婚約者が愛していたのは、私ではなく私のメイドだったみたいです。

古堂すいう

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ライレルの馬祭り Ⅱ

不穏

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「……そうかい?」

エドモンドは、空を切った手を何事もなかったように引っ込めて、テーブルに置かれたグラスを手に取り果実水を飲み干した。

自分ばかりが心をかき乱されているようで、嫌になる。

ミレーユはささくれだった心を諌めるために、瞼を閉じて深呼吸を繰り返した。

側近くで、グラスがテーブルに置かれた音を聞き、目を開く。

エドモンドは何を考えているのかよく分からない微笑みを浮かべて、こちらを凝視していた。

「……なによ」

深呼吸をして落ち着いたはずなのに、妙に刺々しい言葉遣いをしてしまったことを後悔しながら、ミレーユはエドモンドを見つめ返す。彼は優雅に顎を撫でて、蕩けるように目を細めた。

「あなたは、俺のことが好きだね。とても」

唐突な言葉に、ミレーユの心臓がひゅっと音をたてて縮んだ。

それは分かりきっていることだ。

彼を想うからこそ、一緒にはなれないと彼自身に告げたのだから。
彼が、ミレーユの気持ちを知っているのは当然のこと。

だが、それを彼の口から言われてしまうと……どうにも、やるせなくなってしまう。

「何が言いたいの」 

ミレーユは慎重に言葉を選んで、問いかけた。
彼の真意が分からない。そんな分かりきったことを、まるで空気に馴染ませるみたいに言うその真意はなんなのか。

「そう構えなくてもいい。ただ、あなたの態度からはひしひしと好意が伝わってくる」 

少し意地の悪い笑みを浮かべたエドモンドは、水差しを手にとって、空になったグラスに水を注ぎ、くるくると回しながら、また飲み干す。

「……女とは皆、このような生き物なのかな」

突然、冷たさを帯びたその声音にミレーユは肩をビクリと震わせた。  

エドモンドに対して緊張する機会はこれまでも大いにあったが、心の底からの畏怖を感じたことはなかった。 

だが、今はどうだろう。

先まで彼が纏っていた柔和な雰囲気は、何が彼の琴線に触れたのか、一変して鋭く剣呑になってしまった。 

(……何か、癇に障ることを言ったかしら)

必死に考えてみるが全く覚えがない。

彼の言葉を考えてみる。

『……女とは皆、このような生き物なのかな』 

このような、とはつまり、ミレーユのことだろう。

まるでその他大勢の女とミレーユが同じだと言わんばかりの台詞である。

冷たい声音に、一瞬畏怖を覚えてしまったが、なかなか失礼な言い草だ。

ミレーユは最近ようやく抑えられるようになった激しい感情の源が、胸元から滾々と湧き出てくるのを感じて、気分が悪くなった。
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