【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ

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僕と一緒に爪痕を残そう!

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「別に止めないよ?」

 私は彼の言葉に思わず顔を上げてしまう。

 すると、目に飛び込んできたのは、彼の美しく爽やかな笑み。
 それはまるで新しいおもちゃを与えられた子供のような無邪気さを伴っていた。

「だってこんな面白いことわざわざ止めるはずがないじゃないか! 僕ちょっと興味があったんだよね。人が死ぬ瞬間って魂とか魔力とかどうなっちゃうんだろうって! だから君の自殺に立ち会ってもいいかな? いや、ダメって言われても立ち会うけどね! 勿論、死ぬ時は専用の魔法測定器具とか付けてもらうよ! あ、それともし論文を書くことがあれば、君の名前は伏せるから安心してね!」

 猛烈な早口で捲し立ててくる彼に、私は完全に引いてしまう。

 え、なにこの人。
 めちゃくちゃ怖いんですが。

 というか普通、自殺するなんて聞いたら止めるところでしょ……。
 それともなに? 私の命なんてただの実験材料としての価値しかないとでもいいたいのかしら。
 だとしたら、めちゃくちゃかんに障るのですが。

「あの……これから人が死ぬっていうのに、止めようとしないんですか? 普通止めるでしょう」

 私がイラつきを隠さずにそう訊くと、彼は首を横にふる。
 
「別に死ぬのなんて人の勝手じゃないか。辛いことがあったから自殺するなんて当然の権利だろう? それに僕がいくらそれを止めようとしたって、君は死ぬことを選ぶんじゃないか? だとしたら、僕が止めようとしてもそれはなんの意味もない事だ」

 彼はあっけらかんとした口調でそう答えた。

 なんというか理解が良すぎる。
 良すぎるというか、人の生死に対して淡白すぎるでしょ。

 もっと、こう……なんていうか……。
 もうちょっと引き止めてほしかった感は拭えない。

「あ、でもこの遺書はいただけないかも」
「え?」
「なんか君は虐められていたみたいだけど、この遺書の内容じゃ誰も君が虐められていたことを周りに信用させるには足らないと思う。内容が主観的だし、なにより感情的過ぎてイマイチ伝わってこない。もっと客観的な視点を持って書いた方がいいよ」

 そう言われて私はショックを受けた。
 え……この遺書じゃダメなの……?
 自分としては最高の遺書だと思ったのに……。

「というかなんで君は遺書なんか書いたんだい? 別に死ぬなら勝手に死ねばいいじゃないか」
「か、勝手に死ねばいいって……。流石にもうちょっと歯に衣着せて喋りませんか?」
「ああ、ごめんよ。別に悪気があって言ってる訳じゃないんだ。ただ純粋に疑問に思ってね」
「……そうですか」

 なんだかここまでの彼の言動を見るに、確かに悪気があって言ってるわけではなさそうだ。
 単にこの人の頭のネジがぶっとんでいるというだけの可能性が高い気がする。

 私ははぁ……とため息をついた。

「別に大した理由ではないのです。ただ死ぬ前に爪痕を残しておきたかっただけなんですよ。真実を知ってほしかったし、悲しんでほしかったし、一生忘れられないようにしてやりたかったんです」

 私は思わず本音を吐き出してしまう。

 ……私ったら初対面の人になにを言ってるんでしょう。恥ずかしい。
 まあ、これから死ぬつもりだし、別にいいですけど……。

 なんて考えていると、私の言葉を聞いた彼はふむふむと興味深そうに頷いていた。

「じゃあ、これはダメだね。書き直しじゃないかな?」
「……そうですか」
「あ、そうそう。爪痕を残したいって話だけど、君は何か結果を残したことはあるかい?」
「結果……ですか?」
「うん、結果。例えば、魔法学会で賞をとったことがあるとか、政治関係でなにか功績を残したことがあるとか」
「はいぃ!? そっ、そんなの学生の身分でとったことあるわけないじゃないですか!」
「ふーん。じゃあ、君が死んでも爪痕は残せないね。君が死んでも精々1週間ほど話の種になるだけじゃないかな」
「そ、そこまでハッキリいいます……!? あんまりじゃないですか……!?」
「だって事実だと思うよ。何の変哲もない令嬢が1人自殺したところで、記憶にも記録にも残らないよ。身内が覚えてるのと、墓石に名前が刻まれる程度だね」
「……」
「あのね。分かってないかもしれないけど、遺書っていうのは内容云々より、誰が死んだかっていうのが重要なんだ。偉人が死ねば多くの人に悲しまれ、そして歴史に名が刻まれるのと同じようにね」

 グサリと私の胸に突き刺さる言葉のナイフ。
 痛い。なんだか妙に説得力のある言葉せいで、私の心はもう傷だらけになっていた。

 確かによくよく考えればその通りなんでしょうね。
 私みたいな子爵令嬢1人死んだところで。ましてや今や学園で嫌われ者扱いされている悪役令嬢1人が死んだところで。
 一体、誰に爪痕が残るというのでしょう。
 さっきまでは死んでやるんだという謎の高揚感で、気がつかなかったのだけれど……。

 じゃあ、私には死ぬことですら、なにも残せないというのかしら。
 そんなの残酷すぎじゃない?
 この命ひとつ投げ出してまで、残そうとした爪痕がただの傷跡になって、かさぶたに変わって、そして何事もなかったかのように治るなんて……。

 そんな事実受け止めきれない。

「じゃあ……私は一体どうすればいいんですか……。どうすれば爪痕が残せるっていうんですか……」

 それは彼に問いかけたわけではない。
 ただポツリと零してしまった弱音。

 しかし、それはしっかりと彼の耳に届いていたようで。

「うーん……そうだね。一つだけ方法があるよ。君の遺書が爪痕を残せるような最高のものにできる方法が」
「えっ……。な、なんですかそれは?」
「僕の研究を手伝うことさ!」
「……はい?」

 耳を疑った私を差し置いて、彼は両腕を大きく広げ、目をキラキラ輝かせてこう言う。

「僕と一緒にレイモンド賞をとって、歴史に名を刻むんだ!」
「え、えええええぇっ!?」
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