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17.おかげさまで本当の家族を得ましたわ キーラ編
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ご機嫌よう、皆さま。
私キーラは、本日よりまたキーラ・ウェーバーを名乗ることになりましたわ。
どうぞ良しなにお付き合いくださいませね。
と言っても、養子先からはお名前をお借りしただけで、私は一度も家を出なかったから、あまり名前がどうこうという感慨深さはありませんわね。
本当に結婚したのかしら?という感じよ。
けれど今夜からは過ごすお部屋も変わるから、いよいよ変化を感じるのではないかしらと思っているわ。
戻って来たら、ローレンスお義兄さまと一緒に別館の次期当主夫妻用のお部屋へと移動することになっているの。
それとも今日の予定を執り行ううち、私にも結婚したという意識が芽生えているかしら。
すでに朝一番に婚姻の届け出は提出済みで、これから教会で私たちの結婚を祝福して頂く予定よ。
それからは親族だけで披露宴を行うことになっているわ。
領地での領民たちへのお披露目は、別日程ね。一月後だから、まだゆっくり出来そうよ。
私はお部屋を見渡した。
侍女たちにお願いして、しばらく一人で過ごせるようにして貰ったの。
もう帰って来たら違うお部屋だと思うと、沢山の思い出が溢れてくるわね。
お義父さま、お義母さまが、引き取ってくださってから今日まで。
私はいつも幸せに守られてきたことを改めて実感するわ。
いつもそこに大好きなローレンスお義兄さまがいて──。
私は目を閉じて、ひとときは思い出していたわ。
かつてのエンデベルク子爵家のことよ。
◇◆◇
相変わらず私に生家の記憶はないから、あの日が最初で最後のエンデベルク子爵家の皆さまとの思い出になっているわ。
でももうそのエンデベルク子爵家はないの。
私が結婚のため二度目の養子縁組をした直後だったわ。
降爵処分を受けて、あの子爵家はエンデベルク男爵家に変わってしまった。
同時に王家主導で代替わりもなされて、あの少年が男爵家の当主となったそうよ。
それは大丈夫かしらと、私も聞いてすぐには心配してしまったわね。
けれどそれは杞憂で終わったわ。
あの少年が成人するまでは、王家が後見として領地を管理することになっているそう。
そして彼が成人しても、立派に当主が務められると王家がその実力を認めるまでは、王家の管理が継続されることも決まっているそうよ。
だから今は、あの少年が立派になられるよう祈るばかりね。
それからあの三人の令嬢たち。
彼女たちも無事に結婚されたと聞いたわ。
どの方も貴族ではない家に嫁がれたそうだから、もうお会いする日も来ないでしょう。
おかげさまで次代に対する心配ごとも各段に減ったところね。
皆さまどうぞお幸せにと、心より祈っておくわ。
隠居した先代当主夫妻。
お二人に関しては、領地の田舎に引っ越されたということしか知らないのよね。
生家と言っても、もう他家のことですもの。
それほど詳しく知る機会はないわ。
それでもお義父さまも、お義母さまも、それにローレンスお義兄さまも、すべてご存知なのでしょうね。
いつまでも守られていたら、私だけ家族でないみたいで嫌だわ。
立派な侯爵夫人になりたいから、私にも知らせてくださるよう、またお願いしてみましょう。
だって今日からは──。
◇◆◇
扉が叩かれ、キーラの目がゆっくりと開かれた。
窓からの明るい日差しが、扉から入って来たよく知る人をはっきりと照らしてくれる。
「まぁ、お義兄さま。とても素敵な装いね。お迎え嬉しくてよ」
「私はまだキーラのお義兄さまかい?」
ふふ。わざとではないのよ。
どうしても自然と出て来てしまうの。
だってもう何年も、あの日からずっとそう呼んで来たのだから。
まだ『にぃ』としか言えなかった日。『おにいたま』と呼べて嬉しかった日。『おにいさま』とはじめて美しく言えた日。
全部覚えているわ。
本当にありがとう。ローレンス。
ずっと側にいて、愛してくれて。
私も心からあなたを愛しているわ。
ずっと前からよ?
そっと手が取られ、手袋越しの指先がローレンスの口元に長く置かれた。
そんなに優しく触れられたら。
もうお義兄さまとはとても呼べないわね。
心の中で最後にもう一度だけ、感謝を伝えることにいたしましょう。
これからは二度と思い出すこともないように。
あなたたちのおかげで、私は今日無事に結婚し、義理ではない家族が出来ましたわ。
とことんご縁はございませんでしたけれど。
皆さま、どうぞご機嫌よう!
【完】
私キーラは、本日よりまたキーラ・ウェーバーを名乗ることになりましたわ。
どうぞ良しなにお付き合いくださいませね。
と言っても、養子先からはお名前をお借りしただけで、私は一度も家を出なかったから、あまり名前がどうこうという感慨深さはありませんわね。
本当に結婚したのかしら?という感じよ。
けれど今夜からは過ごすお部屋も変わるから、いよいよ変化を感じるのではないかしらと思っているわ。
戻って来たら、ローレンスお義兄さまと一緒に別館の次期当主夫妻用のお部屋へと移動することになっているの。
それとも今日の予定を執り行ううち、私にも結婚したという意識が芽生えているかしら。
すでに朝一番に婚姻の届け出は提出済みで、これから教会で私たちの結婚を祝福して頂く予定よ。
それからは親族だけで披露宴を行うことになっているわ。
領地での領民たちへのお披露目は、別日程ね。一月後だから、まだゆっくり出来そうよ。
私はお部屋を見渡した。
侍女たちにお願いして、しばらく一人で過ごせるようにして貰ったの。
もう帰って来たら違うお部屋だと思うと、沢山の思い出が溢れてくるわね。
お義父さま、お義母さまが、引き取ってくださってから今日まで。
私はいつも幸せに守られてきたことを改めて実感するわ。
いつもそこに大好きなローレンスお義兄さまがいて──。
私は目を閉じて、ひとときは思い出していたわ。
かつてのエンデベルク子爵家のことよ。
◇◆◇
相変わらず私に生家の記憶はないから、あの日が最初で最後のエンデベルク子爵家の皆さまとの思い出になっているわ。
でももうそのエンデベルク子爵家はないの。
私が結婚のため二度目の養子縁組をした直後だったわ。
降爵処分を受けて、あの子爵家はエンデベルク男爵家に変わってしまった。
同時に王家主導で代替わりもなされて、あの少年が男爵家の当主となったそうよ。
それは大丈夫かしらと、私も聞いてすぐには心配してしまったわね。
けれどそれは杞憂で終わったわ。
あの少年が成人するまでは、王家が後見として領地を管理することになっているそう。
そして彼が成人しても、立派に当主が務められると王家がその実力を認めるまでは、王家の管理が継続されることも決まっているそうよ。
だから今は、あの少年が立派になられるよう祈るばかりね。
それからあの三人の令嬢たち。
彼女たちも無事に結婚されたと聞いたわ。
どの方も貴族ではない家に嫁がれたそうだから、もうお会いする日も来ないでしょう。
おかげさまで次代に対する心配ごとも各段に減ったところね。
皆さまどうぞお幸せにと、心より祈っておくわ。
隠居した先代当主夫妻。
お二人に関しては、領地の田舎に引っ越されたということしか知らないのよね。
生家と言っても、もう他家のことですもの。
それほど詳しく知る機会はないわ。
それでもお義父さまも、お義母さまも、それにローレンスお義兄さまも、すべてご存知なのでしょうね。
いつまでも守られていたら、私だけ家族でないみたいで嫌だわ。
立派な侯爵夫人になりたいから、私にも知らせてくださるよう、またお願いしてみましょう。
だって今日からは──。
◇◆◇
扉が叩かれ、キーラの目がゆっくりと開かれた。
窓からの明るい日差しが、扉から入って来たよく知る人をはっきりと照らしてくれる。
「まぁ、お義兄さま。とても素敵な装いね。お迎え嬉しくてよ」
「私はまだキーラのお義兄さまかい?」
ふふ。わざとではないのよ。
どうしても自然と出て来てしまうの。
だってもう何年も、あの日からずっとそう呼んで来たのだから。
まだ『にぃ』としか言えなかった日。『おにいたま』と呼べて嬉しかった日。『おにいさま』とはじめて美しく言えた日。
全部覚えているわ。
本当にありがとう。ローレンス。
ずっと側にいて、愛してくれて。
私も心からあなたを愛しているわ。
ずっと前からよ?
そっと手が取られ、手袋越しの指先がローレンスの口元に長く置かれた。
そんなに優しく触れられたら。
もうお義兄さまとはとても呼べないわね。
心の中で最後にもう一度だけ、感謝を伝えることにいたしましょう。
これからは二度と思い出すこともないように。
あなたたちのおかげで、私は今日無事に結婚し、義理ではない家族が出来ましたわ。
とことんご縁はございませんでしたけれど。
皆さま、どうぞご機嫌よう!
【完】
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