【完結】親がいなくても、私が私を幸せにするので大丈夫です。どうぞ、私のことはおかまいなく。

春風由実

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73.真直ぐに

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 アレクを見る。
 その視線は一度も揺らぐことなく、ヴァイスさんへと真直ぐに向けられていた。

「自分が恵まれていることは分かっています。ここで働きたいと願った奴は他にもいました。それでも俺にとって、一番はリリアなんです」

 うわぁ。なんでここで私が出て来ちゃうの。

「軽々しく決めたことではありません。これは成人する前から決めていたことで、親父たち……肉屋の二人にも最初から話してあります。それでも俺がいいと言ってくれたんで、だからここで働くことを決められました」

 はい?え?なに?
 辞める可能性を話して、それでもおじさんたちはアレクを受け入れたってこと?

 そんな話、今はじめて聞いたんだけど。

「お世話になった方々に恩を返そうという意思もないのですか?」

「それは当然、恩を返すつもりで働いてきました。リリアが成人したときにどんな選択をするか分からなかったので、それまでに出来る限りのことはしたいと思っていて」

「それなのにあなたは今すぐにここを去ろうとしていますね?」

「それはリリアが一番というのもあります。でももう早く俺がいなくなる方が、二人も幸せだと分かったんで」

「孤児に対する偏見のせいですね?それについては先ほどお話しした通り、私たちが必ず変えていきましょう。あなたがいない方がいいなんて、誰も言わない町にしてみせますよ。このようにお約束しても、アレクさんの意思は変わりませんか?」

「変わりません。俺はリリアと町を出ます」

「最初から話していたとはいえ、この肉屋の方々は悲しむのでは?」

 アレクがまた鼻の頭を指で擦った。

「二人はずっと応援してくれていたんで。予定が変わってすぐに出て行くことになりそうだって話をしても、背中を叩いてくれましたし」

「それはこの町の皆さまの考え方が変わってから判断しても遅くはないのではありませんか?今はお二人も周囲からの孤児に対する理不尽な想いに触れて、アレクさんは町を出た方が幸せになれるのではないかとお考えになり、あなたの気持ちを全面的に応援しているだけかもしれませんよ?」

「この町が変わっても、そこは変わらないと分かります。それに町が変わるなら、かえって俺は早く出て行った方がいい気もしていますね」

「それはどうして?」

「まず俺は働き出したのがこの春からなんで。店は俺がいないと困るような状況にはなっていない。まだ恩を返せるほどの仕事を覚えられていないままなのは悔しいですが、俺がいなくたって二人は平気です。それでこの町が変わるなら、親父たちは何の心配もなく次を受け入れられるってわけです」

「他の方を受け入れるご予定があるのですか?」

「俺には、下の弟分、妹分が沢山いますからね。うちの店で手伝いをしている子たちもいるんで、見込みのありそうな子を親父たちは選ぶでしょう。だから神官さまのおかげで、俺は安心して町を出られます」

 アレクが言いたいことは、私にもよく分かった。
 下の子たちのことを考えたときに、町が変わる確約は私たちにとってここを去る後押しとなる強い希望だ。

「リリアも安心してくれよな。親父たち、前からもう一人や二人は雇ってやれるからなって言ってくれていたんだ。リリアが望むなら、リリアもいいなとも言ってくれていてさ」

「そうだったの!」

「あぁ、でもな。リリアは料理屋をしたいんじゃないかとも気付いていて。それならしばらくはうちで働いて資金を溜めて、それから二人で一緒に独立したっていいんだぞって話してくれていて。それも大事な店の元従業員ともなれば、開店資金の援助もしてやるし、肉も特別割引で安く卸してやるぞってさ。そのかわり長く御贔屓にしてくれよってしつこく言っていたんだ。俺だけに言うなよって話だけどな?リリアの店なら繁盛するだろうから、薄利でも末永く大儲けだって、これで老後も安泰だってよく笑ってたんだ」

「そんな。そこまで考えてくれていたなんて……ん、二人で?」

「あ……はは、まぁ、そういうことだ」

 ひぇ。
 前世も含めて慣れていないことに、また顔が熱くなった。

 アレクがおじさんたちとそんな話をしていたなんて。

 ちょっと待って欲しい。
 これから二人にも挨拶予定なのに、どんな顔をして会えばいいの。

 ひゃあ、もう恥ずかしくて土に埋まりたい。

「あのさ、リリア。俺はずっとこうだったけど、リリアが俺をそういう風に見たことがないのは分かってるからさ」

 わぁ。ちょっと今はもう一杯だよ。
 これ以上は恥ずかしくて無理だってば。



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