TSしてないのにTSしたと言われる男の受難

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〈高2 :1学期〉

2.正気じゃない桐崎 *

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 なんちゃって締め技を桐崎にかけたら、少し気持ちがスッキリした。
 締め技をかけたのになんかニコニコしてる桐崎はまだ頭が正常でないらしい。何ニコニコしてんだこいつ、と睨めつけたがまだニコニコしてる。
 は~~と盛大にため息をついてから、床に座って卓袱台に鞄から出した宿題を並べた。今日の宿題は数学と物理か。物理はよく分かんないし、数学からやろう。

「え~っと今日は教科書のP.38から、っておい、桐崎。お前もしろ」
「ふふ、うん。可愛いね」
「頭イカれてんのか」

 今日の桐崎は本当に会話にならない。適当に数学をやってささっと帰ろ。物理は答え見ながら何がどうなってんのか理解しなきゃなんないしな。つか、答えないと無理だし。

 チクタクチクタク、時計の進む音が耳にやけに残る。いつもなら桐崎と適当に駄弁りながらする宿題だが、今日は何だか話す気にあんまりならない。桐崎なんか変だし。
 こういう時に限って小さな計算ミスを連発してなかなか宿題が進まない。何やってんだ俺。早く帰りてえ。

 桐崎は早々に宿題を終えたのか、さっきまで正面に座ってたのにこちらに近づいてきた。来んなコラとか思ってたら、自然な流れのように抱き上げられて膝の上に乗せられた。

「は??」
「いや、宿題分かんないとこあれば教えるよ?」
「いやいや、待て。そっちじゃない」
「なに?」
「この体勢こそなに?」
「いつもしてるじゃん」
「なになに??お前の妄想の話??」
「妄想の中ではもっと凄いことしてる」
「知りたくなかったし聞いてねえしマジでどうした」

 意味が分からんすぎて膝から降りようとするが、降りられない。体の前で組まれてる腕は鉄かなんかか??お前いつからロボットに??

「...あ~~お前今日まじでなんか変じゃね」
「そんなことないけど。江本こそどうしたの?」
「どうしたのって何が」
「ん~~骨格とかもやっぱり変わってるね?」

 そう言いながら、人の身体をペタペタと触ってくる桐崎。特に上が半袖の制服なので防御力が低かった。やめろやめろ。腰を何度も撫でるな。ちょっとこしょばいし。胸あたりもめっちゃ厳重に確認してくるじゃん。え、ほんと何??男の胸に何を期待してる??すっとボケて有耶無耶にしたいが、頭の中で警戒音がガンガン鳴ってる。

「胸さ慎ましくなっちゃったね」
「男の胸に慎ましいも何もないだろ」
「...男?そうだよね~ん~~そんな気はしてたけど。乳首もちっちゃくなっちゃった」
「おいバカやめろ。人の乳首を摘むな」

 乳首なんか日頃意識しないから、触られるとビビるし、両手で両乳首を捏ねるように触られても何も感じないが普通に怖いからやめてほしい。昨日までこんな距離感じゃなかったよな??何処の世界線の話してる??
 乳首がちっちゃくなっちゃったって何の話??マジで誰の話してるんだ??

「...朝はびっくりしちゃって変な反応してごめんね。でもよく考えたら、恋人をまた開発できるとか役得だもんね?」
「恋人とか何言ってんだ。ずっと友人だったろ」
「ん~~記憶の混乱かなあ?身体変わっちゃうとか一大事だもんね」
「変わってない変わってない。生まれてからずっとこのまま」
「大丈夫だよ~~」

 大丈夫と言いながら人の乳首は捏ねてくるし、片方の手を下半身のブツの方へ伸ばしてくる。慌てて下半身のブツを両手で守るようにした。

「人の股間まで触ろうとかするとかイカれてんのか」
「可愛いね?」
「会話、会話をしろ。ん、何処舐めて」

 いきなり耳たぶを背後から舐められたんだが。驚いて両耳を隠すと下半身が無防備になった。やばい、と慌てて隠そうとするがそれよりも先に桐崎の手が早かった。

「それなりに大きいね?」
「人のブツをそれなり呼ばわりするな。というか離せ。んん、離せってば」

 ブツを触る桐崎の手を離そうとするが離れない。相手は片手でこっちは両手でやってんだぞ。制服の上からとはいえ、ブツを触られてるせいで勝手に体が反応してきた。やばい。生理現象。これは生理現象。

「ふふ、大きくなってきたね?」
「ん、お前のイケメン度でもこれはないぞ。っっ、エロ親父みたいなこと言ってんじゃねえ」
「ふ~ん、そういうことしてほしいの?」
「言ってない言ってないってばぁ」

 変なところで声が裏返る。やばい、感じてるのがバレるしマジで最悪。ズボンに当たって痛くなってきた頃にパッと手を離された。

「今日はこのぐらいにしとくね」
「今日も明日もお前にはこねえ」

 桐崎の両手が体からパッと離されたので、急いで桐崎の膝から降りて鞄を鷲掴みにし、ついでに鞄で桐崎の頭を殴ってから家に帰った。
 股間は鞄で隠しながら帰ることになった。絶対許さねえ。


***

 翌朝、学校に向かうのが死ぬほど憂鬱だった。

 家に親がいないのが幸いだった。高校入ってから親が海外転勤になってしまって寂しく感じてたが、あんな状態で親と鉢合わせしたら死んでも死に切れない。
 学校を休むか悩んだが、このまま休むともっと行きづらくなる気がして重い腰を上げた。どんな顔して桐崎と会うんだ、というかなんで俺がこんなこと悩まなきゃいけないんだ。

 春の風がいつもなら心地よいのに何だか変にソワソワしてイライラしてきた。
 今日会ったらもう一発鞄で殴ろうと決意しつつ登校していると、後ろから髙橋がやってきた。

「よぉ~す、江本」
「おぉ、髙橋はよ」

 昨日、うちのクラスの女子達に引きづられていったのでボロボロになってるかなと思ってたけど意外と無事そうであった。

「お前よく無事だったな」
「へへ、やっぱり俺の愛嬌のおかげかな」
「何馬鹿言ってんだ」

 呆れたようにため息を吐くと、それはそうと、と高橋が切り出した。

「あのさぁ、TS病になったんだよな」
「???」
「前に話題になったからなんとなく知ってるけど、男から女になったり、女から男になったりする病気なんだよな?」
「????」
「江本さ、いきなり男になって戸惑うこととかあると思うんよ。なんかあってもなくても頼ってくれていいからな。同じクラスのやつには聞きづらいこととかあるだろ?」
「????」

 高橋の話がまるで分からない。TS病ってなんだ。揶揄ってんのか??それとも本当にあんのかそんな病気。だとしても、なんでそれを俺が罹ったみたいなことを言ってんだ??

「知っての通り、俺は元々男だけど??なに、大丈夫??」
「大丈夫!おっけー!大丈夫!」

 高橋が昨日の吉沢化した。叩かれすぎて憑ったんだろうか。生き霊が??こわい。

「そういや、顔は変わらんのな」
「顔がいきなり変わったらビビるだろ」
「そりゃそうだ。江本、元々が中世的な顔立ちだからか美少女からイケメンになっちまったな~~‼︎はぁ~~どっちにしろ目の保養だけど~~」
「お前情緒不安定すぎねえ?」
「大丈夫です~~安定してます~~」

 なんか周囲の反応が昨日から変だけど、オレ自身は黒髪の短髪だって変わらんし、整った顔って偶に言われる顔もそう。俺自身には変わりがないのに、美少女からイケメンになったとか何の話だ。

「ま、お前には頼れるイケメンの彼氏がいるもんな!昨日も仲良く帰ってたみたいだし安心したよ」
「イケメンの彼氏とかいねえ」
「恥ずかしがっちゃって~~」
「いや、いねえって」

 昨日からの流れでいくと桐崎のことか?あいつは昨日からイケメン野郎じゃなくて変態のクソ野郎だ。
 はあ、とため息を吐いて学校へ行く道を急いだ。待ってくれ~、と高橋の声が後ろから聞こえるけど無視した。朝から意味の分からん会話をしてドッと疲れた。

 ん~~、と伸びをして空を見上げた。俺の心とは裏腹に晴天である。いい天気だなあとかなんとなく考えていた。思考放棄である。
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