36 / 73
神殿
茶
しおりを挟む
以前と同じように、セレーネは子供達とめいいっぱいに遊んだ。庭を駆け回り、少ない隠れ場所へ潜み、子供達に見つからないようにする。相変わらず着ている服は、土や泥、草で汚れてしまったけれど、セレーネは構わずに子供達と遊び続けた。
日が空の頂点を少し過ぎた頃、子供達は疲れた様子で草原に寝転んだ。一体どうしたのかとラミィに問いかけると、彼女は眠そうに目をこすりながら「お昼寝の時間なの」と教えてくれた。
子供達は神官達に即されて、一度建物の中に入る。ラミィと複数の子供達は「おねえさん、起きてもまだここにいてくれる?」と問いかけてくるので、セレーネはほんの僅か考えたが、結局「ええ、いるわ」と頷いた。子供達はほっと一安心したように胸を撫でおろし、建物の中へ入って行った。小さな背中をカーティスと眺めていると、たおやかな声音が声をかけてくる。
「カーティス様、セレーネ様」
声をかけてきたのは、レーヌだった。彼女は春の朗らかさを称えて微笑んでいる。
「子供達がお目覚めになるまで、お茶でもいかがですか」
「……いいのですか?」
「ええ、もちろんです」
頷くレーヌに、カーティスはほんの少し困った風に、額に掻いた汗をハンカチで拭った。
「今日はもう帰ると致します。また、明後日参りますので」
「あら、今日はお早いのですね」
「ええ、少し用事がありますのでな」
「そうですか……。どうか、気をつけてお帰りになってくださいませね」
カーティスは「それでは」と僅かに頭をさげて、セレーネへ視線を向けるとにっこりと微笑んだ。きっと、今からハンカチを買いにいくかもしれない。身に着けているものからも分かるが、カーティスの選ぶものは品があり、温かみのあるデザインのものが多い。きっとレーヌの気に入るハンカチを見つけることが出来るだろう。丸まった背中を凝視しながら見送っていると「さあ、休憩室に行きましょうか」とレーヌに即された。
(……き、緊張する)
レーヌのあとを追いかけるように、神殿の廻廊を歩く。休憩室は神殿の奥。とても小さな部屋だ。一言で言えば殺風景の極み。簡単な椅子が4つ。テーブルは1つ。縦に長い窓にはカーテンの一つも掛けられていない。
1つの椅子に腰かけると「茶の準備を整えて参りますね」と言って、レーヌはそのまま休憩室を出て行った。
パタンと静かに扉が閉まる。
(……もしかして、子供達が起きるまで……レーヌ様とお喋りすることになるのかしら。いえ、ありえないわね。レーヌ様はお忙しそうだし)
レーヌは聖女としてとても忙しいとエルゲンが以前に言っていた。
だからきっと、茶を持ってきてくれた後はすぐにでも仕事に戻るだろうと考えていたのだが、レーヌは茶を用意してくれた後も何故か休憩室から立ち去る気配を見せなかった。
日が空の頂点を少し過ぎた頃、子供達は疲れた様子で草原に寝転んだ。一体どうしたのかとラミィに問いかけると、彼女は眠そうに目をこすりながら「お昼寝の時間なの」と教えてくれた。
子供達は神官達に即されて、一度建物の中に入る。ラミィと複数の子供達は「おねえさん、起きてもまだここにいてくれる?」と問いかけてくるので、セレーネはほんの僅か考えたが、結局「ええ、いるわ」と頷いた。子供達はほっと一安心したように胸を撫でおろし、建物の中へ入って行った。小さな背中をカーティスと眺めていると、たおやかな声音が声をかけてくる。
「カーティス様、セレーネ様」
声をかけてきたのは、レーヌだった。彼女は春の朗らかさを称えて微笑んでいる。
「子供達がお目覚めになるまで、お茶でもいかがですか」
「……いいのですか?」
「ええ、もちろんです」
頷くレーヌに、カーティスはほんの少し困った風に、額に掻いた汗をハンカチで拭った。
「今日はもう帰ると致します。また、明後日参りますので」
「あら、今日はお早いのですね」
「ええ、少し用事がありますのでな」
「そうですか……。どうか、気をつけてお帰りになってくださいませね」
カーティスは「それでは」と僅かに頭をさげて、セレーネへ視線を向けるとにっこりと微笑んだ。きっと、今からハンカチを買いにいくかもしれない。身に着けているものからも分かるが、カーティスの選ぶものは品があり、温かみのあるデザインのものが多い。きっとレーヌの気に入るハンカチを見つけることが出来るだろう。丸まった背中を凝視しながら見送っていると「さあ、休憩室に行きましょうか」とレーヌに即された。
(……き、緊張する)
レーヌのあとを追いかけるように、神殿の廻廊を歩く。休憩室は神殿の奥。とても小さな部屋だ。一言で言えば殺風景の極み。簡単な椅子が4つ。テーブルは1つ。縦に長い窓にはカーテンの一つも掛けられていない。
1つの椅子に腰かけると「茶の準備を整えて参りますね」と言って、レーヌはそのまま休憩室を出て行った。
パタンと静かに扉が閉まる。
(……もしかして、子供達が起きるまで……レーヌ様とお喋りすることになるのかしら。いえ、ありえないわね。レーヌ様はお忙しそうだし)
レーヌは聖女としてとても忙しいとエルゲンが以前に言っていた。
だからきっと、茶を持ってきてくれた後はすぐにでも仕事に戻るだろうと考えていたのだが、レーヌは茶を用意してくれた後も何故か休憩室から立ち去る気配を見せなかった。
171
あなたにおすすめの小説
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる