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第2章 14歳:嫉妬
第26話 「警戒って何のこと?」
しおりを挟むショックのあまり動けずにいた私は、ユーグに手を引かれて部屋を出た。
「君、大丈夫?」
そのことに気がついたのは、ユーグに顔を覗かれた時だった。
「え? ここ、何処?」
我に返った私は、間抜けなセリフを吐いてしまったが、気にする余裕はなかった。首を左右に振って、屋敷の廊下にいることだけは認識できた。
「えーと、さっきまでいた部屋を、右に進んでみたんだけど、分かる?」
「右? 右ね。うん、分かったわ。ここからだとダイニングが近いから、まずそこからでいい?」
「……君は僕のことを警戒しないんだね」
前を歩き始めた途端、ユーグに話しかけられた。それ自体はおかしなことじゃない。ただ、内容は聞き捨てならないものだったけど。
えっと、ユーグってこんなキャラだったっけ?
そういえば私、『アルメリアに囲まれて』のユーグルートは、コンプ目的でやっていたから、流れは分かるけど、細かいところまでは覚えていないんだよね。
ユーグルートはオレリアのいじめが酷くて、じっくりやれなかったのが理由だけど。適当に流してしまって、本当にすみません、製作者の皆様。
こういう時はどうするのが正解なのかな。うん、ここは選択肢に頼ろう。乙女ゲームらしく。
1.警戒って何のこと?
2.勿論、警戒しているよ
3.警戒してほしいなら、そういう風に接するけど
惚ける、宣言、希望を叶えてあげる、の三つを出してみたけど、どれも正解のようで、どれも違うような気がする。だったら、最初に思い付いた一番を選んでみよう。
「警戒って何のこと?」
「……僕のこと、聞いてない?」
「誰に?」
一体、何のことを言いたいのか理解できず、私はさらに質問を重ねた。
もしかしたら、リュカと同じで、ユーグもエリアスを従者にした関係で、性格が変わってしまったのかもしれない。本来は、気が弱い性格なのだから。ここは慎重に動くべきだと思った。
「誰って。……ん? あぁそうか、そもそも話していないと思うべきだったんだよ」
顎に手を当てて、ユーグは一人で納得して、私の質問には答えない。
「それとも、僕に説明させる気だったのかな。最初から」
私を無視して、さらに呟き続けるユーグ。
黒髪に紫色の瞳、とカルヴェ伯爵家特有の色を持ち合わせたユーグは、誰がどう見ても、カルヴェ伯爵家の人間そのもの。顔立ちだって叔父様ではなく、お父様にとても似ているのに。
まさか、中身は話を聞かない男の子だったなんて。気が弱いって設定は何処へ行ったの? どちらかというと、陰険に見えるのは気のせい?
「まぁいいや。仕方がない」
やれやれ、とさらに溜め息まで吐かれた。けれど私は、少しだけ安心した。何故なら、ヒロインだからって、無条件で攻略対象者に好かれるわけじゃないってことが立証されたから。
私は黙って、ユーグの言葉を待った。
「とりあえず、このまま屋敷の中を案内してよ。歩きながら説明するから」
「ありがとう、でいいのかな。よく分からないけど、落ち着いた場所で話さなくてもいいの?」
私は言われた通り、ダイニングに向かって歩き出した。するとユーグは、先ほどと違い、私の真横に並んだ。
「そんなことをしたら、僕たち婚約させられちゃうよ。君はいいの?」
「いくら異性と言っても、私たちは子供よ。室内で話したからといって、疑われるとは思わないけど」
そう、異性と二人きりで室内にいると、不貞を疑われるのだ。貴族というのは。だが、それは成人した者に限られる。
「そうじゃなくて、仲が良いって勝手に勘違いされた挙句、証拠まで捏造されて、強制的に婚約させられたらどうするのってことだよ」
「……えっ、叔父様はそこまでするの?」
「二年前、誘拐騒動があったのに、随分呑気なことを言うんだね」
「あっ」
そうだ。叔父様は目的のためなら、手段を選ばない人だったことを忘れていた。
「貴方がそれを言うってことは、少なくとも叔父様と同じ考えではないってことよね」
「ふ~ん。一応、頭が働くんだ」
さっきのことがあったため、バカにされても否定はできなかった。だって、まさかお父様に、あんな形で裏切られるなんて思わなかったのよ。
「まぁ、疑われるのは仕方がないから言うけど、僕は違う。むしろ父様と同じ考えをしているのは姉様の方だ。つまり、君が気をつけるべき人物ってこと」
「……最近、同じことを言われたわ」
「それって、エリアスだよね」
「どうして分かるの?」
私は立ち止った。目の前にはダイニングに通じる扉がある。
「だって、それを忠告したのが、僕だから」
「えっ?」
固まってしまった私の代わりに、ユーグが扉を開ける。私はまたしてもユーグに手を引かれて、ダイニングに入ることとなった。
この短時間で、すでに二回目のことである。
***
「君、本当に大丈夫? エリアスからはしっかり者だって聞いていたんだけど」
ユーグは私を椅子に座らせると、ダイニングにいた使用人に水を持ってくるように頼んだ。
「多分、エリアスが誇張して言ったんだよ。私はしっかりしていないもの。でも、さっきから意味深なことを言う、貴方も悪いんだからね」
「ユーグでいいよ。僕もマリアンヌって呼ぶから」
注意したばかりなのに、話が噛み合わない。が、すぐにまぁいいやと思った。
リュカはそれが思い込みによるものだったから怖かったけど、ユーグは違う。呆れて許してしまう。年下だから? それとも攻略対象者だからかな。
「それじゃユーグ。そろそろ回りくどい言い方はやめて、本題に入ってもらえない? そのために人払いをしたんでしょう」
さっきユーグは、使用人に水を頼む時、随分長々と話していた。恐らく水の他に、軽食を頼んだのかもしれない。これから屋敷を見学するから、腹ごしらえをしたいとかなんとか言って。
「ふ~ん。どうやら、誇張したわけじゃないみたいだね。うん、いいよ。本題に入ろうか」
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