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外章
その2 トコ姫
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「おヤド様、それはようございました。この二人は凄腕の治療師です。昨日お話した火傷の治療も、もう跡形もなく綺麗になったのですよ」
お銀さんもミサキちゃんの完治した姿を確認したらしい。
「そうですか、では期待できますね。先生、どうぞお願いしますね」
おヤドと呼ばれた品のあるおばさんが、ゆっくりと頭をさげた。
「はい、がんばります」
靴を脱いで屋敷に上がり、長い廊下を歩いた後、奥の部屋の前でおヤドが声をかけた。
「トコ姫様、先生がいらっしゃいました」
「どうぞ」
中から小さな声が聞こえた。
横にスライドさせる軽いドアを開けて四人で室内に入った。
そこには布団から上半身を起こした状態の、やつれた細い姫がたたずんでいた。
「姫様、起き上がって大丈夫なのですか」
「ええ、不思議と調子がいいのです。青先鳥のおかゆのおかげでしょう」
とても調子がいいとは思えないほどに頼りない顔色だが、それでもいつもよりはいいのだろう。
「そうですか……今日はその青先鳥を取ってくださった先生と、治療師の先生が来てくれたのです。さっそく見て頂きましょう」
「はい、お願いします」
今にも倒れそうな姫が弱々しく微笑んだ。
「だいぶ具合が悪そうですね。すぐに……そうですね。今日は病気治療のCクラスと体力回復のCクラスをかけましょう」
布団に近づきトコ姫の様子を見たアルフィーが言った。
本来、病気の治療は状態を回復させるリジェネ系なのだが、怪我を治すヒール系もかけるつもりか。
「大丈夫? アルフィーさん、ヒールもしたほうがいいの?」
「ええ。本当はリジェネのBクラスにしようと思っていたのですが、体力も大分無いようです。リジェネのBクラスで効かないともう今日は打ち止めですからね。一応安全策です」
アルフィーも色々考えているようだ。
昨日は魔力枯渇で自分が辛かっただろうし、完治しなくてもまずは二種類のCクラスがいいと判断したのだろう。それほど彼女の具合が危なそうに感じるのだ。
「そうね、そのほうが良いかもね。じゃあ布団は取ってもらいましょうか」
「はい、そうですね。あっ寝てもらって結構ですよ」
「わかりました。姫様、失礼します」
おヤドがゆっくりと姫を寝かせて、かかっている布団をめくった。
細い……まるで棒のような体の細さだ。
これはひどい。
ほとんど骨と皮ばかりで肉がついて無いように見える。
ヒールとリジェネも、ここまで痩せているのを太らすのができるのだろうか。
大丈夫かな。
アルフィーが上着を脱いだので受け取った。
目が合うと、大丈夫と言わんばかりにうなずくアルフィー。
ステッキを右手に持ち構える。
「お辛かったでしょう、すぐ楽になりますよ。ではいきます。天使の翼!」
呪文とともにアルフィーが光り輝き、背中に白い翼が四枚現れ同時に頭に光る輪が浮かぶ。
「おおお! 天女様」
「おお、本当……天女様」
「ああ、天女様のようです」
アルフィーの姿を見た三人とも、驚いて同じ事を言う。
どうしよう……天使ですよと言い直すか?
まあどうでもいいか。
三人がアルフィーに手を合わせた。
「ふふふ。天使ですよ?」
アルフィーが自分で訂正した。
そうよね。これでスッキリした。
「では、いきます。特別状態回復! 特別回復呪文!」
連続で発せられた二つの呪文に、アルフィーの手とステッキが薄く二重に光り輝いた。
ヒール系とリジェネ系で少し光の色が違うようだ。
ステッキの杖先からトコ姫に光が移動するとトコ姫の全体が癒しの光に包まれる。
見る見る顔色が良くなっていく。
流石にまだ痩せてはいるが、それでも大分肉が付きふっくらしたように見えるのだ。
「ああ……温かい。すごい……力が沸いて来た。苦しくないわ!」
トコ姫の目が見開かれ、さっと上半身を起こした。そして布団からゆっくり立ち上がった。
「姫様!」
慌てておヤドが姫を支えようとするが、トコ姫は手をあげてそれを制した。
「大丈夫です、おヤド。大丈夫なのです……信じられませんが私。立って歩いてます」
自身の力を確かめるように、ゆっくりと慎重に布団から歩いて出る。
まだ弱々しい足取りだが、先ほどまでの危なそうな感じはしない。
「ああ、トコ姫様……ううっ……」
その回復した姿を見ておヤドは顔を伏せた。
元が酷かった分まだ痩せてはいるが最初よりは明らかに肉がついているように見える。
「……あんた達、本当にすごいんだね。もしかして天から来たのかい?」
奇跡を目の当たりにしたお銀が真剣な顔でこっちを見る。
「ふふふ」
アルフィーは噴出すように笑った。
「天からじゃないわ。東にある大陸にあるネイマールの国から来たのよ。まぁルフィーさんは本当に天使だけどね」
「そんな国があるのかい? いや、たまげたよ。でも良かった良かった」
「天使様、ありがとうございました。こんなに清々しい気分になったのは初めてです」
トコ姫が土下座をするように嬉しそうにお礼を言った。
「ええ、回復したようで良かったです。ですが、もしかしたら完全には治ってないかもしれません。とりあえずは栄養のある物を食べてよく寝てください。元気だからと急激に運動したりしてはいけませんよ」
指導するアルフィーがまるで先生のようだ。
「はい、わかりました。そう言えば急に食欲も出てきました、こんな気分は本当に初めてです。おヤド、すぐに食事の支度を」
「はい、姫様。ではあの青先鳥のおかゆをたっぷりお持ちしますね」
おヤドが嬉しそうに微笑んだ。
「あっそれ私達も食べたい!」
「ちょっとシルフィーさん」
「いいじゃないの、珍しいんでしょ。どんな味がするか興味があるのよ。ねえいいでしょ」
「ほほほ、そうですね。では皆さんの分もお持ちしましょう……実は私も興味があるのですよ。よろしいですか、姫様」
おヤドも楽しそうに言う。
「ええ、もちろんです。皆で食べましょう。それからおかゆだけじゃなく、肉も料理してちょうだい」
トコ姫は大分食欲があるようだ。
「はい、では準備させますね」
「やったー! 良かったわね、お銀さん。本当は食べてみたかったでしょ?」
お銀さん腕をつつく。
「あんた……本当にすごいねぇ」
呆れたお銀さんと一緒に、トコ姫様の回復を祝って食事会が開かれた。
持って来てもらった青先鳥の料理は、栄養があってものすごく美味しかった。
体の中から元気が湧いてくるようだった。
トコ姫様は皆と同じくらいの量を食べたうえに、お酒も少しだけ飲んだ。
どうしても飲んでみたかったようだ。
すぐに真っ赤になったのでホンの少しだけだったが、初めての経験に嬉しそうにはしゃいでいた。
五人でまるで宴会のようになってしまい、お腹がいっぱいになったので布団をしいて昼寝をした。
お銀さんはお礼を言って帰って行った。
起きたら夕方だったので、そのまま夕食も一緒に食べた。
その後風呂にも入らせてもらって、その日は屋敷に宿泊した。
お銀さんもミサキちゃんの完治した姿を確認したらしい。
「そうですか、では期待できますね。先生、どうぞお願いしますね」
おヤドと呼ばれた品のあるおばさんが、ゆっくりと頭をさげた。
「はい、がんばります」
靴を脱いで屋敷に上がり、長い廊下を歩いた後、奥の部屋の前でおヤドが声をかけた。
「トコ姫様、先生がいらっしゃいました」
「どうぞ」
中から小さな声が聞こえた。
横にスライドさせる軽いドアを開けて四人で室内に入った。
そこには布団から上半身を起こした状態の、やつれた細い姫がたたずんでいた。
「姫様、起き上がって大丈夫なのですか」
「ええ、不思議と調子がいいのです。青先鳥のおかゆのおかげでしょう」
とても調子がいいとは思えないほどに頼りない顔色だが、それでもいつもよりはいいのだろう。
「そうですか……今日はその青先鳥を取ってくださった先生と、治療師の先生が来てくれたのです。さっそく見て頂きましょう」
「はい、お願いします」
今にも倒れそうな姫が弱々しく微笑んだ。
「だいぶ具合が悪そうですね。すぐに……そうですね。今日は病気治療のCクラスと体力回復のCクラスをかけましょう」
布団に近づきトコ姫の様子を見たアルフィーが言った。
本来、病気の治療は状態を回復させるリジェネ系なのだが、怪我を治すヒール系もかけるつもりか。
「大丈夫? アルフィーさん、ヒールもしたほうがいいの?」
「ええ。本当はリジェネのBクラスにしようと思っていたのですが、体力も大分無いようです。リジェネのBクラスで効かないともう今日は打ち止めですからね。一応安全策です」
アルフィーも色々考えているようだ。
昨日は魔力枯渇で自分が辛かっただろうし、完治しなくてもまずは二種類のCクラスがいいと判断したのだろう。それほど彼女の具合が危なそうに感じるのだ。
「そうね、そのほうが良いかもね。じゃあ布団は取ってもらいましょうか」
「はい、そうですね。あっ寝てもらって結構ですよ」
「わかりました。姫様、失礼します」
おヤドがゆっくりと姫を寝かせて、かかっている布団をめくった。
細い……まるで棒のような体の細さだ。
これはひどい。
ほとんど骨と皮ばかりで肉がついて無いように見える。
ヒールとリジェネも、ここまで痩せているのを太らすのができるのだろうか。
大丈夫かな。
アルフィーが上着を脱いだので受け取った。
目が合うと、大丈夫と言わんばかりにうなずくアルフィー。
ステッキを右手に持ち構える。
「お辛かったでしょう、すぐ楽になりますよ。ではいきます。天使の翼!」
呪文とともにアルフィーが光り輝き、背中に白い翼が四枚現れ同時に頭に光る輪が浮かぶ。
「おおお! 天女様」
「おお、本当……天女様」
「ああ、天女様のようです」
アルフィーの姿を見た三人とも、驚いて同じ事を言う。
どうしよう……天使ですよと言い直すか?
まあどうでもいいか。
三人がアルフィーに手を合わせた。
「ふふふ。天使ですよ?」
アルフィーが自分で訂正した。
そうよね。これでスッキリした。
「では、いきます。特別状態回復! 特別回復呪文!」
連続で発せられた二つの呪文に、アルフィーの手とステッキが薄く二重に光り輝いた。
ヒール系とリジェネ系で少し光の色が違うようだ。
ステッキの杖先からトコ姫に光が移動するとトコ姫の全体が癒しの光に包まれる。
見る見る顔色が良くなっていく。
流石にまだ痩せてはいるが、それでも大分肉が付きふっくらしたように見えるのだ。
「ああ……温かい。すごい……力が沸いて来た。苦しくないわ!」
トコ姫の目が見開かれ、さっと上半身を起こした。そして布団からゆっくり立ち上がった。
「姫様!」
慌てておヤドが姫を支えようとするが、トコ姫は手をあげてそれを制した。
「大丈夫です、おヤド。大丈夫なのです……信じられませんが私。立って歩いてます」
自身の力を確かめるように、ゆっくりと慎重に布団から歩いて出る。
まだ弱々しい足取りだが、先ほどまでの危なそうな感じはしない。
「ああ、トコ姫様……ううっ……」
その回復した姿を見ておヤドは顔を伏せた。
元が酷かった分まだ痩せてはいるが最初よりは明らかに肉がついているように見える。
「……あんた達、本当にすごいんだね。もしかして天から来たのかい?」
奇跡を目の当たりにしたお銀が真剣な顔でこっちを見る。
「ふふふ」
アルフィーは噴出すように笑った。
「天からじゃないわ。東にある大陸にあるネイマールの国から来たのよ。まぁルフィーさんは本当に天使だけどね」
「そんな国があるのかい? いや、たまげたよ。でも良かった良かった」
「天使様、ありがとうございました。こんなに清々しい気分になったのは初めてです」
トコ姫が土下座をするように嬉しそうにお礼を言った。
「ええ、回復したようで良かったです。ですが、もしかしたら完全には治ってないかもしれません。とりあえずは栄養のある物を食べてよく寝てください。元気だからと急激に運動したりしてはいけませんよ」
指導するアルフィーがまるで先生のようだ。
「はい、わかりました。そう言えば急に食欲も出てきました、こんな気分は本当に初めてです。おヤド、すぐに食事の支度を」
「はい、姫様。ではあの青先鳥のおかゆをたっぷりお持ちしますね」
おヤドが嬉しそうに微笑んだ。
「あっそれ私達も食べたい!」
「ちょっとシルフィーさん」
「いいじゃないの、珍しいんでしょ。どんな味がするか興味があるのよ。ねえいいでしょ」
「ほほほ、そうですね。では皆さんの分もお持ちしましょう……実は私も興味があるのですよ。よろしいですか、姫様」
おヤドも楽しそうに言う。
「ええ、もちろんです。皆で食べましょう。それからおかゆだけじゃなく、肉も料理してちょうだい」
トコ姫は大分食欲があるようだ。
「はい、では準備させますね」
「やったー! 良かったわね、お銀さん。本当は食べてみたかったでしょ?」
お銀さん腕をつつく。
「あんた……本当にすごいねぇ」
呆れたお銀さんと一緒に、トコ姫様の回復を祝って食事会が開かれた。
持って来てもらった青先鳥の料理は、栄養があってものすごく美味しかった。
体の中から元気が湧いてくるようだった。
トコ姫様は皆と同じくらいの量を食べたうえに、お酒も少しだけ飲んだ。
どうしても飲んでみたかったようだ。
すぐに真っ赤になったのでホンの少しだけだったが、初めての経験に嬉しそうにはしゃいでいた。
五人でまるで宴会のようになってしまい、お腹がいっぱいになったので布団をしいて昼寝をした。
お銀さんはお礼を言って帰って行った。
起きたら夕方だったので、そのまま夕食も一緒に食べた。
その後風呂にも入らせてもらって、その日は屋敷に宿泊した。
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