都市伝説の兄妹は、いずれ最強の伝説になる

進藤 樹

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第十三話 都市伝説の兄妹は、先輩に呼び出される

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 スクールバッグを背負い、紐で繋がった朔夜を挟んで葵と廊下を歩く。

「初日から連れ出してしまってすまない」
「いえ、ハルピュイアの件なら仕方がないです。それで、なにがあったんです?」
「詳しくは鈴谷先生から話がある。極秘ゆえ、歩きながらでは喋れぬことだ」

 となると、この移動中にするべき喫緊の議題はない。即ち話題に困る。
 気まずさをまとって歩いていると、姿勢よく歩を進める葵が、ちらりと重護を見やった。

「……ところで。今日、紹介のあった星埜抗魔官というのは」
「あ、わかります? 俺たちの親っスよ」

 上弦は筋肉ばかりに目がいくが、顔立ちや髪質は色濃く重護に遺伝している。朔夜は尖った耳とプラチナブロンドの髪が悪目立ちするものの、整った目鼻は美月譲りだ――もっとも、出現時は大概幻視魔法で変身しているが。

「そういえば、刀城先輩は抗魔科でしたね」
「そうだ。だから君の父君に師事することになるのだが……やはり、筋肉をもっとつけるべきだろうか?」
「……ハイ?」

 不穏な単語が聞こえて眉を顰める。葵は心底不安げに、眉間に皺を寄せていた。

「実は、私が抗魔官を目指したのは君の父君に憧れたからなのだ。私が中学生の頃、テレビで抗魔官を特集する番組があってだな」

 葵は五年生だから、逆算で六年程度前のことになる。朔夜が不可解な死を遂げるより数年前、重護が小学校低学年の頃合いだろう。

「もしかして『激録! 抗魔官二四時』ですか?」
「フフ、そうだ。現人神々の支部を摘発する際、警視庁の警察官とどっちが検挙するかで争いになったことがあっただろう」
「初耳なんスけど……」

 そんなことまで特集されているのかと、少し番組の行く末が不安になった。

「それで? 親父が仲裁に入った、と」
「いや、逆だ。警棒を構えた十数人もの刑事を相手に、一人大立ち回りを演じる星埜抗魔官……。それを見た私の心は震えたのだよ――この人のように強くなりたいと」
「なんで犯罪組織そっちのけで味方同士が争ってる映像を見て感動してんスか!」
「てかパパ、テレビカメラの前でそんなことしてたの……?」

 記憶にないのは、たまたま見ていない回だったからか、あるいは美月がテレビを消したか。渋面を作る朔夜の隣で、葵はキラキラと興奮して語った。

「あの時の台詞は今でも記憶に焼き付いている――我々には我々の正義があり、君たちには君たちの正義がある。ならばここは手合わせ願おうじゃないか!」
「手を取り合おうぜ親父! そこは手合わせじゃなくて力を合わせてくれよ!」

 片や危険な魔導具をいち早く無力化したい抗魔官。一方でそれらを起訴のための証拠品として押収したい刑事。どちらも正義のためとはいえ、争わない道はなかったのだろうか。

「でも、よくそんなきっかけで、刀城先輩はよく剣聖なんて呼ばれるくらいまで活躍できたっスね……。というか魔獣災対処と魔導犯罪摘発じゃ、同じ抗魔官とはいえ分野がまったく違うと思うんですけど」

 抗魔官は魔導犯罪対策部と対魔獣災対策部に大別される。
 上弦が所属しているのは魔導犯罪対策部だ。魔導具を使って犯罪に手を染めたり、魔物を違法取引したりするなど、魔導に関する人間の犯罪を取り締まる。現人神々を摘発するのもこちらだ。
 一方で対魔獣災対策部は、人間の生活圏に進入してきた魔獣や魔人を討伐したり、魔導災害発生時に最前線で対処したりといった任務を担う。
 従魔契約者の人材が必要とされているのは、もっぱら対魔獣災対策部の方である。

「言われてみればお兄ちゃんの言う通りかも。刀城先輩がパパに憧れて抗魔官を目指したんなら、聖剣と従魔契約して戦うんじゃなくて、魔力に関する法律の勉強をするべきだったんじゃあないですか?」

 朔夜が顎に指を添えると、葵は静かに首を横に振る。

「私としては、あまりその線引きにこだわりはなくてな。実家の道場で受け継がれてきた技と教えを、誰かを守るために使いたいのだ。それができるなら、抗魔官でも警察官でもボディーガードでも構わないと考えている」

 葵は腰に下げた白い剣の柄を撫でる。

「ただ、私はこいつに出会えた。おかげで、魔獣や魔人の討伐が視野に入ったのだ。これは私に与えられた使命なのだと、心の底から思っているのだよ」
「刀城先輩……!」

 キリリと正面を見つめて語るその横顔は、凜々しくていつまでも見ていたい気持ちにさせられた。しかしすぐに、ぎこちなく彼の頬が吊り上がる。

「それに、法律の文章って結局なにが言いたいのかわからなくて読めないのだ。なんであんなにややこしい書き方にするのだろうな」
「刀城先輩……」

 眉根を下げて俯きがちに愚痴るその横顔は、少し情けなくて見ていられなかった。
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