愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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運命の足音

輪郭

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(私は……そんな運命に翻弄されるの?)

真っ白だった空間に、闇のような黒点が浮き上がった。それを境にして、また1つ、また1つと黒点が増えていく。

これは絶望。羨望。恐怖。憤怒。

そんなものだ。真白の空間にそれらはよく映えて、目の前をどんどん濁らせていく。

(このまま、黒く染まって……何も分からなくなって、それでどうするのよ)

泣き寝入りなんてしたくない。自分の運命を呪って、悲劇のヒロインぶるのは嫌だ。

泣くな、泣くな。

自分にそう言い聞かせる。

それでも、強大な力を持つ運命を相手にした時、どうしても心は運命に連れていかれそうになる。

このまま、流れに身を任せた方が楽なのではないか。

抵抗したとして、その努力は全部無駄になるのではないか。

そんな問いかけが、心を強く保とうとすればするほど、ひどく甲高い音をたてて心を穿つ。


「……ガブリエル」

魔法の言葉を紡ぐようにその名を読んだ。

何故かその名前だけは、その空間によく響き、自分にもよく聞こえた。目の前に浮かぶのは、相変らずの無表情で怜悧な美貌。優しい言葉なんてかけられたこともない。笑顔なんて見たこともない。それなのに、ずっと好きでい続けた。

それは、もしかしたら自分がロメリアだからなのかもしれない。

そんな疑問が一瞬、頭を掠めた。

でも、違う。と言い切れる。

前世の記憶が流れ込んでも、強大な運命を相手にすることになるかもしれないと分かっても。それでも。


それでも。

(……もう、どうしようもないじゃないの……っ)


足元に映るもう1人の自分が、涙を流しながら、胸元を抑えていた。

前世でこんなにも人を好きになったことはない。

思い浮かべれば切なく胸が痛くなるほどに、彼のことを好きになってしまった。今更、彼をどう嫌いになればいいのかなんて分からない。嫌いになろうとも……思えない。

(優しい言葉もくれないのに。笑いもしないのに)

それでも。幼い頃からずっと、彼のことが大好きで大好きで堪らなくて、可愛いと思ってもらいたくて、顔が見たくて、笑ってほしくて。

(……愛して、欲しくて)

どっと、熱い涙が頬を伝った。

それでようやくこの真白の空間にいる自分の輪郭を掴めたような気がした。

気がつくと、黒点に染められた空間は落ちて、足元に広がっていた。一方で上の方には眩しく輝く一点の光がある。

上にあがれば、そこは今の自分にとっての現実世界。

下にくだれば、堕ちるだけ。

(とても……とても分かりやすい選択肢だわ)

だけど、少し安心した。自分には選ぶ権利くらいはあるのだ、と。それが分かったから。



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