都市伝説の兄妹は、いずれ最強の伝説になる

進藤 樹

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第三十一話 都市伝説の兄妹は、決意を固める

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 京魔高専への帰路につく重護は、コンビニを目に留めてふと思いつく。

「朔夜、アイス買って帰るならここが最後だぞ」

 眼前には比叡山。京魔高専は山の中にある以上、ここから先に寄り道できる所はない。

「ううん、いらない。この後晩御飯でしょ」

 そう言って歩みを進めようとする朔夜に、重護はつい笑ってしまった。
 普段なら朔夜が買い食いしたいと言いだして重護が窘めているのだ。いつもとは逆の会話が妙に新鮮で、重護はつい朔夜をまじまじと見つめてしまう。
 死亡当時と変わらない、十歳児相当の身体つきと顔立ち。今では魔人エルフの血を継いだからという理由が判明した尖った耳はそのままでありながら、もう一つの外見的特徴であるプラチナブロンドの髪は幻視魔法で黒く見えるようになっている。

「……なに? お兄ちゃん」

 ジッと嫌そうに睨まれる。もっとも、朔夜は重護から離れられないため、繋いだ手が離れることはない。

「いや、髪の色だけ変えたお前を見るのって、なにげに初めてだな……って」
「ああ……全部変えるのめんどくさくて」

 言われて気づいたのか、朔夜は幻視魔法を解除した。髪の色が鮮やかに明るくなって、終わりかけの夕日に照らされ輝く。
 重護はそんな朔夜の変化に目を奪われる。

「お兄ちゃん? もう人目なんてないも同然じゃん。まだまずい?」
「いや、そうじゃなくて……」

 一瞬、言葉に詰まる。朔夜が見た目を大きく変えていたのは、確かに自分たちが巷を騒がせている都市伝説であることを隠す側面も大きい。しかし……それだけではないはずだ。

「朔夜さ、今までなんで海原先輩の真似してたんだっけ?」
「そ、それは……遠い人だったし、可愛かったし……わたしの見た目、好きじゃなかったし」

 並んだ理由の最後の一つが、重護の目の奥を熱くする。期待を込めて、問いを重ねる。

「今は、いいのか?」
「……うん。もうよくなった」

 生前、その見た目で苦労していた昨夜は、自分のコンプレックスを意識しないようにするためにも、小夏の姿を模して出現することが多かった。入学してからは人違いの恐れもあるので重護の双子っぽい姿をデザインしていたが……素の自分を隠していたことに変わりはない。

「そうか……っ!」

 自分の声が震えていて、重護はびっくりする。
 重護は胸いっぱいに喜びながら考えた。なにがきっかけだったのだろう。少なくとも、悔しいことに、自分がしてあげられたことではない気がした。
 玲奈たちと知りあったことだろうか。それとも、美月の真実を知ったからだろうか。あるいは……自らの成仏を悟ったからだろうか。

「……やっぱりさ、もう少しだけ、成仏しないで一緒にいないか?」

 うじうじしているな、と、重護自身、自分が嫌になるようなことを言った。
 朔夜は少し黙り込んで、言い訳を一つ並べる。

「でも、わたしの我儘で業伎秀越の逮捕が始まっちゃったんだよ? 今更心変わりなんて許されないよ」
「なに言ってんだよ、九条さんも言っていただろ? 元々大規模検挙の準備は進めてたって。だから手の平返していいんだぞ。難しいことは大人たちに任せようぜ?」

 気楽な感じの笑顔を作って言ってみる。なんとなく玲奈をお手本にしてみた挑戦は、見事に朔夜の本心を引き出すことに成功した。

「……わたしだって、許されるならもっとこの世界にいたいよ……ッ!」

 朔夜の一歩が大股になる。重護の手を握る力がぎゅっと強まる。

「でも、それでお兄ちゃんが魔人になってほしくないんだよぉ……!」

 重護は朔夜の手を引っ張ると、よろけた朔夜を受け止めた。

「改めて、みんなと相談してみようぜ。結局わからないことだらけなんだ。誰もこのまま朔夜が居座り続けたら俺が絶対魔人化するなんて言いきれないってことは、このままでも俺はずっと魔人化しない可能性だって残ってる。だったら、せめてどっちか言いきれるようになるまで、待ってみないか? 俺だって、そっちの方が納得できるし」

 朔夜の頭を優しくなでる。重護のお腹で泣きじゃくりながら、朔夜はコクリと頷いた。

「じゃ、決まりだな! まずは親父と母さんに相談だ!」

 朔夜が泣き止むのを待って、再び山道を歩きだす。
 いよいよ、京魔高専の校門が見えてこようというところで、重護は異音を耳にした。

「……? なんだ、この音……」
「学校の方からだね?」

 妙な胸騒ぎが衝動となって、重護は駆けだす。
 それはサイレンの音だった。
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