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64.幸せを味わう
「焼きたてのパンの香りが幸せなのよ」
すーっと息を吸い込んで朝から幸せそうに笑うソフィアを見詰め、アシェルも笑みを零した。
「この蜂蜜の清々しい香りも格別なのよ」
蜂蜜の入った瓶の蓋を開けて、また幸せそうに笑っているソフィアを見ては、アシェルもその笑みを深める。
「ん~、今日のパンにも合わないわ。パンには難しいかしらね?」
むぅっと口を尖らせるソフィアに、いよいよアシェルはくすくすと笑い出していた。
「紅茶だとこんなに美味しいのにね」
ひと匙の蜂蜜を足した紅茶の独特な清涼感を味わって、アシェルは今朝も幸せを噛み締める。
──これも幸せなことだよね。
かつて香草の研究をしていたウォーラー一族の者がいた。
おかげでウォーラー侯爵領には広大な香草畑と研究所が残り、今ではウォーラー一族の出自でない者たちがその研究を引き継いでいる。また香草の生産は、ウォーラー侯爵領の事業のひとつとして今も続き、領地を潤わせていた。
アシェルたちは、その研究所と協力して、香草畑の真ん中に養蜂箱を置いてみたのだ。
すると今までにない香りのする蜂蜜が採取され、これにはアシェルたちだけでなく、香草の研究所の職員たちも興味を持って、あれこれと調べている最中である。
その食し方も研究の一環として。
アシェルたちはこの王都の旅に、せっかくだからと不思議な香りのする蜂蜜を持ち込んでいた。
──過去の研究と繋がれることも幸せだし。俺も未来に何かを残せるなんてね。あの頃は考えたこともなかった。
アシェルたちがこの世を去ったあと、少なくとも養蜂は事業として続いていくことだろう。
ウォーラー一族の研究は、期間を空けて引き継がれることはよくあるので、すぐに研究を引き継ぐ者が現れずとも遠い未来で誰かが自分たちの論文を読み漁っているかもしれない。
家を出て自立して生きていく。
それしか考えられない世界にいたアシェルを、ソフィアは見つけ出して、手を引いて、新しい世界へと連れ出してくれた。
それから得てきた幸福の量はもう計り知れない。
──だけどあの頃の俺も、意外と幸せだった。
先日から自分の幸せについてよく考えるようになったアシェルは、温かいパンを手にして、改めて先日のパーティーを思い出す。
あの日、謝らなければならないのは自分たちだと思っていたアシェルは、逆に貴族たちから謝罪を受けることになった。
「アシェル様。ごめんなさい。わたくし、そんなつもりはなくて」
「本当に申し訳ない。まさかこういうことだったとは」
真っ先にアシェルに謝罪をしたのは、イーガン子爵家の二人が現れてからというもの、顔色が酷く悪かったガウス男爵夫妻である。
どうやら他のパーティーでイーガン子爵夫人から声を掛けられ、そこでアシェルと会う予定があることを伝えてしまったという。
イーガン子爵夫人がいつどこで息子に会うのかと仔細尋ねてきたことには不自然さを感じたものの、アシェルの母親なのだから隠すことではないと思い、気楽に伝えてしまったということだった。
悪気がなかったことは分かっていたので、アシェルも素直に謝罪を受け入れ、むしろ元家族の問題行動と、受け入れると勝手に決めてこの場を騒がせてしまったことを、改めてソフィアと共に謝罪したのだが。
そこから参加者全員からのアシェルへの謝罪が始まった。
すーっと息を吸い込んで朝から幸せそうに笑うソフィアを見詰め、アシェルも笑みを零した。
「この蜂蜜の清々しい香りも格別なのよ」
蜂蜜の入った瓶の蓋を開けて、また幸せそうに笑っているソフィアを見ては、アシェルもその笑みを深める。
「ん~、今日のパンにも合わないわ。パンには難しいかしらね?」
むぅっと口を尖らせるソフィアに、いよいよアシェルはくすくすと笑い出していた。
「紅茶だとこんなに美味しいのにね」
ひと匙の蜂蜜を足した紅茶の独特な清涼感を味わって、アシェルは今朝も幸せを噛み締める。
──これも幸せなことだよね。
かつて香草の研究をしていたウォーラー一族の者がいた。
おかげでウォーラー侯爵領には広大な香草畑と研究所が残り、今ではウォーラー一族の出自でない者たちがその研究を引き継いでいる。また香草の生産は、ウォーラー侯爵領の事業のひとつとして今も続き、領地を潤わせていた。
アシェルたちは、その研究所と協力して、香草畑の真ん中に養蜂箱を置いてみたのだ。
すると今までにない香りのする蜂蜜が採取され、これにはアシェルたちだけでなく、香草の研究所の職員たちも興味を持って、あれこれと調べている最中である。
その食し方も研究の一環として。
アシェルたちはこの王都の旅に、せっかくだからと不思議な香りのする蜂蜜を持ち込んでいた。
──過去の研究と繋がれることも幸せだし。俺も未来に何かを残せるなんてね。あの頃は考えたこともなかった。
アシェルたちがこの世を去ったあと、少なくとも養蜂は事業として続いていくことだろう。
ウォーラー一族の研究は、期間を空けて引き継がれることはよくあるので、すぐに研究を引き継ぐ者が現れずとも遠い未来で誰かが自分たちの論文を読み漁っているかもしれない。
家を出て自立して生きていく。
それしか考えられない世界にいたアシェルを、ソフィアは見つけ出して、手を引いて、新しい世界へと連れ出してくれた。
それから得てきた幸福の量はもう計り知れない。
──だけどあの頃の俺も、意外と幸せだった。
先日から自分の幸せについてよく考えるようになったアシェルは、温かいパンを手にして、改めて先日のパーティーを思い出す。
あの日、謝らなければならないのは自分たちだと思っていたアシェルは、逆に貴族たちから謝罪を受けることになった。
「アシェル様。ごめんなさい。わたくし、そんなつもりはなくて」
「本当に申し訳ない。まさかこういうことだったとは」
真っ先にアシェルに謝罪をしたのは、イーガン子爵家の二人が現れてからというもの、顔色が酷く悪かったガウス男爵夫妻である。
どうやら他のパーティーでイーガン子爵夫人から声を掛けられ、そこでアシェルと会う予定があることを伝えてしまったという。
イーガン子爵夫人がいつどこで息子に会うのかと仔細尋ねてきたことには不自然さを感じたものの、アシェルの母親なのだから隠すことではないと思い、気楽に伝えてしまったということだった。
悪気がなかったことは分かっていたので、アシェルも素直に謝罪を受け入れ、むしろ元家族の問題行動と、受け入れると勝手に決めてこの場を騒がせてしまったことを、改めてソフィアと共に謝罪したのだが。
そこから参加者全員からのアシェルへの謝罪が始まった。
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