【完結】親がいなくても、私が私を幸せにするので大丈夫です。どうぞ、私のことはおかまいなく。

春風由実

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番外編 神は哂う

4.取り返せない悪意

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 私が真実と共にあの子の本心を知れたのは、遺品を引き取ってからになる。

 その日記帳は、服の間に挟まれた形で見付かった。

 どうしてこんなところに?
 すべてはそれからはじまったのだ。

 あの子は私がいつか伝えた『日記が証拠になる』という話を覚えていてくれたのだろう。
 その想像だけで私は泣いた。
 一文読んでまた泣いて、読み続けて号泣である。

 泣いて、泣いて、泣き続けた私は、当たり前に決意した。
 

 やられた以上に、やり返す。



 まずはあの女に会いに行った。

 娘が亡くなったのでお世話になった方々に挨拶をして回っていると伝えれば、あの女はひとつも疑うことなくのこのこと私に会いに来た。
 それはもう、心から嬉しそうな顔をしてだ。

『可哀想にねぇ。父親もいない子だったのに、母親にも愛されなくて。せめて長生きして幸せになって欲しかったわ』

 まったくそうは思っていない顔をして女は言った。
 笑う口元をハンカチで隠し、なんとか眉だけは下げようと頑張っていたようだが、あれほどに無駄な努力はない。


 私がそこで事実を知ったと淡々と伝えてやれば。

 女はもう隠す理由はないとばかりに豹変し、嫌らしい笑い声を上げていた。

『あんたがあんないい暮らしをしているから悪いんだわ。何もかもあんたのせいよ』

 地方のマンション暮らしが、それほどにいい暮らしに見えることがあろうとは、私は知らなかった。

 普通のよくあるファミリー向けのマンションで、子どもが出来たと分かった時点で購入していたものだったから、あの当時すでに築年数も浅くなく、私にとっては私たちが二人で住むには相応の住居という認識だったのだ。
 それも子ども一人で留守番をさせる前提があったから、一軒家ではなく、オートロック付きのマンションを選んだだけ。

 それをあの女は羨んでいたと言う。
 共に教師の夫がいて普通に暮らせばお金に困ることはなかろうし、三人の子どももいて、何が羨ましかったのか。

『結婚も出来なかったくせに。認知もして貰えなかったくせに。偉そうに。何が弁護士の先生よ』

 あの女は私の経歴も気に入らなかったと言う。

『あんたのことが大っ嫌いだったわ。他のお母さんたちは、先生、先生って、みんな尊敬してくれるのに。あんただけよ。私の方が頭がいいのよって顔をして、いつも偉そうにしていたのは。一人親だから特別に扱えですって?そんなのあんたのせいでしょうに。どうして私が何かしなきゃいけないのよ』

 同じく先生と呼ばれる職業が許せなかったのか。
 こちらが忙しくて先生として慕えるほどに付き合いのなかったことが受け入れられなかったのか。
 偉そうにした覚えはないが、そう見えてしまったというなら残念ではあるし、これまでの先生が協力的だったからという甘えが私の方にもあって態度に出ていたのかもしれない。

 理由はなんであれ、事実あの女は私を嫌い、そして私の娘を嫌った。

『あの子も気持ちが悪かったわね。父親を知らないくせに寂しそうにもしないで』

『あはは。だけどお母さんがいなくて寂しいとも言われないなんて。あんたも可哀想な女ね。たった一人の産んだ娘にもあんたは愛されなかったのよ』

 目的を忘れなければ、どんな怒りにも耐えられるものだと私はこの日知ることになった。

『独身のくせに、学校の先生よりいいマンションで暮らしているなんて。あり得ないじゃない?あの子もそうよ。だから──父親に認知もされていない娘に相応しい場所へと移してあげようと思ったのよ』

『あんなに上手くいくと思わなかったわ。あはは。あの娘が強情だったのも悪いのよ。一言、寂しいって甘えてくれていたら。私だってあそこまでしなかったわね』

 ぺらぺらと女は自分の悪事を暴露した。
 もう亡くなったから、すべて終わったことだと信じたのだろう。

 私が生きているというのに。


 ある日あの女は血相を変えて私の元に飛んで来た。

『待って、待って。何よこれ。裁判ってどういうこと』

『学校と役所も訴えるって、あんたばかなの?は?施設も訴える?何よそれ』


 裁判中もあの女の情緒は安定しなかった。

『どうしてこんなもの。なんで捨てなかったのよ。そんな気味の悪いもの。あんな不気味な子の残したものよ。呪われているに決まっているわ!捨てておきなさいよ!』

『違うんです!あの子は嘘吐きで!日記だって嘘まみれで!だから、だから私は本当のことを代わりに言ってあげたんです!』

『やめてよ!盗聴じゃない!消して、消しなさいよ!いや、流さないで!』



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