【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ

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自殺させていただきます

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 あの婚約破棄から数日。
 私はベッドの上に横になり、1人自分の部屋の中でため息を吐いていた。

 学園では今回の婚約破棄の話題がもちきりとなって、悪い意味で私は時の人となってしまった。

 婚約破棄が珍しいということもあるが、なによりその理由が良くない。
 あの秀才ローレア嬢に嫉妬して、虐めを働いていたというのはかなり印象が良くなかった。

 お陰で私は友人も失い、親からの信用も失い、得たものは『悪役令嬢』などと言う不名誉な称号あだなだけである。

 それもこれもあのアーウィンバカがあんな女の妄言を信じてしまったからだ。

 ローレアがアーウィンに恋をして、彼の婚約者である私に目をつけて虐めてきたというのが真実だというのに。

 アーウィンとローレアが懇意にしているという噂は私も聞いていたが、まさかここまで籠絡されているなんて……。

 不安になった私が、彼女との関係を問いただした時に言ってくれた「彼女とは何ともないよ。婚約者は君しかいない」という言葉は嘘だったのね。

 だとしたら、あの言葉を信じた私がバカみたいじゃない。
 彼に一瞬、胸をときめかせた私をぶん殴ってやりたい気分よ。

 彼と結婚することが、ローレアの虐めから耐える力となっていたことが恥ずかしい。
 まるで道化じゃないの。

 ああ、思いっきり泣いてしまいたい。
 しかし、もうその涙も出ないほどに泣いたし、なにより私の心が枯れて果ててしまっていた。

 ……もうダメだ。
 今の私にはもはや何も無い。

 学園を辞めたくてもそんなの両親が許してくれるはずがない。
 顔は見た事がないが、かの第3王子のように飛び級で卒業出来たら、また違っていたかもしれないが、あいにく私はそこまで成績がいい訳ではない。
 私に逃げ道はなかった。

 ああ……これ以上生きていて何かいい事があるのだろうか?
 これ以上耐え忍んでなんの意味があるのだろうか?

 そう考えた瞬間。
 私はある1つのことに思い至った。

「そうだ……。もう死のう」



 自殺を決めた私は、早速その日の夜に行動を移すことにした。

 しかし、あの女にやられっぱなしのままで死ぬのはしゃくにさわると思った私は、遺書を書くことにした。
 死ぬ前に後悔は残しておきたくなかったし、死んだ後でなにか爪痕を残しておきたかったのである。

 だから私は時間を書けて、たっぷりとあの女への怨念を書き綴ったし、あの男への侮蔑の言葉を並び立てた。
 そうして出来上がった遺書は、なんだか今の私の全ての恨みが詰まった呪いの魔法のようで。
 その出来に、私はうんうんと何度も頷く。

 渾身の出来じゃない。
 こんな最高の遺書を書いたのは私ぐらいでしょうね。

 よし。遺書も出来上がったし、早速自殺する場所に向かおうとしましょう。

 場所は勿論、魔法学園。

 あそこなら大勢の人に見られるだろうし、インパクトがある。
 私が死んだ姿を大勢の目に焼き付けてやるのよ。

 私はこっそり屋敷から出ると、学園へと向かった。
 幸い私の屋敷と学園はそう遠く離れておらず、馬車などを使わなくても1時間で着いてしまう。

 そうして遺書とロープを握りしめながら、私は風の魔法を使いながら走っていった。
 こうすると強い追い風が発生して、走るのが楽になるのよね。

 そして学園についた私は、こっそりと門を乗り越えて中に入る。

 夜の学園は不気味で、何が非科学的ななにかが出てきそうな気がするくらいだ。
 しかし、今の私にとってここは人生最後の晴れ舞台。
 ここで盛大に散ってやるのよ。

 さて……死ぬとしたらどこがいいのかしら。
 教室? 魔法館? 屋上?
 それともやっぱり人目につく大広場かし――

「なにしてるんだ?」
「ひゃ!?」

 突然、後ろから鋭い男の声が聞こえてきた。
 びくっと身体を震わせてしまった私は、思わず持っていた遺書を落としてしまう。

「ん? なんだこれは?」

 後ろを振り向くと、声の主がしゃがんで私の遺書を拾っているのを伺えた。

「ちょ! 返してください! って、きゃっ!?」

 取り返そうと手を伸ばすも、強い風の障壁が彼の周りを覆う。
 どうやら風の魔法を使ったようだ。

 次の瞬間ボッという音と共に、辺りが急に明るくなった。
 彼の周りに小さな炎が出ている。今度は炎の魔法を使ったらしい。

 どうやら私の遺書を読むつもりみたいだ。

 そして、私は闇の中から浮かび上がった彼の容姿に、思わず息を飲んでしまった。

 白金のような輝かしい銀髪。
 透き通った青空のような碧眼。
 そして鼻が高く、その精悍な顔立ちはまさにオペラ俳優に勝るとも劣らない。

 彼は白衣のようなローブを着ており、一目で同じ学園の関係者だということがわかる。
 私の通う学園では、先生及び研究者は皆その衣装を着ているからだ。

 こんな美しい先生は今まで見たことがないわ。
 ここまでずば抜けた容姿をしていたら、一目見たら流石に忘れないと思う。
 ということは研究者なのかしら。

 でも、こんな夜遅くまで仕事をしているなんてまさか予想外だったわ……。
 この時間なら大丈夫だと思ってたのに。
 なんて運がないんでしょう私は。

 なんて考えていると、彼はどうやら読み終わったみたいで、私に遺書を返してきた。

「なんだ、君はこれから死ぬのか?」

 どうやら遺書の内容から、私がこれからなにをするのかバレてしまったようだ。

 ああ……面倒くさいことになったわ。
 流石に自殺するなんてバレてしまったら、否が応でも止められるわよね。
 でも、今更嘘をついても、私はこれから死にますってバッチリ遺書に書いてしまっているし、誤魔化しようがないわ。
 どうしましょ……。
 いい言い訳が思いつかないわ……!

「黙っているということは、肯定ということでいいかな?」
「……」
「へぇー、やっぱりそうなんだね。ふーん……」
「……言っておきますけど、どんなに止められたって私は自殺するつもりですからね」

 私は俯いて、拳を握りしめる。
 もう誤魔化しようがないと悟った私は、開き直ることにした。

 どんなありがたい説教をくらったとしても、私は死ぬことを諦めたりしない。
 他人の言葉なんかで綺麗ごとをぶつけられたところで、それは絶対に響く気がしなかった。
 だって私の苦しみは私にしか分からないのだから。

 だからどんなに止められようと私は――


「ん? 別に止めないよ?」


 …………へ?
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