堕ちた聖騎士は淫魔の王に身も心も捧げたい。捧げた。

リタ

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イドル・リリーは上機嫌

1 隣家の男たち:I

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「今日は少し、遅くなるかもしれません」

 見送りに出た戸口で、騎士が言った。ようやく城門が開いた刻限だから、まだ薄暗い早朝だ。
 イドル・リリーは軽く首を傾げた。

「遠くまでいらっしゃるんですか?」
「オークの巣を叩くんです。海沿いに見つかった新しいものです。根絶やしにしてやります」

 遠い北の国の貴族に生まれた騎士は家名もとっくに捨て去って、討伐ギルドで仕事を得ている。荒くれだとか、ならず者だとか言われる下流民の中でもかなり低い地位なのだそうだ。
 見るからに騎士としかいいようのない彼も、粗末なマントとチュニックの平民の格好をしている。馬もない。

「騎士様はオークがお嫌いですもんね」
 オークにはメスがいない。子を増やすには、他の種族のメスがいる。大鹿、大山羊、牛馬、人間あたりが良いらしい。だから、繁殖期を迎えたオークたちは人間の集落に近いところに巣を作るのだ。

「人間の方がずっと嫌いですが、人間の討伐依頼は出ませんから」
「そうですね」

 ふふふと笑い合ってから、イドル・リリーは騎士のがっしりした首に両方の腕を回した。察した長身が少し背を丸めてくれた。分厚いグローブをつけた手は両方とも、イドル・リリーの腰に掛かって離れない。
 浮き上がってもいいのだが、人間みたいにするのも面白い。
 イドル・リリーは騎士の頬に唇の先だけで触れた。

「気をつけていってらっしゃい」
 いつもなら、「ありがとうございます」あるいは「いって参ります」あたりの返事があるのだが、ない。

 不思議になって、顔を覗いた。
 北の国で生まれた騎士は白い頬を真っ赤にしている。おや。

「……イドル様、どうか、あなたを抱きしめるお許しを」
「ええ、もちろん。どうぞ」

 応じると、力一杯抱きしめられた。
 ドラゴンを素手で倒せる男の本気の抱擁はかなり力強い。攻撃の意図で締められたら、魔界七公に数えられる魔王でも少なからぬダメージを受けるだろう。
 だが、これは違う。

 『愛』だ。

 イドル・リリーの首筋に額を押しあて、鎖骨のあたりに唇をくっつけている騎士が差し出しているのは『愛』であり『恋』であり『思慕』だろうとは推察している。

 しかし、淫蕩を司るイドル・リリーでは受け取ることはもちろん、正しく理解することもできない。

 肉の悦びならいくらでも好きなだけ、与えてやることができるのに。
 イドル・リリーは巻いた腕で騎士の頭を抱きしめた。耳を吐息で嬲り、軟らかな骨を甘噛みしてやる。
 大きく広い背が震えた。
 我慢が大得意な騎士だが、今は軽く、腹の奥で果てたようだ。


 とてもかわいらしい。


 イドル・リリーは耳珠をきゅっと吸い上げて、舌で愛で転がしてやった。肉の芽にも似た小さな部位を丁寧に可愛がってあげたら、この美しく強い騎士はもっと悦びを得ることができるだろう。
 とてもいい考えである。

「お戻りになるのを待っていますね」
「……可能な限り早く、できるだけ速やかにお側に戻ります」
 熱い息を溢したジェラルドのコッドピースの内側はすでに先走りの滑りでどろどろだ。腹の奥は擦られたくてひくついている。
 隠そうとしても無駄なこと。

 『現状』ならば、イドル・リリーには見通せてしまう。

 我慢が好きな騎士は、このまま討伐に行くらしい。

 淫欲の熾火に炙られながら剣を振るうのだから、夜にはきっと、すっかり仕上がっていることだろう。熟れきった精は約束された美味だ。

 遠火でじっくり焼いた肉は旨いのだと、バザールの肉串屋も言っていた。
 イドル・リリーは自分の舌先を噛んで笑み、足早に遠ざかる騎士を見送った。






 騎士が留守にしている間、イドル・リリーはひとりで過ごす。
 特にやるべきことはない身であるから、大体は家の中にいて、書物を読んでいた。寝台には彼が用意してくれたクッションが山ほど置いてあって、そこで寝そべるのはとても具合がいい。

 何でも売っているバンダルのバザールはとても便利だ。書物を手に入れるのも難しくはない。巻いてあるもの、木片に書かれたもの、羊皮紙、古様紙、紙。本もある。書物の形は様々だが、中身は神々か、商売に関するものばかりで大して変わり映えはない。
 それでも人間の考えることを知るのは面白いので、イドル・リリーは読書を好む。

 昨日から読みかけているのは酒商人の帳簿だ。仕入れた数と売れた数、金、使用人への支払い諸々の記録である。勤勉な商人だったらしく、とても詳しく書いてあるので、読み応えもあった。ざっと、二百年ほど前のものらしい。
 紙片を革紐で綴じた書をどんどん読み進めていってついに最後の頁を捲ったところで、ふと。
 気配に気がついた。

 背徳の淫。良くないことと思いつつ、耽って溺れる肉の欲。不倫。その匂い。

 とても近い。

 イドル・リリーは酒商人の帳簿を開きっぱなしに放りだし、気配の方へ移った。人間を連れて動くのは制約で禁じられてるだけで、空間を端折ることはまったく問題がない。


 気配は、隣の家からだった。


 石と砂岩と日干しレンガで作られた家の窓はガラスではなくて、板だ。閉じればいつでも暗がりになる。太陽が真上にいる頃合いでもだ。

 薄暗がりで、蠢く男の裸の背。

 汗を浮かべて腰を振り、息荒く、弛んだ尻肉を揺らして大変に励んでいる。強く、強く、強く。打ち付けるたびにぶつかる陰嚢がバチンバチンと小気味いい音を鳴らしている。

「……イイだろ、ほら、イイと言え」
 腰を振りながらしゃべると、特徴的な息の切れ方をする。ついでによだれが溢れたりもする。
 腰を振っている男は毛むくじゃらの腕で自分の口元を拭い、上体を倒した。

「ぐぁぅ……っん!」
 穿たれているほうが呻き声をあげた。男の声だ。

「ほら、言えよ、掘られんの、が、イイんだろ? ああ?」
 男の責めがきつくなったらしい。
 受け入れている方の男の膝が崩れ、二人はつながったまま床に伏せた。下になった男は腰だけあげた格好だ。

「うぁ……んぁっ……!」
「淫売が無駄に勃たせてんじゃねー、ぞ、ほら、ああ? おらよぉ」
 掘りながら、相手の男根を扱きはじめた。力任せに擦り上げているようで、半勃ちだった男根の幹が擦り向けて、すぐに真っ赤になってしまった。

 無理矢理犯すのはイドル・リリーの好みではないし、管轄でもない。強姦は暴力。もっと得意な悪魔がいる。
 だが、イドル・リリーは知っている。
 痛みを快感を感じる人間は多いのだ。扱かれている男根は白濁混じりの体液で濡れ濡れだ。かなり感じ入っている。


「お楽しみですねえ」


 イドル・リリーは中空に腰掛けた姿勢で、二人の男を見下ろした。

「……あ、あ、あんた、あんた、誰、だよ」
 貫いている方の男が唖然として言った。

「とな、りの、がくしゃ、先生……?」
 洟をすすりあげたのは下になっていた男。こちらのほうがずっと若いようだ。

 この辺りの住人たちは、イドル・リリーを護衛の騎士を連れた流れ者の学者だと思っているらしいことは知っていた。たぶん、おしゃれな眼鏡がそういう印象を与えるのだ。

「ええ、隣のものですよ」
 イドル・リリーが頷くと、若い方の顔色が一気に悪くなった。

「あんた、どこから入ったんだ!」
 少し余裕が出たようで、弛んだ男が顔を顰めて言う。

 威厳とか、怒りとか、威圧とか。そういうものを表現しているつもりだろう。歳をとった人間はいろいろと面倒臭い。
 年の差があるふたりの交わりはなかなか熱が入っていた。後ろめたい気持ちを存分に味わいながら、性を欲に使い果たす様はなんとも得難い良さがある。

 どういう関係の男たちかと意識を向ければ、すぐにわかる。イドル・リリーは魔界七公第七位の魔王だ。

「舅と女婿、ですか。奥方は、あぁ、物売りの仕事に出ているんですね」

 言葉にすると、若い方が這いつくばって体を離した。ぬぽん、と妙に軽い音と一緒に抜けた男根はやや元気を無くしている。あら。

「せ、先生、先生、どうか、妻には秘密に……!」
「わかりました。父親と夫が、元々、客と男娼で深馴染みの間柄だったことも秘密にしておきましょうね」
 ひぃいー、と間抜けた悲鳴をあげ、若い男が跪拝してきた。
 イドル・リリーが天井に近いあたりに浮いているのだから、見上げるのは仕方がないことだ。

「昼間に浮気。しかもお相手が身内。奥方はお仕事中。背徳感で快楽を得ているんですね。ふふ」
 悪くない楽しみ方ではある。

 人間は禁忌に触れる時、痺れるほどの快感を得るものだ。それが自分たちで決めた社会規範であっても、『いけないこと』とされていることをすると堪らないらしい。
 いっそ、背徳を味わうために禁忌を定めているのかと思うほどだ。
 舅と婿は顔を見合わせ、揃ってイドル・リリーにひれ伏した。

「どうか、どうか本当に黙っていてください!」
「秘密にしますって言いましたよ、わたし」
「本当にどうぞ、お願いいたします!」
「ええ、ですからお気になさらず。続けてください」
「……は?」

 ぽかんと口を開けた男たちは、イドル・リリーを見上げている。どちらの股間もすっかり萎えてしまって、つまらない有様だ。

 せっかく、よく盛っていたのに。

 イドル・リリーは指先を顎に添え、少し考えた。

 楽しんでいたところに声をかけたから萎んでしまったのかもしれない。それは可哀想である。
 『いけないこと』をもっとたっぷり楽しむと良い。

「わたしにはお構いなく」
 笑むと、男たちの股間がたちまち漲った。

 穂先からは先走りが溢れ、尻穴も潤っている。どちらもすっかりぬるぬるだ。ついでだったので、肉の芽にもたっぷり血を巡らせてやった。ちょっと擦るだけでも、痺れるほどにイイはずだ。

 淫紋はやめておいた。
 彼らは自分たちで作り上げた状況を気に入っている。淫紋を受けた人間はその背徳感まで吹き飛ばしてしまうから、今は向いていないだろう。

「さあ、お好きなだけどうぞ」
 イドル・リリーは膝に肘を引っ掛けて笑ったが、男たちはもうそれどころではなかった。

 抱き合って、口を啜り合って、男根を捏ねあうのにすっかり夢中だ。ほんのすこし、情欲の炎を強くしてあげただけなのに、大した燃え上がりっぷりである。

「お前、みたいな淫売が、俺の娘を喜ばせられる、ものか!」
「旦那様、だんなさまのおっしゃる通りにございますっ、俺のケツ穴はだんなさまの、ものでございますぅ……っ」

 愛撫の合間に舅が罵って、婿が泣く。
 どちらも恍惚として、大変気持ち良さそうだ。

 眺めているうちに、舅が婿を乱暴に突き飛ばした。割り裂いた尻穴に指を丸めて突き入れた。拳の半分くらいをめり込ませ、肉の輪を擦り上げるのだ。婿はのけ反って子種を噴き散らした。
「ああ、ほら! こんなもので!」
 舅が嘲笑うと、婿が急に起き上がった。そのままがつん。ついさっきまで旦那様と呼び従っていた相手を殴りつけ、馬乗りになった。

 弱々しい悲鳴をあげて、舅は仰向けに転がって両足を自分で抱えた。晒された尻の穴はぬちょぬちょの泥濘だ。
 そこに、婿が男根を突き入れた。

 攻守交代。今度は婿が罵る番だ。「いい歳をしてみっともないな」「臭い穴に突っ込まれて満足か」「もっと締めろ、爺ぃ!」。

 流れるような罵倒文句に、舅は身悶えて善がっている。
 二人はとても仲が良いようだ。

 それはいいのだけれども、罵り合いの悦びはイドル・リリーの好みの味ではない。背徳感はいいのだが、いまひとつだ。
 もちろん、何を善いと感じるかはそれぞれだろう。痛いのを悦ぶ者、恥を快感にしてしまう者、触れるのではなく見せるのが愉という者だっている。さまざまだ。

 ただ、イドル・リリーは素直に善がる喘ぎ声が好きだ。

 気持ちがいいことを受け入れて、うっかり流す涙が良い。歯を食いしばってもいいけれど、悦楽に蕩けて息を忘れている忘我の様は美しい。身悶えるなら快感で震えているのが好ましい。


 淫蕩も享楽も浸りきってこそ。
 あの強く美しい騎士のように。


 騎士様はそろそろお戻りでしょうかね

 名残惜しそうにしていた広い背中と一緒に、彼の腹を満たす夕飯を買いに出かけるつもりだったことを思い出した。

 討伐仕事の後の騎士の食べっぷりはすがすがしいのだ。肉もパンもワインも吸い込まれて消えていく。
 イドル・リリーはバザールに買い物に出かけることにした。

 ふわりと姿を消す頃には、男の罵り声と喘ぎ声がずっと続く隣家のことはすっかり忘れ去っていた。





「ただいま戻りました、イドル様」
 日が暮れてすぐに、騎士が戻ってきた。急足でも余計な物音を立てないところは彼の美点である。

「おかえりなさい、騎士様」
 イドル・リリーは無蓋のかまどの前に立ったまま、騎士を迎えた。小さな火にかけている鍋は目を離すとすぐに焦げてしまうのだ。買ってきた羊肉の煮込みはぐつぐつといい音をさせている。

 騎士は大股に近づいてきて、イドル・リリーの足元に片膝をつき、持ち帰ってきた小さな花束をくれた。白い花の名は知らないが、朝には干枯らびる花弁は無駄で、美しい。
 イドル・リリーが木匙を持っていないほうの手で髪を撫でて労うと、騎士は嬉しそうに顔を上げた。

「羊肉の煮込みはお好きですか? 今日は珍しい形のパンもあるんですよ」
 騎士に笑いかけ、目を細める。

 胎奥の熾火は良い仕事をしたようで、すっかり煮えてとろとろだ。コッドピースは乾く暇もなかったようで、まるで漏らしたみたいに重たくなっている。 

 見て、触れて、揉み込んだら、良い声を聞かせてくれることだろう。随分がんばったようだから、舐めてあげても良い。
 口淫はあまり経験がないようだから、新鮮に乱れることだろう。

「さて、騎士様のご希望は?」
「どうか私に触れてください」

 騎士はイドル・リリーの手を取り、手のひらに口付けた。
「よろこんで。……奥の奥まで、擦り上げて差しあげましょうね」
 答えに、騎士が身を震わせた。


 イドル・リリーは今夜も上機嫌だ。





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