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4章 凱旋と旅
8話 セリーとマニエル 救出と事情
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タンドリーがトリビア軍の隊長を問い詰めた。
首元に突き付けられた剣を前に、逃げきれないと判断した隊長は全てを話し出した。
こいつらは情報を遮断するため街道を封鎖する別動隊だそうだ。
バーデル領の援軍が、スターテルの町に来ないようにするためだ。
本体は北の砦を襲撃、南の街道と東の街道を封鎖して一気にスターテルの町を落とす計画のようだ。
話を聞いた後、タンドリーは躊躇なく隊長も始末した。
「ケルビン殿、どうやらトリビア軍が本気でスターテルの町を落とすつもりのようです。このままではバーデル騎士領は危ない。どうか私に加勢願えませんか」
タンドリーが頭を下げる。
自分の寄子の町が襲われているのだ。タンドリーとしてはそりゃ何とかしたいのだろう。
気持ちは分かるが俺は戦に介入したくない。魔物は退治してやっても人を殺す戦争は嫌だ。
目の前で女が襲われていれば、それは助けるし人でも殺す。だが戦争はどうだろう。どっちが正しいかなんてわからないのだ。
ましてや権力争いには全くと言って興味がない。
「それは貴族同士の問題だろ、俺は関係ねーじゃねーか」
だから当然断る。
「それは、そうなんですけど……」
タンドリーがチラチラ見る。頼めば何でも俺が「うん」と言うとでも思っているのか。……調子に乗るなよ。
「何をくれるんだ」
「えっ……」
驚いたようにこっちを見る。
「だから俺がタンドリーに加勢したら、お礼に何をくれるんだって聞いてんだよ」
「……」
渡せる物が何も無いうえに、今でさえ大きな借りもある。これ以上借りを増やしたら、確実に返せないほどになる。現実を把握すると、うなだれてタンドリーが黙ってしまった。
「何もねーんじゃ話になんねーな! お前は俺を無料で使うつもりか!? とりあえず俺はスターテルの町へ行く。あとは知らん。いいか、俺はとにかくスターテルの町へ行く、お前はどうすんだ」
甘えるタンドリーを一喝して睨んだ。タンドリーもはっとしたように顔つきが変わり、しばらく考えるとハッキリとこう言った。
「わかりました。私は東の街道の別動隊を攻撃してから砦に向かいます。我がままを言って申し訳ありませんでしたケルビン殿。我が町を救っていただきありがとうございました、感謝しております。あとは自分で何とかしてみます。では失礼」
鳥形態に変身すると街道目指して飛び立った。
もともとタンドリーは副騎士長でAランクの凄腕だ。空も飛べるし一人でも何とかするだろう。
俺とタンドリーが話しているうちに、裸だった女性二人は服を着ていた。
実はチラチラ見ていたのだが……。
装備を整え、落ち着いたセリーが切り出した。
「ねぇケルビン。スターテルの町は危ないんじゃない? あたし達バーデルの町に避難しようとしてたのよ、結局途中で捕まっちゃったんだけどね」
心配そうにセリーが言う。
バーデルの町はここから南にあるバーデル騎士領の本拠地だ。スターテルの町よりは大きいが戦争中ならとても安全とはいいがたい。
二人は移動したいようだが俺が守ったほうが良いだろう。
「別にどこへ行ってもいいんだけど、俺といたほうが間違いなく安全だぞ。一緒に居れば守ってやれる」
黒い領域で包めば絶対に死なせはしない。さっきの戦闘で俺の強さを知っている二人は安心したようにうなずいた。
「それもそうねぇ。ところでケルビンは、どうしてスターテルに戻って来たの? 王都に行くんじゃなかったの」
「もちろん王都に行ったぞ。そんで騎士になったんだ。陛下から王都に住めって屋敷を貰ったんだよ」
胸についている銀色の剣バッジを見せる。
「ええええええっ!!」
「ええええっ!? 騎士って……あなた貴族なの?」
流石にバッジは知っているのだろう。気づいた二人が大げさに驚いた。
「ああ、Sランク冒険者になったんだ。王都でSランクの魔物、青龍とミノタウロスキングを討伐したんだよ。ここへはセリーを迎えに来たんだ。もし……まだ一人だったら、と思ってな。良かったら俺と一緒に王都に来てくれないか」
さらっと言ったが実は少しドキドキしている。
緊張しながらセリーを見た。
セリーが驚いた顔をして、笑うように嬉しそうな表情をする。
また泣き出して俺に抱き着いた。
「嬉しい……ケルビン大好き。うん。一緒に行く」
良かった。
少しほっとする自分がいる。
「……良かったわね、セリー」
マニエルも嬉しそうに微笑んだ。
「君はセリーとペアなのかい」
「いいえ、仲良くさせてもらってるけどお互いにソロなのよ、あたいはマニエル。しがないEランク冒険者よ」
「そうかマニエル、良かったら君も一緒に王都にこないか。それならセリーも寂しくないだろうし」
「ええっ! いいの? ……それじゃあ、あたいもお妾さんて事?」
マニエルが期待したように俺を見るがそんなつもりで言ってない。
「いや、従士って事で……」
「そっそうよね。うん。そりゃあ、そうよね。ええ、もちろんいいわ。あたいが騎士の従士なんてすごいわね。いいじゃないの! 従士かぁうふふ」
マニエルも嬉しそうだ。冒険者からすると従士でも憧れの存在だからな。
「えっ!? もしかしてケルビン、ひょっとして……あたしも従士なの?」
セリーが不安そうに確かめるように俺を見上げる。
「いや、もちろんセリーは側室のつもりだ。悪いが嫁は他に二人いるぞ。それでもいいか」
「うん、騎士だもんね。大丈夫。ありがとうケルビン。大好きよ」
小さな手でぎゅっと抱きしめられて俺は幸せな気持ちになった。
首元に突き付けられた剣を前に、逃げきれないと判断した隊長は全てを話し出した。
こいつらは情報を遮断するため街道を封鎖する別動隊だそうだ。
バーデル領の援軍が、スターテルの町に来ないようにするためだ。
本体は北の砦を襲撃、南の街道と東の街道を封鎖して一気にスターテルの町を落とす計画のようだ。
話を聞いた後、タンドリーは躊躇なく隊長も始末した。
「ケルビン殿、どうやらトリビア軍が本気でスターテルの町を落とすつもりのようです。このままではバーデル騎士領は危ない。どうか私に加勢願えませんか」
タンドリーが頭を下げる。
自分の寄子の町が襲われているのだ。タンドリーとしてはそりゃ何とかしたいのだろう。
気持ちは分かるが俺は戦に介入したくない。魔物は退治してやっても人を殺す戦争は嫌だ。
目の前で女が襲われていれば、それは助けるし人でも殺す。だが戦争はどうだろう。どっちが正しいかなんてわからないのだ。
ましてや権力争いには全くと言って興味がない。
「それは貴族同士の問題だろ、俺は関係ねーじゃねーか」
だから当然断る。
「それは、そうなんですけど……」
タンドリーがチラチラ見る。頼めば何でも俺が「うん」と言うとでも思っているのか。……調子に乗るなよ。
「何をくれるんだ」
「えっ……」
驚いたようにこっちを見る。
「だから俺がタンドリーに加勢したら、お礼に何をくれるんだって聞いてんだよ」
「……」
渡せる物が何も無いうえに、今でさえ大きな借りもある。これ以上借りを増やしたら、確実に返せないほどになる。現実を把握すると、うなだれてタンドリーが黙ってしまった。
「何もねーんじゃ話になんねーな! お前は俺を無料で使うつもりか!? とりあえず俺はスターテルの町へ行く。あとは知らん。いいか、俺はとにかくスターテルの町へ行く、お前はどうすんだ」
甘えるタンドリーを一喝して睨んだ。タンドリーもはっとしたように顔つきが変わり、しばらく考えるとハッキリとこう言った。
「わかりました。私は東の街道の別動隊を攻撃してから砦に向かいます。我がままを言って申し訳ありませんでしたケルビン殿。我が町を救っていただきありがとうございました、感謝しております。あとは自分で何とかしてみます。では失礼」
鳥形態に変身すると街道目指して飛び立った。
もともとタンドリーは副騎士長でAランクの凄腕だ。空も飛べるし一人でも何とかするだろう。
俺とタンドリーが話しているうちに、裸だった女性二人は服を着ていた。
実はチラチラ見ていたのだが……。
装備を整え、落ち着いたセリーが切り出した。
「ねぇケルビン。スターテルの町は危ないんじゃない? あたし達バーデルの町に避難しようとしてたのよ、結局途中で捕まっちゃったんだけどね」
心配そうにセリーが言う。
バーデルの町はここから南にあるバーデル騎士領の本拠地だ。スターテルの町よりは大きいが戦争中ならとても安全とはいいがたい。
二人は移動したいようだが俺が守ったほうが良いだろう。
「別にどこへ行ってもいいんだけど、俺といたほうが間違いなく安全だぞ。一緒に居れば守ってやれる」
黒い領域で包めば絶対に死なせはしない。さっきの戦闘で俺の強さを知っている二人は安心したようにうなずいた。
「それもそうねぇ。ところでケルビンは、どうしてスターテルに戻って来たの? 王都に行くんじゃなかったの」
「もちろん王都に行ったぞ。そんで騎士になったんだ。陛下から王都に住めって屋敷を貰ったんだよ」
胸についている銀色の剣バッジを見せる。
「ええええええっ!!」
「ええええっ!? 騎士って……あなた貴族なの?」
流石にバッジは知っているのだろう。気づいた二人が大げさに驚いた。
「ああ、Sランク冒険者になったんだ。王都でSランクの魔物、青龍とミノタウロスキングを討伐したんだよ。ここへはセリーを迎えに来たんだ。もし……まだ一人だったら、と思ってな。良かったら俺と一緒に王都に来てくれないか」
さらっと言ったが実は少しドキドキしている。
緊張しながらセリーを見た。
セリーが驚いた顔をして、笑うように嬉しそうな表情をする。
また泣き出して俺に抱き着いた。
「嬉しい……ケルビン大好き。うん。一緒に行く」
良かった。
少しほっとする自分がいる。
「……良かったわね、セリー」
マニエルも嬉しそうに微笑んだ。
「君はセリーとペアなのかい」
「いいえ、仲良くさせてもらってるけどお互いにソロなのよ、あたいはマニエル。しがないEランク冒険者よ」
「そうかマニエル、良かったら君も一緒に王都にこないか。それならセリーも寂しくないだろうし」
「ええっ! いいの? ……それじゃあ、あたいもお妾さんて事?」
マニエルが期待したように俺を見るがそんなつもりで言ってない。
「いや、従士って事で……」
「そっそうよね。うん。そりゃあ、そうよね。ええ、もちろんいいわ。あたいが騎士の従士なんてすごいわね。いいじゃないの! 従士かぁうふふ」
マニエルも嬉しそうだ。冒険者からすると従士でも憧れの存在だからな。
「えっ!? もしかしてケルビン、ひょっとして……あたしも従士なの?」
セリーが不安そうに確かめるように俺を見上げる。
「いや、もちろんセリーは側室のつもりだ。悪いが嫁は他に二人いるぞ。それでもいいか」
「うん、騎士だもんね。大丈夫。ありがとうケルビン。大好きよ」
小さな手でぎゅっと抱きしめられて俺は幸せな気持ちになった。
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