婚約者が愛していたのは、私ではなく私のメイドだったみたいです。

古堂すいう

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玉座より

留まる

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「そなたの娘、ミレーユ嬢に話がある。少しこの場に留めてはくれまいか。なに、そんなに時間はかからぬから」


国王の言葉に、公爵夫妻は戸惑いの表情を浮かべた。目に入れても痛くないほど可愛がっている愛娘は、今は1人で立っていられるような状態ではない。それなのに、一体どうしてそのような提案をするのか。


「陛下、申し訳ありませんが、ミレーユは今とても陛下とお話できるような状態ではございません。どうか、後日にしてはいただけませんか」
「……ふむ、公爵、そなたの言は分かるがな……。ミレーユ嬢、そなたはどうしたい?」

ふさふさの髭を撫でながら、国王は穏やかに問いかける。ミレーユは少し考えた。国王が一体何の用があって自分に声を掛けるのか。それがさっぱり分からない。けれどまた後日、一人で来て国王と対面するよりかは、今ここで聞いてしまった方がいいのではないか。

(それに……)

ミレーユはちらりとエドモンドを見た。案の定、目があってしまいすぐに反らす。

(……もう、誰にも……利用されたくないわ)

王宮で1人で来て、エドモンドに会った時。ミレーユは彼に何か言える自信がなかった。エドモンドはきっと気づいている。自分とリダルが路地裏で会話していたことが、ミレーユに知られていることを。だって、今この手の中にある玻璃細工の耳飾り。これがミレーユのものだと知っていたのだから。

全てを見透かすような彼と1人で相対して、平然としていられる自信が、今のミレーユには微塵もない。

「……分かりました。ここに残りますわ」
「ミレーユ……そんな無理はしなくてもいいんだよ、ミレーユ。お前は一番の被害者なのだから……」
「公爵」

国王は呆れた風に、深い溜息を吐いた。

「お前は娘に甘すぎる。そなたの娘は確かに妖精のように愛らしく華奢で花のように手折られてしまいそうだが、心までそうではないはずだ」
「……それは」
「お前の娘は、ここに残ると言った。ならばその意思を尊重しなさい」
「……仰る通りでございます、陛下」

公爵は深く頭を垂れて、ミレーユの薄い肩を軽く叩いた。

「大丈夫だね、ミレーユ」

なおも心配そうに問いかけてくる父にミレーユはコクリと頷いた。強い意志の垣間見える頷きではなかったけれど、それでもミレーユは1人で立っていた。

「控えの間で待っていますからね。ミレーユ」
「……ええ、お父様、お母様。大丈夫ですわ」

公爵夫妻は互いに顔を見合わせて頷き合い、国王とリダルに一礼した後に控えの間を出た。それと同時に近衛兵が控えの間に静々と入り、床に這いつくばるアランと、侯爵をどこかへ連行していく。向かう先は牢獄か、それとも海の上の孤島か。どちらにしても彼らは国王の元で裁判にかけられ、罰がくだされることになるだろう。ミレーユをかどわかした罪でというより、他国の貴族と莫大な金のやり取りをした罪で。

「ようやく、静まったな。すまないな、ミレーユ嬢」

慇懃に謝罪され、ミレーユは優しげな国王の顔を見上げた。

「……いいえ、陛下。婚約破棄へのご助力感謝致しますわ」
「いや、いや、感謝などせずとも良い。それで、ミレーユ嬢。婚約を破棄したばかりでこのような提案をするのは、どうかと思うのだがな」

国王は、ほんの少し口ごもった後で、ちらとエドモンドを見やった。嫌な汗がミレーユの背を伝う。

「我が息子と……婚約を前提とした付き合いをしてみる気はないかね」
「──……は?」
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