実話ベースのエッセイ短編集

雲条翔

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正解は知ってるけど、言えない (その4)

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「結局、業者さんもそこまでは分からない、ということでした。誰が、教科書を受け取りにきたかどうかのチェック表はつけていましたが、時間までは……」

「そうですか……」

 落胆するS先生。

 私は、内心でほっと安堵のため息をついていました。
 決して表情には出さないように、細心の注意を払いながら。

 S先生は、教壇に戻ります。

「……10分経ちました。卑怯者は嫌いですが、卑怯者に邪魔されるのはもっと嫌いですので、講義を始めることにします。でも、ズルをする分だけ、損するという事実は、絶対に消えないので、この中にいるは、それを知っておいてください」

 私の称号は「卑怯者」から「」にランクアップしたようです。皆の知らないところで。

「今、ここで名乗り出にくいのならば、講義が終わってからあとで返しにきてくれてもいいです……さあ、講義を始めます。まずはテキストの最初のページを……」

 そして、気まずい空気の中、明らかに不愉快そうなS先生による講義の初回が始まりました。

 ゴタゴタがあったせいで、大幅に削られた残り時間では教科書の中身は大して進まずに、すぐにチャイムが鳴りました。

 それからも、結局のところ……私は「解答集」を返しに行けませんでした。

 S先生に怒られると思ったら、名乗り出ることはできなかったのです。
 その後も苦労することになります。

 難しかったのは、「正解の案配」。

 先にも言いましたが、私は英語が苦手なのです。

 ですが、家には魔法のアイテム「解答集」があります。

 S先生が「次回は問題集の○ページと○ページの問題を小テストで出題しますから、予習しておくように」と予告した場合、私はその正解を知ることができます。

 どこまで正解なら。
 どこまで不正解なら。
「解答集」を持っていない、「英語の苦手なヤツ」の回答レベルになるのだろうか。
 その「さじ加減」に、えらく気を遣うハメになったのです。

 当たりすぎると、「8人目はお前かー!」とバレてしまうでしょうし、かといって外れすぎると「何を勉強してきたんですか」と怒られるのは目に見えています。
 適度に、絶妙な具合に、当たったり、外れたりを考えなければいけません。

 S先生はとにかく怖いのです。

「解答集」を見ずに、全部自分の力でやれば済む話なのですが、英語が苦手な身としては「やっぱりラクしたい」と思って、解答集を見てしまいます。

 S先生の講義の時は、「犯人らしくないように」一言一句の言動に気を配って、精神的にやたらと疲れたのを覚えています。

 墓の中まで持って行こうとした秘密でしたが……こうして吐き出せて、正直、胸の内がスッキリしました。

 人間、正直が一番ですね!

 ちなみに、解答集は庭で燃やしたので、証拠はありません。

 偶然にも、このS先生のエピソードを覚えている私と同じ大学の人、あるいはS先生ご本人が、この文章を読んで「お前が8人目だったのか!」と身バレして、詰め寄ってきても、私は「え? 何のこと? 証拠あるの?」とすっとぼけると思います。

 どれだけ年が経過しても、S先生はやっぱり怖いのです!

 先程、「正直が一番」と言いましたが、「二番」に改めたいと思います。

 一番は「保身」。

 私、「」ですからね。


  <完>
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