中国夜話 毛沢東異界漫遊記

藤原 てるてる 

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女スナイパー、ウクライナに参上の巻(二十二話)

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独ソ戦、スターリングラード攻防戦では、街が血に染まった。
この都市を落せば、カフカスの油田が手に入る、ドイツは油にも飢えていた。
なまじスターリンの名を冠したこの町は、ドイツ南方軍集団の熾烈極まる攻撃を。
迎え撃ったソ連軍は、背後をヴォルガ川とし逃げようがない、そればかりか味方にも。
党直属のスメルシに退却は逃亡とみなされ、機関銃の蜂の巣にされた。
武器弾薬も無く、人の塊となって白兵戦を挑んでいったのであった。

そんな中、ソ連はスナイパーを養成し前線に投入した。
弾が無いのである。少ない弾で確実に撃ち、戦局の好転を計った。
大者狙い、師団、連隊の参謀、大隊や中隊の指揮官を狙い撃ちした。
この女スナイパーは、ドイツ兵を百近く殺した英雄である。
だが、その彼女は、散って行った。スターリングラードの花として。
凄腕ドイツスナイパーに撃たれた。侵略者を許さないという声は消えない。
そう、私は現代に蘇らせたい。彼女に出て来てもらいたい。
今度はロシアに対峙してもらいたい。ナチスに立ち向かった、あの魂で。
彼女はロシア人である、なれど、なれど侵略者を許さない心は同じだ。
ウクライナの為に、ウクライナ人スナイパーとして現れてもらいたい。
この物語の毛沢東に、口説き落としてほしい……


毛沢東 「あなたの事は知ってます。国民英雄ですな、赤い狙撃手」
    「ロシア人ですな。愛国心でスターリングラードで活躍し、称えられま
    した」
    「それは良くと、わかっておりますが、お願いの義があるのです」
リューバ「私はリューバ、ルースキーよ。ウクライーナではないわ」
毛沢東 「ええ、そうなんですが、あなたの狙撃の腕を見込んでの事なのです」
    「今の下界でのウクライナを舞台とした戦を、何とかしたいのです」
    「兄弟が兄弟殺しをしとるのです。骨肉の修羅場と化しておるのです」
    「どうかここは、ウクライナ兵として現れて、野望に立ち向かってもらいた
    いのです」
    「是非とも、あなたに置かれては、ロシア軍の指揮命令系統に打撃をと」
    「そう、雑多の兵ではなく、将官や指揮官らの狙い撃ちをと、是非に」
リューバ「前の独ソ戦の時は、ウクライーナと共にナチと戦ったわ、でも」
    「私には同胞打ちは出来ないわ。私はロシアを愛している、だから志願
    した」
毛沢東 「では、あなたのスターリングラードでの話を聞かせて下され」
リューバ「ダー、いいわ。それは思い出したくも無い事だけど、ええ……」
    「ただ侵略者が憎かった。ロシアの大地を壊し、殺戮の限りを尽くした」
    「そう、そこで私は撃たれ、死んだのよ。22だったわ」
毛沢東 「痛み入ります。あなたは、敵を数多く狙い撃ちで仕留めましたな」
    「狙撃手の腕や、さぞや素晴らしかったのですな、その証ですな」
    「もっと、語っては下さりませぬか」
リューバ「ダー、私はスナイパー、コードネームはKK、髪に赤いリボン付けてた」
    「これは目印、仲間のソ連兵の目を引く為よ、この兵もタチが悪いの」
    「戦場では生きるか死ぬかね、男らは敵も味方も女には容赦しなかったわ」
    「女の兵士は、敵に捕まれば、まわされた挙句、とどめを刺される」
    「味方だってそうよ、殺しはしないけど、隙さえあれば襲ってくるわ」
    「でもね、そこを利用するのよ、ちやほらさせといて、素性を隠すの」
    「スナイパーはね、敵も味方も誤魔化してまでも、獲物を狙うのよ」
    「兵達は私の正体に気付かなかったわ。そうして部隊に紛れ込まされたの」
毛沢東 「なるほど、味方を騙してからですか。ただの、可愛い女兵士にと」
    「ソ連兵は、今度は夜になると、敵みたいになるのですな」
    「これじゃ、あなたの正体に気付きませんわな、頭ぽっぽですな」
    「でも、かわしてたとすると、どうやって、その……」
リューバ「あの、それはね、男の目の中に入るのよ、狼になって飛び込むの」
    「私は狼、あなたは獲物、あなたは喰われる、私にってね」
    「まあ、仲間は仲間、その男が怖気付けば、それでいいわ」
毛沢東 「狼の目で防ぐのですな、でも、ドイツ兵だと、その目で仕留めるので
    すな」
リューバ「ダー、ダー、私は本当の狼となってとどめを刺す」
    「狙撃はね、相手のみぞおちを狙うのよ、ど真ん中をね」
    「たとえ外れても、どこかに当たるかもだから、そうするの」
    「中には頭を狙うのもいるけど、よっぽどの腕ね、私はそうしなかった」
    「あのね、仲間のイリッチはね、ドイツ親衛隊の軍帽のどくろを狙って
    たわ」
    「彼は優秀よ、手柄を沢山たてたわ。私の憧れだった、でも……」
    「スナイパーはスナイパーに撃たれる、より凄い奴にね」
    「私よりも先に消えてった、眉間を狙われて、お仕舞いに」
毛沢東 「リューバさん、今のロシアは一握りの悪党に乗っ取られているのですぞ」
    「だだの兵ではなく、指揮官連中を仕留めるのです、ロシアを救う事になる
    のです」
リューバ「国を救う? それは国の為だったら、私はまたスナイパーになるわ」
    「ウクライーナに味方し、戦を早く終わらすのが、国の為なのね」
    「ハラショー、指揮官に狙いを定めて、戦場に舞い戻るわ」
    「ダー、ダー、あの頃に帰ったように、みぞおち狙いね、任せて」
毛沢東 「ウクライナもロシアも救うために、頑張って下され……」


スナイパーは、石にも木にもなる、風下から襲いかかる狼にもなる。
己の存在を消し、まわりに同化して、その時をじっと待つ。
先に一発打って外し、二発目を打った瞬間に、今度は敵のスナイパーにやられる。
このリューバは、スターリングラードの可憐な花として散った。
好きだったイリッチみたいに、眉間をだった……
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