタブレットに新たに名前を書き始めたのを見て、俺は阿部が名前を書き始めた瞬間からすぐにそれが誰なのかわかってしまった。
 俺の予想は外れて欲しかったが、阿部が手に持ったタッチペンを走らせる度に、予想が当たっていることが確信になっていった。
 阿部はタブレットに新たに書き込んだ名前は山城さんだった。
 山城さんと武田先生の名前の間に矢印を書くと俺に尋ねてきた。
 
 「登藤、武田先生は山城さんに何をして、どんな関係になると思います?」

 俺は腹の奥から何か熱いものがマグマのように溢れ出していた。
 それは怒りに似ていながら、もっと理不尽で暴力的で、これまでの人生でどんな感情よりも、俺の思考を塗りつぶしていき、無意識に強く、硬く、膝の上の拳を握っていた。
 その燃えるような熱が頭に達していたのに、妙に頭が冴えて澄んでいた。

 「・・・登藤、そんな怖い顔しないで下さい。暴力はいけませんからね。」

 俺は武田先生に言葉に表すなら、正義と言う名の悪意に近い感情を抱いていたのかも知れなかった。
 
 「阿部、悪いけどやって欲しいことがある。お前だったらやってくれるだろ。」

 頭に浮かぶことは悪い事だとわかっていたが、俺は阿部に躊躇することもなく、ある頼み事を口にすることになった。
 阿部はその言葉を待っていたようで、それを聞くとこれまで見たことがある、あの気味が悪い笑い方していたが、俺はこの時以降、阿部の気味が笑い方に対しての印象が変わっていた。
 それは純粋で悪戯を楽しむ子供の様で、これから面白い事を起こしてやろうと言う自信に満ち溢れていた。
 俺もそれに釣られて、口元が笑っていた。
 
 「登藤も私の信頼と実績については、これまでの事でわかって頂いていると思います。空を飛べとか、とんでもないこと以外なら出来ますよ。まぁ、私が本気出せば空も飛べるかもしれませんね。」

 阿部は俺が腹の内に抱えた悪意を語るのを、阿部は歓喜に近い喜びを感じている様だった。
   阿部に頼み事をした翌日、俺は文化祭の手伝いをしたいと斑目さんに頭を下げてお願いしていた。
 それは生徒会顧問の武田先生に近づく為ではなく、斑目さんが大島さんの事を探らせるのを早く終らせるのが目的だった。
 まず、大島さんと武田先生の関係がどのように動いているか探りを入れて、上手くいけば二人以外に関係者がいるか、割り出しておきたかった。
 全てが上手く進んでいたとしても、最後の最後に全く知らない誰かに背中を刺されるようなことは避けたかった。
 危険を避けるには誰の行動を注視する必要があるのか、ここを最初に抑えて安全対策をしておくべきだと結論に俺と阿部は至っていた。

 「急に手伝いたいって、どういう風の吹き回し?」

 俺が斑目さんに文化祭の手伝いをしたいとお願いした時は、彼女は俺がどんな理由があって手伝いたいと言ってきたのか、それを気にしているようだった。
 目から出る圧は変わらないが、少し表情が柔らかい感じから俺はこの頼みを受け入れてくれると思っていた。

 「まぁ、暇だし、その辺を暇そうにブラブラしてると、周りから浮いて居心地が悪い、困ってる友達の手伝いをしていた方が気晴らしになるかと思ったからだな。」

 そう言うと、斑目さんは俺の顔を見ながら何か思うところがあるようだったが、少し間をおいて「まぁ、良いわ。」と了承してくれた。
 俺は数日間、腹奥底で燃え残った悪意を燃やしながら静かに息を殺す様にいつも通りに振舞いつつ、斑目さんの言う通りに手伝いをこなしながら大島さんの事で話をするタイミングを伺っていた。
 その間、阿部は俺の頼んだ通り動いていて、それは武田先生の噂を流すと言うちょっとしたものだったがこれが非常に重要だった。
 
 「登藤、武田先生を追い詰めると同時に動き難くする方法があります。武田先生の評判にガラスのヒビが入るぐらいの傷を入れてやればいいのです。そうするとどうなるかと言うと、これ以上にヒビが比呂が鳴らない様に慎重になります。私が丁度良い塩梅で隠せそうな噂を流せば時間稼ぎには良いでしょう。証拠はないが女子生徒と体の関係をもっているなんて流れたら、学校での居心地は最悪でしょうね。私がバレない方に色んな方向から流しておきます。その間にやるべきことを進めて下さいね。」

 そう言う阿部に俺は悩むことなく「頼む」と言っていた。
 意図的に悪い噂を流して相手を貶めるなんてことは、人としてどうかと思われるかもしれないが、そもそも、武田先生が俺にちょっかいを掛けて来なければこんなことにならなかった。
 人の弱みを握り、それをネタに揺すり、言う事を聞けと、そんな事をされればお互い潰し合う事になるのは必然で、真っ暗な深海に沈んだような光の当たらない人生で、やっと手に掴むことが出来そうな希望を奪おうとするならどんな手を使っても致し方ないと思っていた。
 偶に視界に入る武田先生に不快な気分にもなるが、それを我慢していると望んだタイミングは意外と早く訪れることになった。
 その日は偶々、遅くまで放課後に残って斑目さんと二人で文化祭当日に配るチラシや冊子印刷物を枚数を数えて段ボールに箱詰めしていた。
 文化祭となると予想はしていたがなかなか二人っきりになる事は滅多に無いと思っていて、だからと言って彼女に直接的な方法で呼び出すのは避けたかった。
 理由は単純に斑目さんが大島さんに呼び出したことを話してしまった場合は非常に厄介なことになると思っていて、これはスマホを使った連絡でも同様に聞いたり見られたりする恐れもあり、そのような連絡をした記録も残したくなかった。
 それと同時に、文化祭と言うイベント準備期間が終れば接点が消えてしまうのだから、自然に二人きりになる事は絶望的だった。
 それこそ、俺が前みたいに好意がある様に動けば出来るだろうが、イベント準備期間が過ぎた後でそれはしたくなかったのは、武田先生や大島さんに何かしら感づかれる怖れもあった。
 だからこそ、巡ってきた好機を逃す訳にはいかないと思うと、お互いの作業の終わりが目途が見えて、一息を着きそうなタイミングで話を切り出そうと決心し、黙々と作業を進めていた。
 段ボールに文化祭前日に持っていく行き先を書いた紙を張りながら、俺はこのタイミングしかないと思い、視線だけを彼女に向けて話を切り出した。

 「大島さんの事、調べてみたか?」

 そう言うと、斑目さんは察し良く、俺が聞いていることがすぐにわかっていて、手を動かしながらほんの数秒後に返事を返してきた。

 「人のスマホをそんなに簡単に調べられる訳ないでしょ。」

 それは当然なことだが、俺はどうしても斑目さんにそれをしてもらう必要があって、彼女が簡単に調べることが出来ない理由は、スマホのパスワードの突破、連絡やり取りが何処に記録されているのかと言う二点の事だろう。
 斑目さんなら大島さんは友達としてスマホを簡単に触らせるが、会話の履歴が何処に入っているかは多種多様のアプリから探す必要があって、変に時間がかかれば怪しまれる恐れがあった。
 連絡に使っているアプリを割り出す方法を、俺と阿部の中では目途がついていたが、それには斑目さんの協力は不可欠だった。
 チャンスは一度きりで成功率も半分もあるかと言うぐらいで しかも、大規模なイベント時しか使えないだろうと思われる方法なので、これを逃すと次のタイミングがいつまわってくるかわからなかった。
 ここで何としても武田先生と大島さんの連絡手段とやり取りの履歴を抑えておきたかった。
 しかし、ここで一つの障害があって、斑目さんには武田先生が大島さんと繋がっていることは秘密にしておいて、偶然、二人の関係を知ってしまうようにしたかった。
 理由としては、俺と阿部の関係が未だに繋がっていると思われると、この話は途中で拒否される恐れもあり、阿部が煙たがるほどの勘の良さを考えれば、詳しく話して悟られたくなかった。

 「生徒会で文化祭の時に記録とか写真や動画を残す事を口実に出来ないか?例えば、卒業式とかのスライドに使いたいとか、この前の広報動画の素材に利用したいとか、複数人で撮影をして貰うと言う事で・・・。」

 そう言うと斑目さんは、何か考え始めたようで手に持ったペンを器用にクルクルと回し始めていた。
 俺も斑目さんにストレートに、大島さんのスマホに触れる為なら嘘でも良いから理由をつけて、中身を探れる状況を作れば良いと言いたかった。
 しかし、あまり直接的な指示をすると彼女が俺を怪しむ恐れがあって、彼女にとって俺よりも大島さんの方が親しい関係なのが起因している。
 斑目さんから見た、俺が大島さんに向けてていた認識は疑いしかないから、変に攻撃的な言動や敵意を向けていることはおかしいことになるからだ。
 俺に阿部は入れ知恵として、斑目さんから見えている認知を意識した発言をするように口酸っぱく言われていた。

 「人は自分の認知のズレが起きると、ズレているはどっちなのか知りたくなるんですよ。自分が思った通りの認知であれば確認なんてしません。認知のズレが疑いの根底なんですよ。なら、斑目さんの認知を二人で整理して確認しておきましょう。」

 俺は阿部と認知からボロが出ない様に丁寧に、描き起こした情報を整理して頭に入れてきた。
 俺と大島さんの間柄を知らない斑目さんは、俺と大島さんはお互いに敵意はないと認知しているだろう。
 斑目さんを通して大島さんに一滴も情報と言う血を漏らす訳にはいかない、もし、情報と言う血の跡を辿られれば俺も阿部も破滅に向かうだろう。

 「そうね、明後日に生徒会の進捗報告時に提案してみるわ。例えば、卒業アルバムとかビデオレターとかに使える映像記録を残すように。」

 俺の意識は斑目さんの声で、生徒会室に戻された。
 彼女がペンを回すのを止めずに、こちらを向くと何か違和感を感じているみたいで、俺の表情を観察しているようだった。

 「登藤はどうして、そこまでして私に絡んでくるの?面倒な事は避けるタイプだったと私は思っていたわ。」

 俺はすぐに彼女の認知とズレがあったのか、それを考えていた。
 このズレは恐らく広報用の動画を撮る事に拒んでいたことや動画編集時の何も役に立っていない事を考えれば、いきなり文化祭の手伝いをしたいと言ってきたことに対して違和感を感じていたと思った。
 俺はこの180度、対立する行動を順序を踏んで振り返る様に心境を変わったように演出することで認知を正すように答えた。

 「何て言えば良いのか、例えば道端に倒れていた人が居たら助けるだろ。車がぶつかりそうな風に見えたら危ないって叫ぶだろ。その常識的な良心って言えば良いのか、そんな感じで、気が向いただけで、その相手が偶然、友達だっただけだな。」

 そう言うと、斑目さんは何とも言えない視線をこっちに向けて疑っている様子だったので、付け加えるように言葉を続けてみた。

 「それに、その方が印象が良いと言うか、その、心配になったって言えば良いのか。気になるじゃないか。」

 俺はそんなことは全く思ってもいなかったが、目的の為に何でもすると悪魔に魂を売っていた。
 斑目さんがどうなるかとかは頭の中には全くなかったし、こうして利用することに罪悪感を感じる暇も余裕も無かった。
 俺の中を渦巻く悪意と言う大きな流れに飲まれて、感じる前に掻き消されてしまったのだろう。
 俺が守りたいもの中に斑目さんは入っていなかったことは確かだった。
 現に彼女の存在は、俺と山城さんの関係には障害になってしまうのだから、結局はいつかどこかで関係を切らなくてはならないと前から思っていたし、そうしたかった。
 そして、今の俺は彼女を如何に動かして、相手に悟られずに情報を得ることしか頭になかった。
 
 「まぁ、良いわ。登藤が手伝ってくれたから助かってるし、その、ありがとう。」

 斑目さんはそう言いながらペンを回し続けているのを見ていると、まだ何かこちらを疑っているのかと思っていた。
 無償で労働って言うのは、何か変だと思われているじゃないかと思い、最もらしい理由を付け加えておいた。

 「まぁ、御礼は別に言葉じゃなくて、態度と行動で示して欲しいかな。例えば、全部が片付いたら何処か遊びに行くとか、どうかな?」

 そう言った瞬間、斑目さんの指からペンが勢い良く宙に綺麗な弧を描いて飛んでいった。
 俺の頭上を越えて飛んでいったペンを拾って彼女に渡すと、彼女は乱暴にペンをひったくように俺から取り上げて睨みつけてきた。
 俺は面倒な奴だなと思いつつ、一言「冗談だよ。」と呟き、逃げるように作業に戻った。
 その後は、無言のままお互い黙々と作業を続け、終わる頃には外はすっかり暗くなり、校門前で斑目さんと別れて数分後に阿部から電話がかかってきた。

 「もしもし、ちょっと話があって、大したことじゃないんですが、やってほしいことがあるんですよ。多分、あなたのためにもなることですよ。明日、こっちに来れますか?」

 スマホの向こうでいつもの調子で俺を呼び出すが、俺はアルバイトの予定が入っていた。

 「悪い、明日はバイトの予定があるんだ。お前も同じところで働いてるんだから、シフト表ぐらい確認してくれよ。短い時間だったら、その後でもいいか?」

 「いや~、違うんですよ。明日の帰りは急いで学校の裏側、河川敷沿いの道路に来てほしいんです。帰りは車で家まで送迎しますよ。詳しい話は車の中でしますから。」

 阿部の意図が掴めないまま、とりあえずその場で会う約束をして電話を切ったが、いつもと違う場所で待ち合わせて車の中で話をすると言うことに俺は違和感を感じていた。
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