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3.公爵令嬢はお迎えされる
学院の小玄関までわざわざ迎えに来た護衛二名と共に、街に向かって歩き出す。
これも私が学生らに気に掛けられていた理由だった。
振り返れば、今日から急に私に懐いた令嬢たちが可憐に手を振っている。
お見送りなど要らないと言ったのに、馬車が来るまで時間があるからと、全員が私に付いて小玄関まで歩いて来たのだ。
ここから馬車止めのある主玄関までは離れていて、普通の令嬢が歩くには大変だろうに。
手を振り返せば、令嬢たちの手を振る勢いが増した。
王都に来てからというもの、私はよく人を歩かせている。
「歩かせてごめんなさいね。お迎えありがとう」
いつものことながら、お礼を伝えれば。
侯爵家の護衛騎士二名からも、「仕事ですから」「騎士はよく歩いていますよ」といつもと同じ言葉が返って来た。
通りに紛れるようにして、さらに何人かの護衛が潜んでいることも私は知っている。
彼らには、改めて言葉を伝え、近いうちに全員に何かお礼を渡そうと思った。
私はどうしても馬車に乗れない。
馬車を使わない公爵令嬢がいたら、それは目立つだろう。
学生たちは、公爵の嫌がらせで私には馬車が用意されないと思っていたとのこと。
私は馬には乗れる。
だから馬に乗って駆けてしまっても良かったが。
王都は人が多く目立ち過ぎること、馬上では護衛しにくいこと、学院用として用意された制服のスカートでの騎乗が難しいことなど考慮して、私は歩くことにした。
叔父が私の王都での住まいとして、学院に最も近い侯爵家所有の邸を選んでくれていたおかげで、歩く距離が短かったこともある。
ほどなくして到着すれば、玄関で私を迎えたのは使用人だけではなかった。
「ただ今戻りました、叔父様」
この叔父は、侯爵家当主の名代としてずっと王都にいる人だ。
だから王城に最も近い邸を住まいとしていたはずなのだけれど。
「おかえり、エルリカ。今日の学院はどうだったかな?」
晴れやかな笑顔で迎えてくれたこの叔父は、私が王都に戻って来てからというもの、ずっと同じ邸で過ごしている。
私はじーっと思わせぶりに叔父を見詰めてしまった。
「どうしたの、エルリカ?学院で何かあったかい?」
「叔父様。昔話を誇張して広めましたね?」
「昔話?あぁ、あれのことだね?誇張だなんて、むしろ足りないくらいに抑えてやったさ。エルリカの悪いようにはなっていないだろう?」
悪びれず笑顔のまま言う叔父を見て、私は母を思い出していた。
「おかげさまで皆さまからはとてもお優しくしていただきました」
「それは良かった。けれどもし、学院であれと似たようなあれがいたら、すぐに私に言うのだよ?」
叔父は元から優しい人だ。幼い私にもとても良くしてくれていたことは覚えている。
それが母を亡くしてから、過剰に変わった。
それだけ叔父は、姉である母を慕ってきたのだ。
仕事として王都での名代の役目を選んだことも、公爵夫人として王都に長く滞在することに決まった母を追いかけてのことだったということは、伯父の妻である侯爵夫人が教えてくれていた。
『義弟はデリカ様のことが好き過ぎるのよ。今もずっとね』
おそらく母の実家である侯爵家で、公爵を最も敵視して憎んでいる人は、叔父であろう。
祖父母も伯父夫婦も、そして私も、ただの事故として受け入れ、もうあれこれを過去にしつつあるけれど、きっと叔父は違う。
叔父の言葉からは、今でも公爵の失脚を狙っているように感じられるときがあった。
たとえばそれは、今回の学生たちが囁いていた噂のように。
貴族社会を支える次代の若者たちが、現公爵に悪い印象を持ってしまった。
それが今後どのように影響していくだろうか。
そのうえ噂は……。
私は思い出して叔父に言う。
「第三王子殿下まで噂をご存知でした。王族を巻き込んで大変なことにはなりませんか?」
お茶に誘われ、先に着替えてくると伝えれば、叔父は部屋までエスコートしてくれると言う。
暇なのかと思うが、叔父の侍従らの顔付きが明るくないことを見れば、叔父がただ何より私を優先しているのだと理解した。
お茶は断れないだろうから、なんとか早く切り上げようと決めて、視線を送れば。
侍従らが、ほっとした顔をして、頭を下げてくる。
私が来てから迷惑ばかり掛けて申し訳ない。
それもこれも、公爵がさっさと私の除籍手続きをしなかったから──。
「第三王子に絡まれたのだね?私から王家に強く抗議しておこう」
「叔父様、さすがにそれはどうかと思います」
「おや?どうしてだい、エルリカ?」
「王族ですよ?あれならば、まだ分かりますが」
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「大丈夫。弱みを沢山握っているからね」
「恐ろしいことを仰らないでください。王子殿下にはお声を掛けられただけですから、何もしないでくださいね?いいですか?」
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