実話ベースのエッセイ短編集

雲条翔

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警察手帳とジャンプ <後編>

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 視線の先は……私が手にしていた『ジャンプ』だ。

「ちょっと、ジャンプ見せてくれる?」

「ジャンプ?」

「少しでいいから貸して。今週のドラゴンボールだけ読ませて。五分で終わるから。先週から続きがどうしても気になってて」

「はあ……」

 私は拍子抜けしながらも「大人もジャンプ読むんだ」など、妙な感心をして、『ジャンプ』を手渡した。

 受け取ったオッサンは「ありがとねっ」と子供っぽい笑顔で、ページをめくりはじめた。

 そして、「ドラゴンボール」のページまで行くと、指が止まり、

「お、あった。ふむふむ……そう来たか。ずるいよね、この展開。なんでコイツ生きてんの」

 と、ぶつぶつツッコミながら読み始めた。

「ドラゴンボール」を読み終えると、「ふー、これでスッキリした……」と、嬉しそうな、満足な顔で、『ジャンプ』を返してきた。

「さて、行くか。学校をサボッたり、疑われるような行動は、しないこと。じゃあね」

 と、オッサンはベンチから立ち上がって、行ってしまった。



 翌日、学校で友人にこの話をした。

「それって本当に警察関係者だったのかなあ。見せたのは、警察手帳だったの?」

「そう言われると、よく覚えてないんだけど……うわードラマみたいだ、という興奮があって、細かいところまで見なかったかも」

「俺、刑事じゃない気がするなあ」

 友人は、オッサンに対して懐疑的だった。

「サボッてる生徒に声をかけるような補導担当の人だったら、おばちゃんとかじゃない? しかも、街に溶け込めるような、目立たない私服姿でさ。スーツ姿のオッサンが、そういう仕事するのかなあ、って俺は思うんだけど」

「必ずしも、おばちゃんだけとは限らないだろ。スーツ姿のオッサンで、補導担当もいるかもしれないじゃないか」

「そうだけどさ……もし、そのオッサンが、警察関係じゃないとしたら。警察官を名乗るってのは、なんか罪になるんじゃなかったっけ。ミブンサショウとか?」

「そういうのは、よく分からないけど。じゃあ、オッサンの目的は、何だったのかって話になるよな。なんでニセの警察手帳を見せてまで、俺に近づいてきたのか」

「単純に、ジャンプが読みたかっただけのオッサンだったりして」

「単純に、ジャンプが読みたかっただけのオッサンか……」

 次の瞬間に、私と友人の声がシンクロした。

「『少年ジャンプ』なのになあ……」

 そして、ふたりで爆笑した。

 私と友人の会話は、根拠のない空論に過ぎない。
 結局のところ、オッサンが本当に刑事だったのかどうか、今でも分からないままだ。

『ジャンプ』を読みたかった、普通のオッサンが、黒い表紙のただの手帳を使って警察関係者のフリをして子供に声をかけて、『ジャンプ』を読んだ。

 真相としては、そっちの方が面白いような気がする。
 オッサンを童心に返らせるほどの魅力があるのが『少年ジャンプ』なのだと。


 <完>
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