愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

文字の大きさ
74 / 79
回復

食事

しおりを挟む

目の前に並ぶのは、黄金色のスープ、目に優しい緑のサラダ。
ミルク色のパンに、黄色のバター。
赤く熟れたトマトには、オリーブオイルと胡椒。
カラメルソースたっぷりのプリン。
熟れたメロンに、みずみずしい葡萄。

その他、彩り豊かな食事が所狭しとテーブルに並べられていた。

ロメリアは、それらを眺めやりながら、黙々と小さな口で一生懸命に食事をしていたが、ついに耐えきれなくなって声を上げる。

「そんなに見ないで頂戴」

こちらを熱心に見つめてくる視線に耐えきれずに顔を上げると、ガブリエルが相変わらずの無表情で悪びれる様子もなく興味深そうに頷いた。

「人が食事するところをこんな風に見るのは初めてだ」
「私も、食事するところをこんな風に見られるのは初めてよ」

不貞腐れたように、ナフキンで口元を拭いながら、ロメリアは唇尖らせる。

「大体、しばらくは来ないでって言ったじゃないの。まだ5日も経っていないわ」
「5日も経っている」
「……」

日の経過に対する人間の考え方は人それぞれである。故に、ロメリアは何も言い返すことが出来なかった。

それに結局のところ、ガブリエルが会いに来てくれたことは純粋に嬉しかったから、これ以上不機嫌を装うのも疲れて、ロメリアは話題を変える。

「あなたも何か食べる?」
「君の食事を奪いにきたのではない」
「分かっているわよ。だけど、私1人では食べきれないんだもの。もうお腹もいっぱいだし」
「……まだ、パンを少ししか食べていないようだが」
「これでも食べている方よ」

ガブリエルは唖然とした風に口を閉じる。

しまった。これでは心配して欲しいと言っているようなものである。ロメリアは慌てて言葉を付け加えた。

「これからたくさん食べられるようになるわ」
「そうか?」
「うん」

ロメリアはガブリエルを安心させるために「ほら見て、まだ食べられる」と言わんばかりに、フォークで果実を刺して食べて見せた。

実際、果実ならまだ食べられる。
問題は匂いがきつい肉料理だ。
肉を食べねば身体の回復も遅れるのかもしれないが、それでも無理なものは無理である。

さすがにそこまでは頑張れず、ロメリアは小動物のように果実をシャクシャクと咀嚼するしかなかった。

そんなロメリアを見て何を考えたのか、ガブリエルはテーブルに置かれた料理を見つめた後で口を開く。

「私もいただくことにする。いいだろうか?」
「うん」

すでに、ナイフとフォークは用意されている。ガブリエルはそれらを両手に持って、ほとんど音もたてずに食事を始めた。

思えば、ガブリエルが食事をするところをこんなにも近くで見る機会はあまりなかった。

幼い頃は何度か見たが、最近は見ていない。

食事をする時も、ガブリエルは彼らしく静かで、物音1つ立てない。

ピンと背筋を伸ばした姿勢は美しく、粛然とさえしている。

あまりにも彼らしい食事の仕方が面白くて、ロメリアは食事をする手を止めて、先ほど自らが言った不満を棚に上げて、彼を凝視する。

「……美味しい?」

彼が口へ運んだものを咀嚼し終えたのを見届けて、ロメリアは問いかけた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

あなたの姿をもう追う事はありません

彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。 王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。  なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?  わたしはカイルの姿を見て追っていく。  ずっと、ずっと・・・。  でも、もういいのかもしれない。

【完結】最後に貴方と。

たろ
恋愛
わたしの余命はあと半年。 貴方のために出来ることをしてわたしは死んでいきたい。 ただそれだけ。 愛する婚約者には好きな人がいる。二人のためにわたしは悪女になりこの世を去ろうと思います。 ◆病名がハッキリと出てしまいます。辛いと思われる方は読まないことをお勧めします ◆悲しい切ない話です。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

処理中です...