54 / 116
第3章 16歳:出生
第54話 「どういう関係なの?」
しおりを挟む首都の憩いの場であるデデク公園は、今日も賑わっていた。
当然だ。夏の暑さが残った爽やかな秋晴れ。散歩日和ともいえる気候に、この広いデデク公園に来ないのは勿体ない。
そこは異世界も同じようで、園内には貴族から平民まで多種多様な人々の姿があった。
だから私が、ケヴィンを連れて歩いても、誰も不思議に思わない。
デデク公園を昼食の場に選んだのには、もう一つ理由があった。それは、バルニエ侯爵の存在だ。
二年前に、デデク公園を訪れていると噂されていたが、だからといって、今も続いているとは限らない。それでも私は外出する度、足しげく通っていた。
勿論、成果はなかったけど。
それなのにどうして? と思うだろう。不安だからだ。
エリアスはもう、侯爵になることはない。お父様から次期カルヴェ伯爵となるべく、指導を受けているのだ。そのため、私もエリアスを侯爵にする意思は無くなった。
エリアスの努力を無駄にしたくなかったからだ。
だったら尚更、と思うかもしれない。でも、空いたバルニエ侯爵の後継者問題はどうなるだろう。誰がなる? さすがに没落はあり得ない。
変えてしまった未来に、不安を抱かないわけにはいかなかった。他ならない、私が変えてしまったことだったから。
「お嬢様。お待たせしました」
私とケヴィンが木陰で休んでいると、ニナとテス卿がやってきた。デデク公園内にあるお店から買ってきた昼食を、持って来てくれたのだ。
いつもならカフェテラスで食事をするんだけど、ケヴィンに断られたためだ。
お礼をしたくて誘ったのに、不快な思いなんてさせたくない。そのため、私は二つ返事で承諾した。
たまにはこういうのもいいしね。
「エリアスから私のことを頼まれたって言っていたけど、どういう関係なの?」
サンドイッチを食べているケヴィンに、私は素朴な疑問を投げかけた。
「どういうって、ただの知人ですよ。……他になんだと思ったんですか?」
「えっと、親しい……間柄? 私のことを頼むくらいだから」
エリアスはユーグと親しいというより協力関係だった。リュカは犬猿。すると、ケヴィンはなんだろう。ただそう思っただけなんだけど、訝しげな反応をされてしまった。
乙女ゲーム『アルメリアに囲まれて』のヒロインである私は今、エリアスルートに入っている。それは確実で、違っていたらむしろ困ってしまう。
本来エリアスルートには出てこない、攻略対象者であるケヴィンに会ったのだから、相関図を確認したくなるのは仕方がなかった。
二年前はそれでリュカを傷つけてしまい、罪まで負わせてしまったのだから。同じ過ちは繰り返したくなかった。
「そうですね。頼み事はよく聞きますよ。だからといって、親しいとまでは」
「エリアスの……惚気を聞いてるって言っていたのは?」
それこそ、親しいからする話だと思うけど、と問いかけると、ケヴィンは不意に、にんまりと笑った。
「つまり、お嬢さんは俺にヤキモチを妬いているってことですか?」
「えっ、ヤキモチ? なんで? そんなわけないじゃない」
どうしてここで、そんな突拍子もない発想をするの?
「そりゃ、自分と会う時間を削って、俺と会っていると思っているからですよ」
「そ、そうなの?」
「んなのあると思いますか? 冗談でもやめて下さい。エリアスは深夜、お嬢さんに会えない時間帯にやってくるんですよ。『今日もマリアンヌは可愛い』だの『部屋から出る時の表情がいじらしくて辛いんだ』とか。伯爵邸では言えないようなことを言いたいがためにね」
「~~~~っ!」
た、確かに、同じ使用人相手に言うのは……やめてほしい。私が堪えられない。
ケヴィンはサンドイッチを平らげると、さらに問題発言をして私を赤面させた。
「それとも、そんなに疑いたくなるほど、エリアスの愛情表現は足りませんでしたか?」
「た、足りないなんて……」
思うのは一緒に過ごす時間だけ……ってそんなこと、言えるわけがないでしょう!
すると横から援護射撃がきた。
「お嬢様を困らせるのはやめなさい。お店を紹介してくれたことには感謝するけど、非礼をしていいわけではないのよ」
ニナだ。斜め後ろに座っていたが、前に出てきて助けてくれた。
さすが私のお姉様のような存在。
転生してから四年。心細さを感じないでいられたのは、きっとニナのお陰だ。
私が本物のマリアンヌじゃなくなっても、お父様と同じで、変わらぬ愛情をくれたから。
「あと、これをネタにエリアスを焚き付けるようなことを言ってもダメ。いいわね」
「大丈夫ですよ。二人の仲まで協力する気はないんで」
「協力?」
つまり、ケヴィンはユーグと同じ協力関係にあるってこと?
すると、ケヴィンは私の言葉に怪訝な表情をした。
「エリアスに聞きませんでしたか? 二年前、解毒剤を用意したのは俺なんですよ」
“二年前”と“解毒剤”の単語で、私は思い出した。
エリアスがユーグと孤児院の子供に協力してもらって、オレリアと叔父様から私とお父様を助けてくれたこと。
確かにその時、ケヴィンの名前もあった。
あぁ、なんで気づかなかったのよ。ううん。色々あり過ぎて、理解するのがやっとだったんだから、無理もないかも。
一遍にあれもこれも聞いて、整理する間もなく、領主館に行ったんだから。
そっか。あの頃から二人は知り合いだったんだ。
「あっ、ごめんなさい。あの時はバタバタしていて、よく覚えていなかったの。でも、ちゃんとエリアスは教えてくれたから」
目の前にいるケヴィンと、二年前に聞いたケヴィンが同一人物だって気づいたのは、今だけど。
「改めてありがとう、ケヴィン」
「いえいえ、ご無事でなによりです。あの時は、いきなり物騒なことを言うので、驚きましたけど」
「私もまさか、あんな目に遭うとは思わなくて。助かったのはエリアスとケヴィンのお陰ね」
だから邪険にしないであげて、とニナに視線を向けた。
「そうですね。でも、お嬢様自身も気をつけるように心がけてください」
「……反省しています」
逆にニナからの視線が痛くて、私は逃げるように、残りのサンドイッチを食べた。
0
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる