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31.言い訳
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「私は何も知らなかったのでございます!」
侯爵だという男は主張する。
知らなかったって、もしかして私の存在まで知らなかったとでも言う気だろうか?
それとも何?自分の愛人もその子どもたちも知らないって?
その主張は通らないだろう。
部屋のあちこちから呆れた空気が流れて来る。
「私はただ、そ、そこの子どもの意思を尊重し、女神さまの教えのもと、望んだ通りに好きにさせていただけで。そ、その子が家を出たいと申しましたので」
「必要な教育も終えぬまま、外に放り出したとでも言うのか?」
「教育は終えていました!だから子どもの望むまま、好きなことをさせてやっていたのです!」
室内の空気が冷えていく。
それは感情的なものからくる想像ではなく、物理的にだ。
いや、怖いんだけど。
なんで急にこんなに寒くなるの?
思わず両手を前でクロスして、二の腕を擦っていた。
そろそろ吐く息も白くなりそう。
「発言しても?」
その声は神官さまとは反対の近いところから聞こえた。
若い男性の声だ。
「えぇ、しかし……」
「試すためだ。すまないが、皆も少し耐えてくれ。侯爵よ、お前は確か、火を扱う魔力に長けていたな?」
私はここで、この部屋に魔力持ちしかいないのだと分かった。
そりゃそうだよね、さっきから堂々と魔力の話をしていたんだから。
え、じゃあ、この寒いのも魔力なの?
え、じゃあ、アイスやかき氷も作って食べられるんじゃ?
私はこんな場所なのに、前世でチョコアイスが大好物だったことを思い出していた。
冷蔵庫もない世界では無理だろうとはじめから諦めていて、これまですっかり忘れていたというのに。
思い出してしまうと、この世界にチョコレートはあるのだろうかと気になって来る。
「はっ。殿下。違うのです。これは何かの間違いでして。すべて誤解で」
「言い訳は不要。私が聞いたことにだけ答えろ。得意とするのは、火の魔力だったな?」
「殿下、ですから違うのです」
「答えろと言っている」
「ひっ。はい、左様でございます」
ふっという小さく吐かれた息は、左右から同時に聴いた。
どちらを見るのも怖かったので、チョコアイスへの希望を一旦脇に置いた私は、とりあえず前だけ向いておく。
おっさんの悪かった顔色は真っ白になっていた。
終わったなぁ。
「ならば今ここで火を出して、部屋を暖めてくれないか?すまないが、どうも先から気が高ぶり、魔力が抑えられなくてな?」
「そ、そのような危ないことは出来かね──「私がいいと言っている」──しかしここは神殿ですし、たとえ殿下の願いと言えど──」
「我が国にある神殿だ。問題ないな、神官殿方?」
「構わない。あり得ないと願うが、そこの男がその年齢でまだ魔力の扱いに自信がないというなら、暴発する前にこちらで封じることも約束しよう」
「まさか侯爵ともあろう者が魔力を上手く扱えぬなどということはあるまいが。協力に感謝する」
私を挟んで左右で話すのはやめて欲しい。
もう私はそれどころではないのだから。
聴こえた言葉をなんとか聞かなかったことに出来ないかという思案に私は忙しかった。
デンカっていうあれは聞き間違い。
隣の神官さまがそのデンカに敬語を使わなかったことも聞き間違い。
すべて聞き間違いで済ませようというのは、あまりに安直な方法だと我ながら思うけれど……。
だめだ、他ににいい考えが浮かんでこない。
気を取り直して、私はおっさんを眺めた。
おっさんは顔を上げたくないようで、俯いたまま震えている。
「どうした、侯爵よ?早くしてくれないと、皆が凍えてしまうぞ?」
私は思うんだ。
あえて部屋を冷やす必要なんてなかったのではないかと。
おっさんに火を出させるだけで良かったですよね?
それにおっさんに「その年齢で~」とか「侯爵ともあろう者が~」と言っちゃってるのに、お隣のお兄さんは魔力を制御出来なくていいの?って私でも思うところだ。
そうか、やっぱりデンカはあれのことじゃなくて。
きっと私が何か聞き間違えたんですよね?
しかし勿体ないなぁ。
こんなことなら、この場にアイスの材料を持ってきたのに。
なんて魔力の無駄遣いなのか。
あぁ、もう、ごめんなさい。
変なことを考えてごめんなさい。
本当に寒いので早く止めていただけます?
出来もしないことは分かっているのに、早くしろよという想いを込めて、私は目を細めるようにしておっさんを睨んでしまった。
たまたま顔を上げたおっさんと目が合って「ひっ」と悲鳴を漏らされる。
だからなんで私に怯えているのよ、おっさんは。
物心ついてから会っていないんだから、私の顔も知らなかったでしょう?
侯爵だという男は主張する。
知らなかったって、もしかして私の存在まで知らなかったとでも言う気だろうか?
それとも何?自分の愛人もその子どもたちも知らないって?
その主張は通らないだろう。
部屋のあちこちから呆れた空気が流れて来る。
「私はただ、そ、そこの子どもの意思を尊重し、女神さまの教えのもと、望んだ通りに好きにさせていただけで。そ、その子が家を出たいと申しましたので」
「必要な教育も終えぬまま、外に放り出したとでも言うのか?」
「教育は終えていました!だから子どもの望むまま、好きなことをさせてやっていたのです!」
室内の空気が冷えていく。
それは感情的なものからくる想像ではなく、物理的にだ。
いや、怖いんだけど。
なんで急にこんなに寒くなるの?
思わず両手を前でクロスして、二の腕を擦っていた。
そろそろ吐く息も白くなりそう。
「発言しても?」
その声は神官さまとは反対の近いところから聞こえた。
若い男性の声だ。
「えぇ、しかし……」
「試すためだ。すまないが、皆も少し耐えてくれ。侯爵よ、お前は確か、火を扱う魔力に長けていたな?」
私はここで、この部屋に魔力持ちしかいないのだと分かった。
そりゃそうだよね、さっきから堂々と魔力の話をしていたんだから。
え、じゃあ、この寒いのも魔力なの?
え、じゃあ、アイスやかき氷も作って食べられるんじゃ?
私はこんな場所なのに、前世でチョコアイスが大好物だったことを思い出していた。
冷蔵庫もない世界では無理だろうとはじめから諦めていて、これまですっかり忘れていたというのに。
思い出してしまうと、この世界にチョコレートはあるのだろうかと気になって来る。
「はっ。殿下。違うのです。これは何かの間違いでして。すべて誤解で」
「言い訳は不要。私が聞いたことにだけ答えろ。得意とするのは、火の魔力だったな?」
「殿下、ですから違うのです」
「答えろと言っている」
「ひっ。はい、左様でございます」
ふっという小さく吐かれた息は、左右から同時に聴いた。
どちらを見るのも怖かったので、チョコアイスへの希望を一旦脇に置いた私は、とりあえず前だけ向いておく。
おっさんの悪かった顔色は真っ白になっていた。
終わったなぁ。
「ならば今ここで火を出して、部屋を暖めてくれないか?すまないが、どうも先から気が高ぶり、魔力が抑えられなくてな?」
「そ、そのような危ないことは出来かね──「私がいいと言っている」──しかしここは神殿ですし、たとえ殿下の願いと言えど──」
「我が国にある神殿だ。問題ないな、神官殿方?」
「構わない。あり得ないと願うが、そこの男がその年齢でまだ魔力の扱いに自信がないというなら、暴発する前にこちらで封じることも約束しよう」
「まさか侯爵ともあろう者が魔力を上手く扱えぬなどということはあるまいが。協力に感謝する」
私を挟んで左右で話すのはやめて欲しい。
もう私はそれどころではないのだから。
聴こえた言葉をなんとか聞かなかったことに出来ないかという思案に私は忙しかった。
デンカっていうあれは聞き間違い。
隣の神官さまがそのデンカに敬語を使わなかったことも聞き間違い。
すべて聞き間違いで済ませようというのは、あまりに安直な方法だと我ながら思うけれど……。
だめだ、他ににいい考えが浮かんでこない。
気を取り直して、私はおっさんを眺めた。
おっさんは顔を上げたくないようで、俯いたまま震えている。
「どうした、侯爵よ?早くしてくれないと、皆が凍えてしまうぞ?」
私は思うんだ。
あえて部屋を冷やす必要なんてなかったのではないかと。
おっさんに火を出させるだけで良かったですよね?
それにおっさんに「その年齢で~」とか「侯爵ともあろう者が~」と言っちゃってるのに、お隣のお兄さんは魔力を制御出来なくていいの?って私でも思うところだ。
そうか、やっぱりデンカはあれのことじゃなくて。
きっと私が何か聞き間違えたんですよね?
しかし勿体ないなぁ。
こんなことなら、この場にアイスの材料を持ってきたのに。
なんて魔力の無駄遣いなのか。
あぁ、もう、ごめんなさい。
変なことを考えてごめんなさい。
本当に寒いので早く止めていただけます?
出来もしないことは分かっているのに、早くしろよという想いを込めて、私は目を細めるようにしておっさんを睨んでしまった。
たまたま顔を上げたおっさんと目が合って「ひっ」と悲鳴を漏らされる。
だからなんで私に怯えているのよ、おっさんは。
物心ついてから会っていないんだから、私の顔も知らなかったでしょう?
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