【完結】親がいなくても、私が私を幸せにするので大丈夫です。どうぞ、私のことはおかまいなく。

春風由実

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11.はじめての祈り

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 知らない人が町に来ることなんて、少ないとはいえ驚くようなことではない。
 問題はその見慣れない服装だった。

 小さい頃に何度も読んだ(読まされた?)、この世界の神さまについて描かれた絵本がある。
 その絵本には、途中から神さまの使いを任命された人間が出て来るのだけれど。

 描かれていたその人が着ていた衣装にそっくりな真っ白い服を着た男性が、通りをこちらに向かって来ていた。

「まさかな?」
「まさかね?」

 アレクも私と同じようにあの絵本を思い出して、遠くに見える男性が何者かという想像をしてしまったのだろう。
 それが正しくない想像だったと笑い飛ばしたくて、目を合わせて肩を竦め合う。

 さっきは驚いてしまったけれど。
 少しずつ冷静になってきた。

 そうよ、まさかよ。
 だいたいあの絵本のような服を着ているとは限らないし。
 もしかしてコスプレかも?この世界にそんな文化があるかは知らないけれど。

 え?近付いてきたよ。
 え?明らかにこちらを見ていない?
 え?え?え?

 思わずアレクの袖を摘まんで引いた。

 アレク、知り合い?いや、知らん。リリアの知り合い……なわけねぇよな。なんだ?商会の関係者か?あんな服で?そもそもまだ商会が来る時期じゃねぇな。何かのイベントがあるとか?いべんとってなんだ?あー、うん、隣町で特別な服を着て参加するお祭りでもあるのかなって?そんな祭りは聞いたことねぇし、祭りの時期はどこも一緒だろうよ。えー、じゃあ俳優さん?劇場のないこの町でか?どこかの劇場に行く途中で立ち寄ったんじゃない?衣装を着て移動するか?プロ意識じゃないの?は?ぷろ、なんだって?

 まったく冷静になれていなかった。
 気が動転した私の口はやたらと滑ることが判明した。
 アレクも同じようだったのは救いだ。
 私のおかしい言葉を、追及するように聞いてくることはなかったから。

 小声で会話を続けていたら、いよいよ見慣れぬ衣装を着た男性は私たちのすぐ側に迫っていた。

「失礼。この街の神殿はどちらだろうか?」

 はい?話し掛けてきたよ?
 思わずアレクを見詰める。

 この人は違うんじゃないかな?
 聞いていた話とは違うもの。

「あ、あぁ。それならこの通りを真直ぐに進んで──」

 どきどきした。
 道を聞かれただけだった。

 いつもの私たちなら、目的地まで一緒に歩いて案内していたところだ。
 だけど私もアレクも動こうとはしなかった。いや、この場から動けなかったのだ。

 まさか……まさかだよね、アレク?

 だって私たち庶民に話し掛けて来たんだから。
 きっと……違うよね?
 そうよ、違うわ。
 だけどこの町庶民しかいないから、道を聞く相手も庶民に限られ……。

 うぅん、きっと大丈夫。そんなわけないもの。

 あれ、でも、あの人、神殿に行くって言ってなかった?
 ……聞き間違いだったかな?

 聞き間違いじゃない?
 確かに神殿の場所を聞かれた?
 
 そうだね、アレクもこの町の神殿に案内していたね。
 でもあの人が行きたい神殿って、二つ隣町にあるとかいう立派な神殿だったんじゃない?

 だってこの町の神殿だもの。
 あの小さな神殿だよ?
 そこに行ってどうなるって言うの?
 いつも誰もいないし。
 町の人たちが掃除だけはしているけれど。
 誰もそこで祈ることもしないんだよ?
 お祭りの日だって、形式的に祭壇に食べ物が並ぶだけ。

 きっと町を間違えたのよ。

 そうよ、そうよ。


 お願い、間違いであって。
 どうか神さま、私たちがちょっと勘違いしただけの笑い話に出来ますように。
 明日には今日見たあの人がこの町からいなくなっていますように。
 この町の人たちが、優しいままに、いつまでも幸せに暮らせますように。

 その日の夜、私ははじめてこの世界の神さまに、心から祈った。


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