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その2

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「よし、サランの町を救出するぞ。出発!」

「おおお!」

 街道を進軍してサランの町へ到着する。町の北門から中に入ると、やっときた援軍に住民が歓声を上げる。

「おおっ! ついに援軍がきたぞー!」

「すごい装備だ! これは助かるかもしれない」

「お願いします! 助けてください!」

「ありがとうございます!」

「やった、これで助かるぞ!」

 歓喜の嵐で迎えられた。住民が喜んで俺達に手を振る。


 住民に応えるように手を振り、旗を掲げて進軍する。もちろんフル装備のままだ。

「ニールゼン男爵と、エアシル卿の軍隊だ。サンタマルタ辺境伯からの依頼によりサランの町の救出に来た」 

「援軍まことに感謝いたします! サウス男爵は南門で応戦中です。至急こちらにお願いします」

 馬に乗って迎えに来た兵士の一人が案内してくれた。

 緊急事態なので走りながら状況を聞く。

「サイクロピス達は南門周辺で暴れています。夜になるといなくなり、朝にまた襲ってきます。食料(家畜)を外に置いて気をそらしているのですが、そろそろ限界です。リーダー三匹と十二匹で合計十五匹いるのです」

「十五匹か……そいつは手ごわいな」


 サイクロピスは体長五メートル以上ある一つ目の巨人で、頭に一本角がある。体は赤い色で原始的な魔物だ。ガタイもよく筋肉質で大きな棍棒を持っている。肉食で人とか馬とか牛でも捕まえて丸のみしてしまう。

 リーダー隊長はさらに一回り大きく六メーター以上あり、頭にラインがある。ゴリブリンと同じだ。

 下手に攻撃すると、目が光りパワーアップするので、殺せないなら攻撃をしてはならない。

 というのが常識だ。今の所は攻撃せずに堪えているらしい。


 南門の前には大勢の兵士がいた。門を固めて皆で壊れた部分を補修している。


 俺達に気がついたサウス男爵が嬉しそうにこっちへ来た。

 でっぷりとした四十歳くらいのおっさんだ。薄いカイゼル髭を生やしている。髪は茶色のストレートで毛先が外にカールしている。

 トランプのキングのようなイメージだ。

「ニールゼン男爵。エアシル卿。遠路をよく来てくださった。本当に感謝いたします。今までは家畜で何とか気を逸らしていたが、もうその家畜も残っておりません。中途半端に攻撃をすればパワーアップしてしまうので困っておるのです」

 疲労がにじむ顔で嘆いた。大分疲れているようだ。

――ガーン、ガーン、ガーン。

 門をガンガン叩く音がする。丈夫な鉄製の扉だが、叩かれて相当曲がってきている。

 反対から大木で支えているがそんなに長くは持たないだろう。

「近くに砦みたいなのは無いですか? そこにおびき寄せて攻撃すれば、失敗しても最悪町は守れます」

 サウス男爵に聞いてみた。

「ええ、実は砦はあったのですが、すでに壊されてしまいましてな……」

 弱ったように男爵がうつむいた。

「壊されていてもいいんです。私がそこで迎え撃ちます。ここから砦は見えますか」

「ああ、この城壁に登れば見えるはずだ」

 案内されて階段を上がり、高い城壁の上に上った。サイクロピス達がすぐそこに居る。

 やっぱりでかい。

 うわっこれは怖いな……。


 百メートルくらい先に壊れた砦跡がある。少し高い小山だ。あそこならいいかもしれない。

「うん、いいですね。では北門から出て向こうにおびき寄せて討伐します。それまでは持ちこたえてください」

「おおっお願いいたす!」

 サウス男爵が喜んだ。

「どうするつもりだ、エアシル卿」

 ニールゼン男爵が俺を見る。

「まぁ、任せておいて下さい。二ールゼン男爵は城内の守備をお願いします」

「……わかった、無茶はするなよ」

「ええ、大丈夫です」

 城壁から降りて指示を出す。

「ブライト、サントロ、土魔法で城門を強化して耐えてくれ!」

「はっ!」

「ミランダ! 魔法隊を頼む、ここで城門を守ってくれ」

「はいっ」

「メルケルン、付いてきてくれ。マルセイユ、ここは任せた、従士達とこの門を守れ」

「はっ」


「俺達も行くぜ」

「いくぜー」

 ウエスタンとオスマンが付いて来る。もちろん最初からそのつもりだ。

「ああ、頼むぞ」

「応!」

「おー」


 俺達、ウエス達、メルケルンの三馬で北門から飛び出し、大きく回り込んで南から砦跡に入った。

 サイクロピス達には気づかれていない。

「アル。全力で俺を強化してくれ!」

「はい。天使の翼エンジェルウイング天使の祝福エンジェルブレス!」

 アルフィーが光り輝き背中に大きな白い翼と頭に輪っかが現れる。聖魔の杖が光り、俺の全身が淡い光に包まれた。俺の頭に光る輪っかが現れる。

 力が漲ってきた。

 壊れた砦の、周りの土を回収して掘り下げる。ジャン、ジャン・・・

 城との間に幅五メートル、横二十メートル、深さ十五メートル位の堀(落とし穴)を作った。

 底に大槍を槍先を上向きにして埋めていく。ジャン、ジャン・・・

「おおおお」

「これならいけそうね」

「流石エル、これはエグイな……」

 完成したトラップに皆が感心した。


 あっ登れない。


「メルケルン。頼む」

「はっ」

身体強化ハイブースト! 空歩クウホ!」

 メルケルンが降りて来て俺を抱えた。

 急に飛び上がって空を蹴る。

「のわっ!」

 凄い衝撃が体を襲った!

――スタン。

 上に上がった。

「失礼しました」

 メルケルンが俺を降ろす。

「結構な勢いだなー。もっと優しくしてもらえないか」


 俺は乙女か。


「ええ、すいません。男にはこれで限界です」

 メルケルンがしれっと答える。

 女なら出来るんじゃねえか。

「しょうがないな……まぁありがとう」

「はっ、しかしエルヴァン様。これは凄い装置ですね」

「ああ、名づけて、サイクロピスホイホイだ。だがまだ途中だ、いいかよく見てろ」

 大きな布を出し、穴の上に乗せる。端に土をかぶせて重しをした後、パラパラと土をかぶせて布を完全に隠した。

 これで落とし穴は完成だ。

「うわっこれはひどい!」

「凶悪だわ……」

「恐ろしい武器です」

 皆が怯える。

 そうだろう、これは避けられないからな。

「ちょっと避けててくれ」

 さらに落とし穴の後ろ、足場の周りに土を出して盛り上げる。ジャン。ジャン・・・

 十五メートルの高さの足場、横幅二十メートル、厚み五メートルの(砦壁)を作った。

(落とし穴用の土を出しただけ)

「おおおお!」

 これで簡易の砦が完成だ。

「よし、後はここにサイクロピスをおびき寄せるだけだな」

 足場を見渡す。

「メルケルン。合図をしたら空歩で近づいて攻撃し、奴等をここに連れて来てくれ」

「はっ分かりました」

「皆は来たやつらに全力で攻撃だ。サイクロピスが穴に落ちたら俺達の負けだ。近づけずに倒しきったら俺達の勝ちだ。いいか、リーダーは三点で他は一点だ。いいな!」

「完全に遊んでるじゃねえか……それよりエル、俺達にも武器をくれよ」

 大盾しかないウエスタンが催促する。当然そう言うと思った。

「まあ、待ちなさい」

 ジャンジャン・・・・・

 バリスタを十五個出して横に並べる。

「おおおおおお!」

「バリスタ撃ちたい人ー」

「「はーい!」」

 全員手を上げた。

 アルフィーもメルケルンも手をあげている。

「いや、二人とも遠距離攻撃あるだろ」

「いえ、私も一度撃ってみたかったのです。大槍を強化して撃ってみたいのです」

 メルケルンが懇願する。

「私も強化して撃ってみたいです」

 アルフィーが上目使いで俺を見る。

 しょうがないなぁアルフィーは。

「そうか。じゃあ、もう三台出すか」

 ジャン・・。

 全部で十八個だ。六人いるので一人三台だ。

「俺はこの三台使うから、皆三台ずつな。」

「やったー。あたしも強化して撃ってみよー」

 オスマンがバリスタを持って狙いを定める。
 
「俺も撃ってみたかったんだよ。シルフィー強化してくれよ」

 ウエスタンがシルに甘える。

「しょうがないわね」

 まるで緊張感がない……まあ、いいか。

「よし、メルケルン頼む。弱点は目だぞ。皆準備はいいか!」

「「「はい!」」」

「行きます!」

 メルケルンが飛び出し、空を蹴った。
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