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66.成長
しおりを挟む答えに詰まっていたら、アレクが先に話した。
「やっぱりな。今日は挨拶回りか?」
「どうして……」
アレクの笑顔がずっと知らない人に見えていた。
何故そんな顔を見せるの?
「どうしてもこうしても。皆が言っていることだぞ」
「皆がって?皆は私が出て行くと言っているの?」
「そうだ。俺は馬鹿だからリリアが町を出たときにはまだ分かっていなかったけどさ。皆はすぐに分かっていたらしいぞ。リリアはいいところのお嬢さんだったんだろう?」
アレクが鼻の頭を指で擦った。
照れているときや、自分を卑下するときに、よくしていた仕草を見られただけで、ほっとする。
顔付きが違っても、彼は知っているアレクだ。
「いつ行くんだ?俺も一緒に出るから、予定は教えておいてくれよ」
「へ?」
「リリアにひとつお願いがあるんだが。いいところのお嬢さんだったなら、親御さんに俺に仕事をくれるよう頼んでくれないか?」
どういうこと?
仕事をくれって何?
肉屋はどうするの?
「……おじさんたちはいる?」
「実は寝込んでいてさ。ちょっとやり合ったんだ」
思わず息を呑んだとき、ひゅっと喉から嫌な音が漏れていた。
私のせいで何かが起きている?
マリー先生は何も言っていなかったのに?
「……アレクはおじさんと喧嘩をしたの?」
「俺の相手は別の奴だよ。馬鹿だよなぁ。孤児の俺なんか庇ってくれてさ。だから俺も……この町を早めに出た方がいいなって考えていて。リリアが行くならいい機会だろ?一緒に行くよ」
「おじさんはどんな状態なの?怪我をしているの?」
「あぁ。年甲斐もなく暴れたから、腰を痛めちまっただけだ。おばさんが世話している」
「それで……」
店の中を見た。
今日はいつも天井から吊るされていた肉の塊がない。
「休業中ってわけでもないんだ。ただ仕入れの数を減らしていてな。前々から注文のある配達分だけは俺が届けているんだ。だから、悪いけど今日は孤児院の分は渡せないぞ」
「そんなことはいいの。それより──」
「そういうことだからさ」
アレクが私の言葉を遮って話し出す。
いつも気長に待って誰よりも私の話を聞いてくれていたアレクだったのに。
「町を出るのはあと数日待ってくれないか?腰も大分良くなってきたところで、あと少しで店に出られそうだって言ってるから」
「どうして暴れるようなことになったのか聞いていい?」
聞くのは恐ろしかったけれど。
ちゃんと聞かないと駄目だと思った。
そして私は……アレクを連れてはいけないから。
知らなければ説得も出来ない。
「嫌な気分になるぞ?」
「隠される方が嫌。教えて」
「リリアならそう言うと思った。あぁ、もうリリア様って言わないと駄目か?」
へにゃりと力なく笑うその顔は、やっぱり知らない人のようで。
「……そう言うのはいいから。教えて?」
私はあえて取り合わなかった。
このとき考えていたわけではなかったけれど、それはきっと、すぐ先を見据えてのことだったんだと思う。
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