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第九話 都市伝説の兄妹は、京魔高専に入学する
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天井の高い体育館に、ずらりと並んだ三〇〇個近いパイプ椅子。そのほとんどが新入生たちの座る座席だ。一階に柔道場や剣道場、卓球場などを備えたその上にでんと設計されているため、体育館の窓からは背の高い木の枝葉に邪魔されずに空を望める。
重護もまた、本日の主役の一人である。学校側の配慮で朔夜の席も用意してもらえたため、右隣におすましして朔夜も座っていた。足下では、さりげなく朔夜の上履きが重護の上履きにちょこんと寄せられている。重護の上履きは本物で、朔夜のは幻視魔法で作られた偽物だ。
生前の朔夜はコンプレックスの金髪と尖った耳を隠す術を持っていなかったが、霊魔になった今は幻視魔法がある。都市伝説の正体を隠すためにも、今の朔夜は今朝同様、重護に雰囲気の似た女子高生に見えていた。
『続きましては、在校生歓迎挨拶。在校生代表、魔獣飼育学科四年、竜胆玲那』
『はいッ!』
教頭先生の厳かな司会に合わせて、聞き覚えのある声がハリのある声を上げる。
当代竜巫女の名は伊達ではない。来賓として壇上に並ぶ行政関係者、政治家たちが、玲那の会釈に粛々と応じる。
立派な演説台の中央に立ち、マイクの位置が問題ないことを確認した玲那は、スラスラと、ハキハキと、新入生を出迎えた。
『新入生の諸君、まずは入学おめでとう! 今年もまた多くの後輩が増えたこと、先輩として誇らしく思います。新入生のみんなには、その身体に秘めた才能と可能性で、ぜひ明るい未来を切り拓いてもらいたいと期待しています』
既に竜巫女としての使命を全うしている玲那の言葉に、生徒たちの多くが自分だってと意気込んだ。
魔導の時代が落ち着き始めて数十年が経つが、まだまだ魔力分野は発展途上だ。そんな時代で実践的なカリキュラムを組む京魔高専では、在校生が華々しい成果を上げて全国ニュースになることもしばしばある。
脅威となり得る魔導に立ち向かう抗魔官。
魔導と共に新時代を牽引していく研究員。
日常に魔導を取り入れ広めていく先導者。
近くに座っている名前も知らない同級生が、数年後には誰もが知っていて当然の存在になっているかもしれないのだ。
『時に競い合い、時に助け合い、京魔高専の名に恥じない生徒として青春を謳歌してください』
祝辞を終えた玲那が、壇上に上る時とは逆の順序で腰を折り、木製の階段を下り始めた――刹那、体育館に激震が走る!
「きゃああ⁉」
「なんだなんだ⁉」
地震にしては感覚的に揺れ方が違う。どちらかといえば台風に近い。
「この魔力――!」
体内に魔力を宿す朔夜は、魔力のない人間には感じ取れないなにかがわかるらしかった。それはつまり、この揺れの原因は――!
「魔人です! 魔人・モデルハルピュイアが外にッ! 既に生徒隊が応戦中です!」
体育館に飛び込んできた用務員らしき男が、切羽詰まった声を荒げる。
「すぐに抗魔庁に通報しろッ! ただし狩るのは我々だ! 玲那!」
「ハイッ!」
凜とした若い女性教師――入学試験でシフォンと戦った際に審判をしてくれた人だ――に名前を呼ばれ、揺れが収まるのを待たずに玲那が体育館を駆け出した。
「俺たちも行くぞ!」
「え、でもっ」
抗魔官を父に持つ息子として、黙って指を咥えて見ていることなどできなかった。それに教師陣はとっくに重護と朔夜がエルフの魔人の都市伝説で実績を上げていることを知っていて入学させているのだ。むしろここで出動しない方が咎められる。
朔夜は重護の背後霊である以上、重護が動けばどうしても引っ張られてしまう。端から見た時におかしく見えないように、朔夜は重護の手を握って走った。
「竜胆先輩!」
「おお、久しぶり重護くんに朔夜ちゃん! 一緒に戦ってくれるのかい⁉」
体育館の出口へ迫るところで追いつき、どこか場違いに喜んだ玲那に呆気に取られる。
「余裕そうっスね……」
「ウチの学校で戦力認定されるとね、学校の防衛くらいならあたりまえにやらされるんだ。なんたってエルフの魔人の調査だってやらされたしね」
その件を言われると、嫌でも頬がぎこちなく強張ってしまう。
「お邪魔じゃなければ助太刀します」
「こりゃ頼もしいや!」
体育館から廊下へ飛び出した玲那は、すぐそばの階段を駆け下りようとして再び驚きの声を上げた。
「ってうわぁ⁉」
彼女の身体がふわりと浮いたのだ。
「竜胆先輩! 踊り場の窓から外に出ますッ、身体丸めてください!」
朔夜の念動魔法が、重護と玲那の身体を浮かせている。それだけでなく、同時に窓の鍵を開けて全開にするという芸当も容易くこなしていた。
「あは、マジで器用だねポルターガイスト……」
玲那がスカートを抑えながら四肢を畳んだのを確認して、朔夜の念動魔法の出力が増す!
重護の中に朔夜が憑依し、玲那と共に勢いよく窓から外へ飛び出した。
重護もまた、本日の主役の一人である。学校側の配慮で朔夜の席も用意してもらえたため、右隣におすましして朔夜も座っていた。足下では、さりげなく朔夜の上履きが重護の上履きにちょこんと寄せられている。重護の上履きは本物で、朔夜のは幻視魔法で作られた偽物だ。
生前の朔夜はコンプレックスの金髪と尖った耳を隠す術を持っていなかったが、霊魔になった今は幻視魔法がある。都市伝説の正体を隠すためにも、今の朔夜は今朝同様、重護に雰囲気の似た女子高生に見えていた。
『続きましては、在校生歓迎挨拶。在校生代表、魔獣飼育学科四年、竜胆玲那』
『はいッ!』
教頭先生の厳かな司会に合わせて、聞き覚えのある声がハリのある声を上げる。
当代竜巫女の名は伊達ではない。来賓として壇上に並ぶ行政関係者、政治家たちが、玲那の会釈に粛々と応じる。
立派な演説台の中央に立ち、マイクの位置が問題ないことを確認した玲那は、スラスラと、ハキハキと、新入生を出迎えた。
『新入生の諸君、まずは入学おめでとう! 今年もまた多くの後輩が増えたこと、先輩として誇らしく思います。新入生のみんなには、その身体に秘めた才能と可能性で、ぜひ明るい未来を切り拓いてもらいたいと期待しています』
既に竜巫女としての使命を全うしている玲那の言葉に、生徒たちの多くが自分だってと意気込んだ。
魔導の時代が落ち着き始めて数十年が経つが、まだまだ魔力分野は発展途上だ。そんな時代で実践的なカリキュラムを組む京魔高専では、在校生が華々しい成果を上げて全国ニュースになることもしばしばある。
脅威となり得る魔導に立ち向かう抗魔官。
魔導と共に新時代を牽引していく研究員。
日常に魔導を取り入れ広めていく先導者。
近くに座っている名前も知らない同級生が、数年後には誰もが知っていて当然の存在になっているかもしれないのだ。
『時に競い合い、時に助け合い、京魔高専の名に恥じない生徒として青春を謳歌してください』
祝辞を終えた玲那が、壇上に上る時とは逆の順序で腰を折り、木製の階段を下り始めた――刹那、体育館に激震が走る!
「きゃああ⁉」
「なんだなんだ⁉」
地震にしては感覚的に揺れ方が違う。どちらかといえば台風に近い。
「この魔力――!」
体内に魔力を宿す朔夜は、魔力のない人間には感じ取れないなにかがわかるらしかった。それはつまり、この揺れの原因は――!
「魔人です! 魔人・モデルハルピュイアが外にッ! 既に生徒隊が応戦中です!」
体育館に飛び込んできた用務員らしき男が、切羽詰まった声を荒げる。
「すぐに抗魔庁に通報しろッ! ただし狩るのは我々だ! 玲那!」
「ハイッ!」
凜とした若い女性教師――入学試験でシフォンと戦った際に審判をしてくれた人だ――に名前を呼ばれ、揺れが収まるのを待たずに玲那が体育館を駆け出した。
「俺たちも行くぞ!」
「え、でもっ」
抗魔官を父に持つ息子として、黙って指を咥えて見ていることなどできなかった。それに教師陣はとっくに重護と朔夜がエルフの魔人の都市伝説で実績を上げていることを知っていて入学させているのだ。むしろここで出動しない方が咎められる。
朔夜は重護の背後霊である以上、重護が動けばどうしても引っ張られてしまう。端から見た時におかしく見えないように、朔夜は重護の手を握って走った。
「竜胆先輩!」
「おお、久しぶり重護くんに朔夜ちゃん! 一緒に戦ってくれるのかい⁉」
体育館の出口へ迫るところで追いつき、どこか場違いに喜んだ玲那に呆気に取られる。
「余裕そうっスね……」
「ウチの学校で戦力認定されるとね、学校の防衛くらいならあたりまえにやらされるんだ。なんたってエルフの魔人の調査だってやらされたしね」
その件を言われると、嫌でも頬がぎこちなく強張ってしまう。
「お邪魔じゃなければ助太刀します」
「こりゃ頼もしいや!」
体育館から廊下へ飛び出した玲那は、すぐそばの階段を駆け下りようとして再び驚きの声を上げた。
「ってうわぁ⁉」
彼女の身体がふわりと浮いたのだ。
「竜胆先輩! 踊り場の窓から外に出ますッ、身体丸めてください!」
朔夜の念動魔法が、重護と玲那の身体を浮かせている。それだけでなく、同時に窓の鍵を開けて全開にするという芸当も容易くこなしていた。
「あは、マジで器用だねポルターガイスト……」
玲那がスカートを抑えながら四肢を畳んだのを確認して、朔夜の念動魔法の出力が増す!
重護の中に朔夜が憑依し、玲那と共に勢いよく窓から外へ飛び出した。
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