実話ベースのエッセイ短編集

雲条翔

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警察手帳とジャンプ <前編>

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 警察官から警察手帳を見せられて「こういう者ですが」と言われるシーン。

 刑事ドラマなどではお馴染みだが、実際の自分の人生において、「こういう者ですが」と名乗られたことがある人は、どれだけいるだろうか。

 私には、ある。

 しかも、「あれって本当に警察だったのかな」と、あとから思うと不思議に感じる出来事だった。

 今から随分と昔の話。

 高校生だった私は、駅のキオスクで『週刊少年ジャンプ』と、サンドイッチとカフェオレを買い、ホームのベンチに座っていた。

 それは3月で、卒業式シーズン。

 通常の「3学期」の授業期間はもう終わっており、高校1年生だった自分は、間近に控えた3年生の卒業式の準備と、予行練習だけやって、午前中で帰っていいことになっていた。

 私は、帰宅の電車に乗るため、駅にいた。
 この方向に帰るのは私ひとり。話し相手はいない。同じ制服の姿は見当たらなかった。

 正午を回った頃。
 駅のホームで『ジャンプ』を読みつつ、サンドイッチを頬張り、カフェオレをストローからずずずっと吸っていた、その時。

 私の隣のベンチに、スーツ姿の中年男性が座った。
 高校生の自分から見て「ハゲかかったオッサン」だった記憶があるので、年齢は四十代~五十代だったろうか。

 そのオッサンは、私の方をじっと見た。
 視線に気づき、私も『ジャンプ』から顔を上げた。

 オッサンが口を開く。

「キミ、高校生? 制服、○○高校のでしょ? こんな時間にどうしたの。学校は?」

「え……?」

「あ、私、こういうモンだけどね」

 オッサンは、スーツの胸元に手を入れると、黒い手帳のような物をチラリと取り出して、一瞬だけ見せると、すぐにしまい込んだ。

(あ、これ、刑事ドラマでよく見るやつ! 刑事さんだ、この人!)

 私はそう感じ、「警察関係者が、平日の昼間に、学校に行っていない高校生を見つけたので、補導や注意という名目で声を掛けた」という流れなのだろうと思った。

「あの、僕の学校、今日は卒業式準備だけなので、午前で上がりなんです」

 緊張しながら、状況を説明した。警察の人と話すのは、初めてだった。

「一応、生徒手帳見せてくれる?」

「あ、はい」

 私は、カバンの中から生徒手帳を取りだして、見せた。

 オッサンは、生徒手帳に貼った顔写真と、私の顔を見比べ、「○○くん、ね」と名前を確認した。

「サボリじゃないならいいんだ。ゴメンね、急に声かけて」

 オッサンは苦笑してみせた。どうやら、誤解は解けたようだ。

「ところで」

 オッサンの目が動く。まだ何かあるのか。
 視線の先は……私が手にしていた『ジャンプ』だ。

「ちょっと、ジャンプ見せてくれる?」

「ジャンプ?」


 (続く)
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