TSしてないのにTSしたと言われる男の受難

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〈高2 :1学期〉

6.父と話す

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 結局のところ、桐崎に電話してみることになった。
 桐崎に電話したはいいけれど、なかなか言い出せず世間話ばかりしてたら母に携帯を取られて怒涛の勢いで桐崎と交渉し出した。
 というか、桐崎は最初からオッケーだったのでいつ引っ越してくるかぐらいの話し合いであった。スムーズすぎる。抵抗しろ桐崎。
 来週の土曜日には引っ越してくるとのこと。早すぎる。
 素敵な好青年よね、と母からの評価は鰻登り。空いてる部屋を綺麗にしなくちゃと腕まくりをして掃除をし始めた。母の行動も早すぎるよ。

 どうしたもんだかと呆けていたら、父から土産のチョコレートを山のように渡された。飛行機の搭乗時間まで落ち着かなかったらしく、チョコレートを買いまくってしまったらしい。
 とりあえず一緒に食べようと誘われた。
 牛乳をコップに入れてチョコレートと交互に飲んで食べてをしていると父に笑われた。

「小さい頃からの癖って変わらないものだね」
「昔からやってたっけ?」
「そうだね。小学校の低学年ぐらいからかなあ。チョコレートと牛乳の組み合わせのおいしさに気づいたって嬉しそうに明が伝えにきてくれてね」
「幼稚園の頃はチョコレート食べてなかった?」
「幼稚園の頃はね、ナッツ類が好きでね。それらばかり食べてたよ」

 めちゃくちゃ食い意地はった子どもじゃん。はあ~~とため息が出たが、今とあんまり変わらねえ。三つ子の魂百までとかいうけど、本当にそうなのかも。

「味覚はそのままなのかもしれないけど、何か他に変化はなかったのかい?」
「ん~~」
「あったみたいだね。それは言いづらいこと?」

 言いやすいか言いづらいかでいうと言いづらいが、言うにしてもなんて言えばいいんだろうか。元々、男で生まれたと思ってるし女で生まれた記憶がないって。
 父や母を更に混乱させてしまうだけなんじゃないだろうか。

「何というかあったにはあったんだけど、なんでかがよく分かってない」
「それは難しいね」
「うん、難しい。よく分かんないから伝えにくいのかも」
「それはもう誰かに相談したかい?」
「病院でね。カウンセリング行こうかなって思ってる」
「そうか、口に出せないことが1番大変だからね。もしカウンセリングに行って合わないなって思ったら、違う先生のところに行ってみなさい。人と人だからね。合う先生と合わない先生があるから。
 それに、父さんや母さんはいつでも明の味方だということを忘れないで」
「うん、分かった。ありがとう父さん」

 カウンセリングに行ったことがないので、合う合わないなんて考えたこともなかった。
 でも、そうだよな。どうやっても合わない人がいるし、病院の治療方法が合わなければ病院を変えるのと一緒だよな。
 なんとなくカウンセリングってハードル高いよなあと思ってたけどなんとかなるかもしれない。合わない時は合わない時でなんか他に考えてもいいような気がしてきた。

 それでも、人に相談すること自体がハードルが高い~~。精神科で相談できたのは、ノリと勢いと疲れと混乱とか色んなものがミックスされてジャンジャカジャンジャカされて気づいたら口から出てたみたいな感じだったし。
 あ~~ジャンジャカジャンジャカってなんだ。
 もしかして、カウンセリング前に疲れ切ってたら言えるかも?走る?走るか?いや、走るのとか疲れるしダルい。考えただけでダルくなってきた。怠惰な性格がここで本領発揮。いらんところで仕事しないでください。


***

 親は桐崎が引っ越してくるまでは居てくれるらしい。仕事大丈夫なのかなと思ったけど、TS病は難病指定されているので、職場の人が凄く心配してくれて快く送り出してくれたらしい。良い人達と働いているようで安心であった。

 TS病って発症率の割に知名度があるみたいで、みんなその病名を聞くとピンとくるぐらいらしい。罹患者が何人も出てきて一気に世界で話題になったわよね、と母談。俺ももしそんな話題をニュースで聞いてたら忘れないと思う。急に性別が変わるってもうそれは別人レベルだもんな。最初の罹患者の苦労は想像以上のものだっただろう。

 最近の変化としては、日記をつけるようになった。自分の記憶が変なのか、それとも自分の身に途方もない何かが起きたのか、まあ軽く纏めると疑心暗鬼な部分があったからだ。
 もしかしたら、いきなり元の自分に戻る時があるんじゃないかって思いもあった。
 そうしたら女から男になった(?)自分が大変そうだからだ。前の俺は男になったのだろうか。そもそもTS病に罹ったのかすら分からない。考え出すとキリがないし現状では答えも勿論ないので悩むだけで無駄なことであるけれど。

 なんというか現状は、性別を起点として色んなことがチグハグだ。アルバムの写真を見ると、所々に俺じゃない俺がいるんだ。
 今の自分、まあ俺が自分だと思っている自分と同じようなことをしてる写真やこんなことしたことないなっていう写真。
 性別が変わっても興味や関心はあんまり変わらなかったようだけど、やっぱり何処か少しずつ違う。
 双子が同じ環境でも違う性格に育つと言われてるよりかは、瓜二つだなって感じだけど。

「この中の俺は何処にいったんだろう」

 写真を眺めながらポツリと思わず呟いてしまった。俺の知ってる俺も何処にいってしまったんだろう。
 最近は上手くいかないことがありすぎた。上手くいくって何なんだろうって感じだけど。

 というか、写真の中の俺、段々とスタイル良くなっていってない??めっちゃ美少女系に見えるんだけど大丈夫??本当に俺か??
 双子の妹とかいたっけ、むしろいるのではと思い、親に聞いたが一人っ子だと返された。
 知ってたけどそう。めっちゃ美少女だったんだな俺らしき俺。

 今週のはじめの方におっぱいやら何やら高橋から言われたことに今更納得した。まだ小学生高学年でこのスタイルの良さだ。高校生になってたら目を見張るものがあっただろうとうなづいた。
 それにしても髙橋の野郎、デリカシーが無さすぎたな。うちのクラスの女子に引きづられていったのも自業自得の所業であった。女の敵じゃんあいつ。何で無事に生還できたんだ??
 そういえば、桐崎もシルエットがなんやら言ってたっけ。あいつもギルティだな。シルエットってなんだ。あいつテンパるにしてももうちょい言葉あっただろう。お前の本当の恋人だったら泣いてるぞきっと。

 あいつの好きな俺はアルバムの中でしか確認できなかった。日記とかもないし、碌に前の俺を知る術がなかった。さすが俺って感じ。俺もこんなことなかったら日記なんか書くことなかっただろうなあ。

 今日の日記には何て書こうか。『昔の写真、スタイル良すぎ』とか?普通にナルシスト文じゃん。大丈夫かこれ。
 やっぱり日記とか柄じゃないし、続けられる気がしない。『俺、何でかTS病に罹ったって言われてるし彼氏までできてるんだけど何がどうしてこうなった。あと桐崎の距離が死ぬほど近いし、何であいつと恋人ってことになってんの?友人じゃないの?マジで何??俺の知ってる桐崎は何処行った??』とか?ただの愚痴である。

 日記を書くのって難しすぎるとため息が出た。世の中の日記職人たちは何を書いてるんだ。文房具屋で日記を探した時、1日に書く量が2、3文程度のやつやページの半分程度のやつやら、量が全然違ってた。やっぱり日記を書く人達は職人達に違いない。めちゃくちゃ根性と根気がいるじゃんこれ。

 別に日記に書きたいようなことがないんだよなあ。『今日もチョコレートを食べた』とか?これではただの食いしん坊日記である。前途多難だった。
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