28 / 79
運命の足音
輪郭
しおりを挟む(私は……そんな運命に翻弄されるの?)
真っ白だった空間に、闇のような黒点が浮き上がった。それを境にして、また1つ、また1つと黒点が増えていく。
これは絶望。羨望。恐怖。憤怒。
そんなものだ。真白の空間にそれらはよく映えて、目の前をどんどん濁らせていく。
(このまま、黒く染まって……何も分からなくなって、それでどうするのよ)
泣き寝入りなんてしたくない。自分の運命を呪って、悲劇のヒロインぶるのは嫌だ。
泣くな、泣くな。
自分にそう言い聞かせる。
それでも、強大な力を持つ運命を相手にした時、どうしても心は運命に連れていかれそうになる。
このまま、流れに身を任せた方が楽なのではないか。
抵抗したとして、その努力は全部無駄になるのではないか。
そんな問いかけが、心を強く保とうとすればするほど、ひどく甲高い音をたてて心を穿つ。
「……ガブリエル」
魔法の言葉を紡ぐようにその名を読んだ。
何故かその名前だけは、その空間によく響き、自分にもよく聞こえた。目の前に浮かぶのは、相変らずの無表情で怜悧な美貌。優しい言葉なんてかけられたこともない。笑顔なんて見たこともない。それなのに、ずっと好きでい続けた。
それは、もしかしたら自分がロメリアだからなのかもしれない。
そんな疑問が一瞬、頭を掠めた。
でも、違う。と言い切れる。
前世の記憶が流れ込んでも、強大な運命を相手にすることになるかもしれないと分かっても。それでも。
それでも。
(……もう、どうしようもないじゃないの……っ)
足元に映るもう1人の自分が、涙を流しながら、胸元を抑えていた。
前世でこんなにも人を好きになったことはない。
思い浮かべれば切なく胸が痛くなるほどに、彼のことを好きになってしまった。今更、彼をどう嫌いになればいいのかなんて分からない。嫌いになろうとも……思えない。
(優しい言葉もくれないのに。笑いもしないのに)
それでも。幼い頃からずっと、彼のことが大好きで大好きで堪らなくて、可愛いと思ってもらいたくて、顔が見たくて、笑ってほしくて。
(……愛して、欲しくて)
どっと、熱い涙が頬を伝った。
それでようやくこの真白の空間にいる自分の輪郭を掴めたような気がした。
気がつくと、黒点に染められた空間は落ちて、足元に広がっていた。一方で上の方には眩しく輝く一点の光がある。
上にあがれば、そこは今の自分にとっての現実世界。
下にくだれば、堕ちるだけ。
(とても……とても分かりやすい選択肢だわ)
だけど、少し安心した。自分には選ぶ権利くらいはあるのだ、と。それが分かったから。
165
あなたにおすすめの小説
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。
陛下を捨てた理由
甘糖むい
恋愛
美しく才能あふれる侯爵令嬢ジェニエルは、幼い頃から王子セオドールの婚約者として約束され、完璧な王妃教育を受けてきた。20歳で結婚した二人だったが、3年経っても子供に恵まれず、彼女には「問題がある」という噂が広がりはじめる始末。
そんな中、セオドールが「オリヴィア」という女性を王宮に連れてきたことで、夫婦の関係は一変し始める。
※改定、追加や修正を予告なくする場合がございます。ご了承ください。
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる