婚約者が愛していたのは、私ではなく私のメイドだったみたいです。

古堂すいう

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ライレルの馬祭り Ⅱ

説明

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「……へぇ……そういえば、そんな男がいたね」

エドモンドは、ゆったりと意味深に笑んだ。その微笑みの意図が分からず、ミレーユは首を傾げる。

先日招かれた茶会でのことを話さなくてはならないと思い、ミレーユは本日、公爵邸にエドモンドを招き入れていた。 

正直なことを言えば、この男の雰囲気に触れていると今以上に大きな恋情を引き摺り出されるような感じがして、事が終わるまで極力、顔を見たり、声を聞いたりしたくはない。

そう思う反面、やはり顔を見たいとも思ってしまう。

そんな複雑な心境を抱えながらも、ミレーユはそろそろ冷静に物事を考えられるようにならなければならないことを自覚してもいたから、今回は例え苦しかろうと、彼に今回の茶会であったことや、クラディスという人物と話したことをなるべく感情的にならないように説明した。

「ここ最近は、社交界へ顔を出さなかったはずなんだがな……」
「お知り合い?」
「……いや、知り合いというほどでもないが」
「じゃあ、あなたが一方的に知っているだけかしら」

ミレーユの言葉に、エドモンドは苦笑を零した。

「そうだな。俺が一方的に彼のことを知っている」
「伯爵夫人の愛人だと聞いたけど合っている?」

その問いかけに、エドモンドは目を見開いた。あまり彼が驚いているところを見たことのないミレーユはそんな彼以上に目を丸くする。

「なあに?」
「意外だと思ってね。まさかあなたから『愛人』なんて言葉が出てくるとは思わなかったよ」
「……私だって、それくらい知っているわよ」

母たるエリーチェと同じような反応をされたことが不満で、ミレーユは「ふん」と鼻を鳴らす。だが同時にこういうところがまだまだ子供っぽいのかもしれない。と気づいて、澄ました顔をつくった。

「……どうしたんだ?今日は頬を膨らませないのかい」

目を細めたエドモンドは、ミレーユの頬をそっと撫でる。ゴツゴツとした、お世辞にも滑りがいいとはいえない感触だ。
だけども、ミレーユはこの手が好きで……堪らなかった。際限なく甘えてもいい、と語るその手つきに「やっぱり結婚したい」と言いそうになる。

だが、乏しくない想像力が衝動的な言葉を塞ぐ。

結婚したとして幸せにはなれない。

公爵令嬢である自分が、幸せになる方法はたった1つ……結婚だけだ。

幸せになれない、相手を疑い疲れるだけの結婚など……長くは保たない。

だから「やっぱり結婚したい」など、口が避けても言えない。

「もう、子供じゃないんだから。そんなことしないわ」

ミレーユはそっと頭を引いて、エドモンドの優しい手から逃れた。
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