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第2章 14歳:嫉妬

第33話 「協力してあげてもいいわよ」(オレリア視点)

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 あぁ、気分がいいわ。何がって? 飛んで火に入る夏の虫がやってきたのよ。いいえ、鴨が葱を背負って来たとも言うわね。

 二階の廊下を歩きながら、私は部屋に置いてきたマリアンヌの姿を思い出した。

 何が栞よ。あんな物、いるわけがないでしょう。

 顔を合わせたくないから、わざわざメイドを使って断ったのに、のこのこやって来るのが悪いのよ。まぁ、元々気に食わなかったのだからちょうど良かったけど。

「楽しそうですね。よろしければ、教えていただけないでしょうか」

 隣を歩く長身の男が尋ねてきた。本来なら使用人には、後ろを歩かせるんだけど、この男エリアスは違う。

 だって、これだけ格好良いのよ。後ろを歩かせるなんて勿体ない。

 スラッとした見た目の割に、がっしりした体つき。サラサラした茶髪と、緑色の瞳が爽やかさをかもし出している。
 平民でなければ、もっと積極的にアタックするのに。それができなくて残念に思ってしまう。

 でも、身分の高い男を捕まえて、身分の低い男を愛人として囲っている夫人なんて、珍しくもない。今からでもキープしておくのも、いいんじゃないかしら。

 いずれ、カルヴェ伯爵家はお父様の物になるんだし。そうすれば自然とエリアスも、私の物になるわ。
 あんな冴えない子より、私のような美人の方が、エリアスだって良いと思うの。だから、快く付いて来てくれたんでしょう。

「いいわよ。今は、エリアスといるから楽しいの」
「今は、ですか。リュカはお気に召しませんでしたか?」
「えぇ、物足りないわ。見た目は普通だし、貴方みたいに気の利いたことが言えないんだもの。嫌になっちゃうわ」

 すると、エリアスの口角が僅かに上がったように見えた。

 さっきはリュカと一緒に睨んできたから、仲が良いのかと思ったけど。ふふっ、いいわね。そういう一面も。

「やっぱり連れて歩くのなら、貴方みたいな人がいいわ。エリアスだって、私みたいな美人が合うと思うの。そうだ。伯父様に頼んで、変えてくれるように言おうかしら。あの子だって、さっきみたいに快く引き受けてくれると思わない? リュカのことを気にかけていたんですもの。良いって言うに違いないわ」
「……オレリア様は明日、帰られるんですよね。それなのに、俺とリュカを交換したいと言うのは、おかしいのではないですか?」
「ふふっ、そうでもないわ。色々お土産があるから、荷物持ちとして、リュカも連れていくの。どうかしら、エリアス」

 チェンジしても、何も問題はない。そう、お父様はリュカだろうがエリアスだろうがのだから。

「……俺はマリアンヌ様の護衛も兼ねた従者です。リュカと交代することはあり得ません」
「護衛? ふ~ん。伯父様は過保護なのね。でも、ユーグと婚約すればどうかしら。その必要はなくなるのではなくて?」
「例えユーグ様と婚約したとしても、婚約であって結婚ではありません。未成年であるマリアンヌ様の保護者は旦那様ですから、俺を傍に置くか置かないかは、ユーグ様が決めることではないと思います」
「そうね。でも、ユーグだって男の子よ。見てちょうだい。意外とあの子のこと、気に入ったのではなくて?」

 私はあえて庭園が見えるような場所を選んで歩いていた。そう、東屋まで見渡せる、二階の廊下を。

 案の定、東屋の屋根から、楽しそうに談笑をするマリアンヌの姿が見えた。ユーグは屋根に隠れて見えなかったが、これで十分効果があるに違いない。エリアスにとっては、ね。

「ユーグは気が弱いけれど、弱いからこそ、好きな女の子の傍に男を置けるかしら。そんな寛大だとは思えないわ」
「随分と、自信がおありなんですね」
「姉だもの。弟のことくらい分かるわ。それにね。貴方やリュカが好きになる子だもの。ユーグだって、おかしくはないでしょう?」

 鎌をかけてみると、エリアスは驚いた表情を見せた。もしかして、分からないとでも思ったのかしら。貴方たちがマリアンヌを好きなことくらい、態度、言動を見れば、丸分かりだというのに。

 あまりにも滑稽こっけいすぎて、私は高笑いをした。

「そんなに好きなら、協力してあげてもいいわよ。お父様と伯父様が話をまとめる前に、あの子をエリアスのものにできる方法があるの。試してみたくない?」
「っ!」

 動揺している。まぁ、無理もないわね。だって、さっきまでエリアスが好きとも言える態度を取っていたんだもの。

 それが手の平を返すように、エリアスの恋を応援するようなことを言えば、だれだって驚くわ。警戒もするでしょうね。リュカと違って。
 だからこれは、あくまでも保険に過ぎない。確実に計画を成功させるための。

「興味があれば、明朝みょうちょう、私の部屋に来て」
「……参考に、どのような方法ですか?」
「ふふっ、それはひ・み・つ。だけど、リュカにも同じ提案をしたわ」
「まさかっ!」

 途端、エリアスはきびすを返した。その腕を、私はすぐさま掴む。

「大丈夫よ。庭園を見たでしょう。マリアンヌに何か変化は見られて?」
「あっ。すみません」
「いいのよ。仕事に忠実ってことじゃない」

 これはちょっと期待できるかも。うまくいけば、エリアスも同時に手に入れられるかも。ふふふっ、明日が楽しみだわ。

 私はエリアスの腕を離して、視線を窓の外に向ける。お茶に口をつけるマリアンヌの姿に内心、笑いが止まらなかった。
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