都市伝説の兄妹は、いずれ最強の伝説になる

進藤 樹

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第十二話 都市伝説の兄妹は、クラスメイトと絡む

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 入学式初日から大事件が発生したが、それでもカリキュラムは予定通りに進めていくことになったらしい。
 土日を挟んで週明けの月曜日には始業式となり、魔力通信による各クラスへのテレビ中継を通じた始業式が行われた。
 重護の座席は窓際の一番後ろだ。朔夜という背後霊の都合を考慮した結果である。

『――皆さんの活躍に期待しています』

 始業式は、長々と入学式と似たような話が続いていたが、重護と朔夜にとっては特にビッグなサプライズも発生した。
 それは、今年度の教員自己紹介のプログラムでのこと。
 各学年、各クラスの担任と副担任、そして各教科の担当教師の挨拶も済んだところで、教頭先生から思いがけない言葉が出たのである。

『今年からは、より実践的な教育を行うべく、現在現役で魔導にかかわるお仕事をしている方からの特別講義を、定期的に行うことになりました。学科ごとに一名ずつ、特別講師として招待しています』

 そんな前置きと共に、魔獣飼育学科には魔獣園で働く飼育員が、魔導考古学科には魔導遺跡の調査会社で働く社員が……と紹介されていく。

『続いて、魔術科には、株式会社ケミカリーヘルスで働かれている星埜美月先生にお越しいただけることになりました』
「は⁉ 母さん⁉」
「うそ、ママだ⁉ なんで⁉」

 重護と朔夜が揃って声を上げる中、テレビ画面についこの間まで当然のようにおはようやおやすみの言葉を交わしていた母親が映る。
 気合いを入れて化粧をしているためか、四〇代の肌は高解像度のテレビ画面を誤魔化し、二〇代にも間違えそうな白さを讃えている。また、長い黒髪も、艶やかに職員室の魔力蛍光灯に当たっていた。

『生徒の皆さんこんにちは~。ご紹介に預かりました、ケミカリーヘルスの星埜美月、これでも二〇歳です!』

 若々しさを作ってパチリと飛ばしたウインクは、子供たち二人を黙らせるには十分な威力を持っていた。全身から色を失い絶句する子供たちに聞かれていることを自覚しているのかいないのか、美月は明るく自己紹介を続ける。

『――なぁんてさすがに冗談でした。本当は今年で三〇歳になります』
「嘘吐けッ!」

 実の子供が通っている学校で、よくもまあいけしゃあしゃあとサバを読んだものだ。今年で一六になる長男を産んだ母親が三〇歳のワケがない。

『でも、まるで二十代に見えるでしょう? そう、これは女性を輝かせる魔術のおかげなんです! 今や魔術は身近なファッションアイテム、うまく使えばどんな男の子だって魅了できちゃうんですよ? 私の授業では、そんなモテテクに通じる魔術をお勉強してもらいます。男子の皆さん? くれぐれも私に惚れないでくださいねっ?』
「ちょ、ママ……わたしたちが通ってる学校でなにはっちゃけてるの……」

 居たたまれない気持ちに、兄妹仲良く顔を両手で覆って隠す。そんな二人の耳元に、教頭先生からのさらなるサプライズが飛び込んだ。

『そして、抗魔学科には、抗魔庁魔導犯罪対策部捜査五課から、星埜上弦四等抗魔官をお呼びしています』
「なっ、親父もかよ⁉」
「パパ、教師なんてできるの……?」

 寮暮らしの高校生活で一家勢揃いという異様な状況に、開いた口がふさがらない。

『……よろしくおねがいします』
『あの、星埜先生。できればもう少しなにか生徒たちに激励の言葉をかけていただけると』

 なぜ、この口下手な男が選ばれたのか。世界一教師に向かない抗魔官がテレビに映っている事実が、重護にとっては不思議で不思議で仕方がない。

「では……こほん。魔力を持たない我々人類だが、人を襲う魔獣や生活を脅かす魔力災害に立ち向かう術は持っている。それは筋肉だ!』
「ああああああああああああああ親父ッ!」

 頭を抱えて、肘から机に叩きつける重護。

『鍛えた肉体があれば、どんな脅威もはね除けられる! 生徒諸君、筋肉を研ぎ澄ませッ!』
「違うのみなさん聞いてくださいっ! パパはちょーっと人前で喋るのが苦手で語彙力が偏ってるだけなんです! 習うより慣れろってタイプなんです~っ!」

 娘がフォローになっていないフォローを早口で捲し立てているとはつゆ知らず、父親は座学を全否定する精神論を並べ立て、挨拶を終えた。

 始業式は数時間で終わる。そしてそのまま、放課後だ。

「ねぇねぇ、二人って兄妹なんでしょ? 何歳差なの?」

 クラスの女子に訊かれ、幻視魔法で重護似の少女姿になっている朔夜がおずおずと答えた。

「い、一歳差ですけど……」

 本来なら一歳差なのだが、朔夜が死亡してからは重護だけが歳を取っている。そういう意味では六歳差か。

「もしよかったら今から一緒にお昼食べにいこうよ! 学食行くでしょ?」
「えと、その、ごめんなさい……。わたし、お兄ちゃんから離れられないので……」

 両親の自己紹介にツッコミを入れるという一幕があったからか、触れる背後霊というイレギュラーな存在でありながら、朔夜はクラスの女子から興味の対象となっていた。
 恐怖の対象にならなかったことが、重護自身思っていた以上に嬉しくて、つい世話を焼いてしまう。

「なに言ってんだ、朔夜。昼飯くらい好きに食えよ。俺を乗っ取ったっていいから」
「でも、それじゃお兄ちゃん友達作れなくなるでしょ……?」
「ほっとけ! んなもん、しょーがねーじゃんか」
「じゃあおれたちも混ぜてくれよ。それならどっちも寂しい思いしないで済むじゃん?」

 男子もワイワイ寄ってくる。少し浮ついている様子なのは、緊張からか、それとも女子と一緒に昼を食べるチャンスを見極めたからか。

「わ、それいい考え! いいねいいね、みんなで食べよー!」

 女子の一人が音を立てて手を合わせ、朔夜がぽかんと口を開ける。そんな朔夜と目があって、重護は笑った。

「よかったな」
「う、うん……。でもみんな、怖くないんですか……? わたし、背後霊なのに……」

 座席の融通を利かせてもらう都合上、朔夜が背後霊であることは明かされてしまっている。ただ、世間を賑わせていたエルフの魔人の正体が自分たちであることまでは知られていないし、重護たちも自分たちから伝えるつもりはなかった。

「うーん、さっきあれだけテレビに突っ込んでた子に言われても、ねぇ?」
「お化けらしさはないよねぇ」

 それそれー、とクラスメイトたちが頷く。

「お化けらしさ……ないのかな……」

 なぜか朔夜はショックを受けているようだった。背後霊であることに、朔夜なりのアイデンティティはあるらしい。

「つーかよ、霊魔怖がるようなやつが京魔高専入学しないだろ」

 重護の物言いにも、クラスメイトたちは同調してくれる。朔夜はすかさず重護へ不満げな視線を向けた。

「柴犬にも触れないお兄ちゃんに言われても……」
「え、星埜君犬苦手なの?」
「苦手ってほどじゃねーけどよ……」

 重護が喉を唸らせて朔夜を睨むと、朔夜は挑発的な笑みを浮かべて幻視魔法を発動させた。

「わんわんっ」

 犬のつもりだろうか、軽く握った手を肩の前にひょいと出す仕草をする朔夜の頭上に、柴犬の耳が生える。
 さすがにこれに怯える重護ではなかったが、クラスの女子は黙っていなかった。

「可愛い~! さっそく魔導庁に魔系文化遺産として申請しよ!」
「しねーよ! ウチの妹に勝手なことすんじゃねぇ!」
「ヘイ兄貴~、過保護かよ~」
「うっせぇ! 朔夜もあまり変なこと言うなよな⁉」
「え、えへへ……だって、楽しいんだもん……!」

 背後霊になる前は、尖った耳と日本人離れした金髪が友達作りの邪魔をして、孤独な小学校生活を送っていた朔夜だったが、背後霊になった今では幻視魔法のおかげで友達作りに支障がなくなったようだ。

「そうかよ……ったく」

 妹が家族以外の人と楽しそうに喋っている光景を見ると、兄として、感慨深いものが込み上げてくる。重護がくすぐったそうな笑顔で喋る妹を見守っていると、廊下から一人、すらりと背の高い男子生徒が入ってきた。

「失礼、星埜少年はいるだろうか」
「……少年?」

 また妙な呼び名がつけられたものだと声のした方を見る。
 きり、と鋭利な目元を中心に、全体的に刃物のような雰囲気を纏った少年――入学式の日、聖剣を携えてハルピュイアに立ち向かっていた男子生徒がいた。
 ネクタイの色は五年生を示す青色、袖口のカフスボタンには抗魔科を示す盾の紋章。なにより、スラックスの左腰に下がる白い剣の柄が特徴的だ。

刀城とうじょう先輩! どうかしたんスか?」

 席を立ち、教室への入口へと向かう。朔夜も重護の袖をつまむようについてきて、クラスメイトたちの視線も自然と向いた。

「刀城って……まさかあの剣聖か……⁉」

 クラスの半分ほどは、戸惑い半分にひそひそと話し始める。
 刀城葵は三年生の時、強力な魔人を一人で討伐したとして報道されたことがあるのだ。今驚いているクラスメイトたちは、そのニュースを憶えている人たちである。

「昼食前に悪いが、今から少しいいか。ハルピュイアの件で進展があったのだ」

 重護と朔夜は息を呑んだ。
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