愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

文字の大きさ
41 / 79
藤色の花木は (ガブリエルside)

厭世と花 (ガブリエルside)

しおりを挟む
「……すまない」
「お前、本当に大丈夫かよ」

リュダが、心底心配そうに凝視してくる。体力的な面では大丈夫だ。何も問題はない。例え精神的疲労をしていたとしても鍛え上げた身体能力がすぐに駄目になるわけでもない。そう言った意味で、ガブリエルは頷いた。

「ふーん……全然、大丈夫そうには見えないんだけど。まあ、お前がそう言うんだから、今は信用してやる」

リュダはそこで言葉を切って、浅く息を吸うと言葉を継いだ。

「で、お前はなんでこんなとこ歩いてんの?王女様の護衛してなくてもいいのか?」
「交代制だ。もう仕事は終わった」

ガブリエルの数少ない言葉をリュダはすぐに理解する。王女の護衛と言っても四六時中彼女についているわけではない。夜はまた違う騎士が眠る彼女を護衛することになっている。

「そっか!俺も仕事終わったとこだよ。じゃあもう騎士の宿舎へ帰るんだな」
「……いや」
「ん?」
「街へ出る」
「え!?は?お前が街に?い、一体どうしたんだ!?」

そんなに驚かれるようなことだろうかと、ガブリエルは僅かに首を傾げた。そんな彼をリュダは再びまじまじと見て、1人納得したように頷いた。

「……や、やっぱりお前ものすごく疲れてるんだな」

リュダの驚きようも実は、当然だと言えた。
ガブリエルは人の多いところを好む人間ではない。
 
 特に王都の露店街は、以前彼が最も忌避していた場所だ。通常の街の露店街であれば、特に高価な物が売られていることはないのだが、王都の露店街は貴族達向けの露店が非常に多い。露店が成功すれば、大きな店を構える商人も多く、街は全体的に煌びやかな雰囲気に包まれている。ガブリエルは自身も貴族と同等の身分を持ち、父親は騎士団長、さらには遠く王族と深い関わりのある血族の母を持つ人間である。豪奢なものを好んでも不思議はないのだが、彼はどこまでも厭世的で、何かを自ら買い求めたり、豪遊したり、散財したりといったことをしているところを誰も見たことがなかった。

それが、一体どうして急に街に出るなんて言い始めたのか。

「……疲れていないが」
「ああ、うん。そういう話だったな。ごめん。それで……お前、一体街になんの用なんだ?」
「花を……」
「あ……なんだ、花か……。って、花!?」

あの、ガブリエルが花か……。とリュダは何やら考え始める。彼が思案に耽っているのを、ガブリエルは横眼に見ながら、窓の外をみやった。

すでに空は美しい朱色に染まりかけている。

(……この空を見ているのだろうか)

ガブリエルの脳裏に、無邪気に笑うロメリアの顔が浮かんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの姿をもう追う事はありません

彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。 王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。  なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?  わたしはカイルの姿を見て追っていく。  ずっと、ずっと・・・。  でも、もういいのかもしれない。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜

桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」 私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。 私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。 王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした… そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。 平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか? なので離縁させていただけませんか? 旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。 *小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...