彼女に思いを伝えるまで

猫茶漬け

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高校1年目

暗雲(3)

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 次の日、目覚めるとスマホに阿部から写真が送られていた。
 それは、昨日、廊下で写真を取って貰った銀河大戦の宇宙服を再現したコスプレとのツーショットだった。
 阿部に送って欲しいと頼んだのを忘れていたが、これを是非、山城さんに見て欲しいと思い、その写真のデータを山城さんに転送して学校に向かった。
 正直、山城さんからの返信が来るのを楽しみにしていたので、信号待ちや電車待ちをしている時にスマホの画面を何度も確認していた。
 彼女から返信が返ってきたのは俺が教室の自席に座り、スマホの画面を確認した時だった。

 “写真見ました。今日はお昼休みいつもの場所に行けますので、そこで色々聞かせて欲しいです。”

 返信内容を見た俺は約二週間ぶりに山城さんと会えると言う事に、嬉しさのあまり不思議と小さくガッツポーズをしていた。
 俺は山城さんとの昼休みの事を色々を都合良く頭の中で妄想がブクブクと泡を立てるが如く盛り上がっていたが、実際に昼休みに彼女と会うと俺の妄想は泡の如く弾けて消えることになった。
 昼休み俺は早歩きで図書室に向かい、扉を開けるとすぐに山城さんの後ろ姿を見つけてすぐに目の前の席に座った。
 目の前に座った山城さんの顔を見た時からなんか変な違和感を感じていたのは、彼女の視線だった。
 表情はいつもの穏やかな感じなのに、視線が席に着いてから俺の目をずっと見ていた。
 山城さんは朝に送った写真について、映画『宇宙大戦』の知識を織り交ぜながらこの宇宙服完成度がどれほどすごいのか力説しているのに、目だけが何か訴えかけるようにこちらをずっと見ていた。
 悪い事をしている訳でもないのに責められているような、そんな感じがして顔の皮膚がチリチリと焼けるような痛みが走っていた。
 何かが変だとわかったが、それ以外に何もわからないし、俺が感じている違和感は勘違いかも知れないことも考慮すると、山城さんに聞くことも出来なかった。
 山城さんは一通り、話したいことを言い終わった時、目を伏せて下に俯いた時に表情が物悲しいと言うか落胆に近いような変わったのを俺は見逃さなかった。

 「その、何かあったんですか。」
 
 その言葉にすぐに顔を上げると、少し驚いた様子だったがお互い黙って目が合ってしまった。
 図書室の静けさが雰囲気を重く感じさせ、お互いの気持ちが噛み合わない状況は、まるで二人乗りの自転車がヨロヨロと今にも横転して仕舞いそうな感じの不安で胸が締め付けられていた。
 その間も山城さんは目線で何かを訴えかけていて、多少は会話があったが昼休みが終わって別れるまでそんな感じだった。
 俺の頭は山城さんの中で何を思っていて、俺は何をするべきなのかで頭が一杯になっていた。
 この二週間で何があったのか、どうしてこんなことになっているのか、答えなんてものは出て来ないとわかっていたとしても、考えることを止めることが出来なかった。
 その後も、そのことが気になっていて頭の中で粘土を捏ねるように、山城さんの事を考えていた。
 山城さんが直接言ってこないのは言い難い事なのか、それとも俺から言って欲しい事なのか、何か糸口のようなものがないと彼女が求めている答えにたどり着けることは出来ないだろう。
 そのまま時間が流れ、放課後に斑目さんと呼ばれて動画の編集について話があると言う事で生徒会室に来ていた。
 斑目さんが動画のシーンを短く数秒毎に切り抜いて、印刷したものを用意して動画をどんな感じで編集するのかを話していた。
 俺は動画の編集なんてものは、正直、斑目さんが好きにやってくれれば良いと思っていたので、適当に相槌を打っていた。
 こんな風に思ってはいけないのだが、俺は動画の事より山城さんの事が気になっていて、とりあえず早く終わって欲しいと思っていた。
 斑目さんは俺があまり乗り気ではないのを雰囲気的に察していたのだろうか、俺に簡単な質問をしながら、彼女が動画の切り抜きのプリントにペンを走らせて下書きをしていくのを眺めていた。

 「・・・なんか調子悪そうね。」

 斑目さんはこちらの事を見ずにペンを走らせながらそう言ってきた。
 俺はどう答えるべきか考えていたが、斑目さんにどうしてそう思ったのか聞き返すと斑目さんはペンを止めると俺の顔を見ながらその理由を言ってきた。

 「いつも不満そうなで不機嫌な顔が、今日は一段と酷いから。」

 そう言われると阿部が前にも“景気が悪そうな顔”と言われた事を思い出して、生徒会室の窓に映る自分の顔を見たが俺は何とも思う事はなかった。
 斑目さんは動画の切り抜きのプリントにペンを走らせ始めると俺に質問をしてきた。

 「何か嫌なことがありましたか?はい、か、いいえで答えて。」

 俺はそれについて放っておいて欲しいと言ったが、斑目さんは質問を繰り返して俺に答えるように催促してきたので、はいで答えると彼女は質問を続けた。

 「それは阿部に関係ある事ですか?」

 俺は急に出てきた阿部の名前に困惑したが、この答えにいいえと答えた。

 「それは私に関係ある事ですか?」
 
 俺は彼女が何が言いたいのか何となく察しついたと言うか、山城さんの事ですっかり忘れていた、阿部が斑目さんに俺とはもう関わるなと言う話を思い出した。
 彼女はそのことについて、俺に対して何か思うところがあったのだろうが、その細部までは知る必要もないと思っていた。
 そもそも、俺と阿部の秘密を握っている時点で、それを使って好きに言う事を聞かせることが出来るのだから、俺の機嫌を伺う必要もないはずだ。
 「・・・いいえ。」と俺が答えると数秒だが、彼女はペンが止まったが何も無かったように動き始めた。

 「じゃあ、何か嫌な事でもあったの?」

 斑前さんがどんな心境でこんなことを言い出したのか俺を悩ませていた。
 俺はどう答えれば良いのか、山城さんの様子が可笑しかった事で、昼からずっとその事について悩んでいたとは言えなかった。
 俺が返事をしないで黙っていると、ペンを止めて彼女は顔を上げるとこちらを見ていた。
 その顔は先ほどの質問の返事を催促するような視線を送ってくるので、俺は渋々だが色々とぼやかして話をすることになった。

 「仲の良い友達がいるんだけど、今日はなんか素っ気ないと言うか、面と向かって言いたいことがあるんだけど、言えないようなそんな感じだった。それが何か気になって色々と考えていた。」

 それを聞いて、斑目さんはすぐさま「それ、阿部じゃないでしょうね。」と聞いてきたので、俺は「阿部がそんな奴に見えるか?」と苦笑いしながら答えた。
 俺が知っている阿部は人の不幸で飯が三杯食べるような、おおよそ人ではなく、妖怪か宇宙人のいずれかの類で、天地がひっくり返っても俺が心配なんてすることは全くないと神に誓っても良いと思っていた。

 「じゃあ、本人に直接聞かないの?」

 斑目さんの言いたいことはわかるが、山城さんに無理矢理なやり方で話させるようなことはしたくなかった。
 しかし、それと同時に彼女からその事を聞く事が一番早い解決方法だとも理解していた。
 俺の気持ちの中で矛盾が起こって頭を悩ませているのもわかっていた。
 俺が返事を返さないでいると、彼女はペンを止めてこっちを見ながら視線で返事を返すように催促していた。

 「無理に話させることはしたくない、少しでも俺が出来ることがないか考えているんだけど、何も思いつかないんだ。」

 俺が観念して話をしたのに何も無かったように作業に戻っていたが、そのまま無言の時間が流れていくのを俺は斑目さんに対して聞くだけ聞いて放っておくなんて、少し不公平だと思った事もあり、彼女に俺の悩みを無理矢理共有させることにした。

 「どうしたらいいと思う?」

 そう言うと、斑目さんは驚いたのかペンを止めてこちらを見ていた。
 斑目さんもそんなことを言われると思っていなかったのか、視線を泳がしていた。

 「ごめん、無理に聞こうとしてるわけじゃないんだ。ただ、俺もどうしたらいいのか分からなくて…。」

 ちょっとした意地悪だったと思いながらも斑目さんが動揺する様子を見て、俺は少しの罪悪感を感じていたが彼女がこの問題を解決する名案が出てくるんじゃないかと言う期待もあった。
 俺は斑目さんがどうしても、俺や阿部を脅すような事をするようには見えないし、俺のような奴でもちゃんと話を聞いてくれるような、ちょっとお節介な過ぎる人なのだと思った。
 現実に彼女は目の前で悩み、真剣に考え、俺と向きあっていた。
 そんな人が人を脅すような事をする訳がないと思いたいが、本当なのかを確認する方法はない。
 それに、万が一、彼女がそんな事をするような人だとすると、嘘をついたりするだろう。
 俺はそんなことを考えが止まったのは、彼女の器用にペンが指と指の間を止まることなくクルクル回り続けていた。
 斑目さんが何か考えに迷っている時、手元が落ち着かなくなる癖がある事を俺は今後の付き合いで知る事になるのだが、この時のペンはまるで風車のように回転させていた。
 回していたペンが急に止ると、斑目さんはゆっくりとこっちを様子を伺うように見ながら答えを言った。

 「・・・話しやすい雰囲気が必要だったんじゃない?・・・例え、例えの話だけど、私を遊びに誘う時ってどうするの?」

 俺は彼女が何を言っているのかこの時わかっていなかったので、5秒ぐらいに間をおいて「どっか行きたいのか?」と言った途端、彼女は呆れたように深い溜息をついていた。

 「・・・行かないわよ、馬鹿、例え話って言ったでしょ、私が言いたかったのは雰囲気。」

 俺はやっとこの時、彼女が言いたいことがわかった。
 山城さんが俺に不満を言いやすいような雰囲気を作るのが必要だと言う事だった。
 阿部が俺に話をする時にラーメン屋を呼び出すのは、話しやすい雰囲気を作る為にラーメン屋を選んでいるのと同じことだろう。
 しかし、俺と山城さんにとって話しやすい場所と言えば図書室で、その図書室で山城さんが言い出せないとなると他にめぼしい場所なんて思いつく訳が無かった。
 俺と山城さんの過ごした時間は図書室と言う空間がほとんどで、図書室で会った時間の重なりが全てだった。

 「・・・思いつかないな。斑目さんだったら何処でそう言う話が出来ると思う。」

 俺は卑怯ながらもまたしても斑目さんに頼ると言うか、利用するようにしたのは、彼女がお節介な性格である事を知っていて、必ず何かしら答えてくれると思っていたからだ。
 その問いに、斑目さんの持っていたペンが今度は人差し指と薬指の間を回転しながら往復していた。
 数十秒の間、彼女は何か考えていてながらこちらを目線を合わせない様にしている様子を見て、俺は違和感が感じていた。
 何と言うか、いつもより何と言うか雰囲気が柔らかいと言うか、身長の差を感じさせないような上から物を言うような、圧力が無くなっていた。
 前にボーリングに行った後はもっと素っ気なく、こんな話をしたら少しは自分で考えろと一言で終わっていただろう。
 それに斑目さんは俺を利用して阿部の悪事について探ろうともしていたのに、その話はどこにいったのだろう。
 俺の頭の中で、あの阿部の気味悪い笑い声が聞こえてきそうなそんな感じがしたのは、また阿部が何かしたんじゃないかと言う憶測が浮かんだからだ。
 そんな思考を止めたのは、斑目さんの言葉だった。

 「そうね、二人きり・・・で話が出来る場所だったら良いんじゃないかな。別に何処か静かな場所で・・・。もしかしたら・・・聞いて欲しいじゃない。」

 違和感の理由が彼女の話し方だと俺はやっとわかった気がした。
 いつもだったら真直ぐ線を水平や垂直に引くように最低限の言葉で話をするのだが、曲線のような膨らみがあるような話し方だった。
 彼女は数回ペンを親指と人差し指で器用に回していたが、ペンが止まると彼女は緊張した面持ちで俺にある事を聞いていた。

 「そう言えば、動画作りで手伝ってくれたら何でもするって言ったけど、何かこう、決まってるの?」

 そう言われるまですっかり忘れていたが、斑目さんに動画の作成を手伝ったらデートでも何でもすると言われていた事を思い出した。
 俺の中でさっきから彼女から感じた違和感は、俺がデートに誘うような事を言う事を意識しているから、平常心でいられないのだろう。
 それに拍車をかけるように前後の会話の内容が斑目さんに向けられているように捉えてしまっているのだろう。
 しかし、ここで認識の違いを正そうするのも話をややこしくなってしまうし、俺と山城さんの関係は斑目さんに知られたくないので話す事が出来なかった。
 俺が望んでいない急展開、放課後の二人きりの生徒会室なんか良い感じで夕陽が差し込んできた部屋の中で、俺はデートに誘う事を強要されていた。
 俺はいつの間にか窮地に追い詰められていた。
 斑目さんは恐らく、俺がここでデートに誘うように言ってくると思うが、俺はそんなことはしたくないのだ。
 俺と斑目さんがデートした場合、それが目撃されてたり、噂が流れて山城さんの耳に入ったらと思うと、とてもじゃないがそんなことは出来ないと思った。
 俺はどう切り抜けるか、言葉の裏にある内心を隠しながら簡潔に伝えれば良いか、この場から逃げられるのだら今すぐにでも出ていきたい気分だった。

 「俺は別に、そう言うことが、目的でやっていた訳じゃない、無理にこう、誘う気もないし、そもそも、嫌だろ?」

 そう言うと彼女は俺の思っていた反応とは違って、俺を見る目が満更でもないような感じでだったので、焦りから手から汗が滲んでいた。
 何とも言えない静寂に息苦しいさから、先延ばしと言う方向で逃げることにした。

 「それに、そんな今すぐって決める話でもないだろ、俺も全然そんな事を考えてなかった。それに今は動画編集に集中して、全部が終わってからでも良いんじゃないか?」
 
 何とかこの場は動画の編集に集中すると言う事で切り抜けることが出来たが、この何とも言えない息苦しい雰囲気が数日は続くことになった。
    
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