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第2章 14歳:嫉妬

第31話 「オレリアの従者は大変?」

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「オレリアの従者は大変? さっきみたいに……たれたりするの?」

 あの時のオレリアに躊躇ためらいはなかった。その自然な流れもそうだったけど、リュカも驚く素振そぶりもなく、逆に普通だったのが気になった。
 もしこの光景が日常的なのだとしたら。そう思うだけでゾッとした。

「まさか、そのようなことはありません」
「本当に?」
「僕がオレリア様を庇ってどうするんですか。旦那様からは、何かあったら報告するように言われていますので、大丈夫ですよ」
「え? そうなの?」

 お父様、とことんオレリアとユーグにいてほしくないみたいね。もしくは、叔父様に言及げんきゅうできるネタがほしいのか。そのどっちか、かな。

「はい。でも、嬉しいです。心配していただけて。ずっと手紙ばかりだったので、こうしてお会いできたのも」
「さっきのオレリアの態度を見ていたら、心配するのは当たり前よ」
「でも、そのせいで怪我しそうだったじゃありませんか。あのようなことは、控えてもらえますか? 一応、僕も男なので、平手打ちくらい、なんてこともありません」
「……ごめんなさい」

 いくら主人のような立場でも、女の子に、しかも好きな女の子に庇われるのは、嫌だよね。

「あと、使用人に謝るのも控えた方がいいですよ。他所でやると、軽く見られる可能性がありますから」
「ウチの者たちはしないよ」

 やっぱりオレリアみたいなのが普通なのかな、貴族令嬢としては。でも、マリアンヌの記憶でも、彼女は使用人に対しても謝っていた。転生前の私は、またしかり。

「皆、分かっていますから。それでも少しずつ変えていった方がいいです。僕はその、お嬢様の貴族らしくない振る舞いは好きですが、“やっぱり”って仰る方がいらっしゃいますから」
「“やっぱり”って、どういうこと?」

 それとさっきリュカが呟いたことが、脳裏に浮かんだ。

 私が本物のマリアンヌじゃないって疑われているの? いやいや、何を根拠に。だとすると、何が“やっぱり”なんだろう。

「大丈夫ですよ、僕がいますから。こういうの、エリアスは指摘しないでしょう」

 ん? ただ単に、エリアスへの対抗意識だったのかな。

 私たちは長い廊下を歩き終え、庭園に続く扉を抜ける。

「お嬢様」

 たった数段しかない階段なのに、リュカは左手を差し出した。私はふふふっと笑いながら右手を乗せる。

 こんな風にエスコートしてみたかったんだね。

 何だかんだで、エリアスに対抗意識を抱くのは、自分のしたいこと、したかったことを取られてしまったからだと思うから。だから今は、リュカの意思に沿った。

「様になっているのは、勉強の成果?」
「はい。と言いたいところですが、まだまだ未熟なので、お嬢様にはできたところしかお見せしたくありません」
「別にいいのに、私は。リュカが何を学んだか知りたいし」
「……では少しだけ」

 リュカはそう言うと、胸に手を当ててお辞儀をした。

 お父様の執事であるポールのような洗練されたものではなかったが、流れるような動きに、相当練習したことが窺えた。

「お手を失礼します」

 私の右手を取り、リュカはひざまずいた。

「リ、リュカ!?」
「お嬢様に一つだけお願いがあります。聞いていただけますか?」
「私にできることならいいよ」

 ホッとする表情を見せても、リュカは立ち上がらなかった。

「ありがとうございます。一度だけ、エリアスを通さずに手紙を渡してもよろしいですか?」
「え? 手紙? 何で?」

 それも一度だけ。お願いというには、何ともお粗末なものだった。

「これから僕も忙しくなるので、直接渡せる機会がないんです。だからせめて、一度くらいはと思いまして……」
「うん。そういうことならいいよ」

 理由がエリアスじゃないのなら、という言葉は、胸にしまっておいた。こんな嬉しそうなリュカを見たら、言えないよ。
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